第22話 巨大自動工場の中
まさか本当に動くとは思わなかった……。
驚いている俺をミナは不思議そうに見る。
「どうしたんですか? 早く入りましょう」
「あ、ああ」
工場の中に入る。
夜なのもあって何も見えないほど暗い……所々にランプの明かりがあるくらいだ。
入り口は自動で閉まった。
窓は植物の蔓などで塞がっており、月明りすら入ってこない。
何か道具がなかったかとバッグを下ろそうとすると、ミナが手持ちランプを灯す。
どうやら先に準備をしてくれていたようだ。
ランプのおかげで周囲が見えるようになった。
工場の中は植物に浸食されている様子はない。
「空調はあるみたいですけど、ごく普通のものですから中もウィルスに汚染されてますね……」
「これは脱がない方がいいってわけか」
「はい」
探索するならスーツを脱ぎたかったのだが仕方ない。
「電気の供給は維持されているみたいです。どこかに照明のスイッチがあるはずなんですが」
「普通は入ってすぐのところだよな」
ユーザビリティを考えれば近くにあるはず。というかないとおかしい。
それらしいものを見つけたので、スイッチをオンに切り替える。
すると天井の照明が稼働して一気に工場内が明るくなった。
「いくつか壊れてますね。でもこれなら安全に探せそうです」
「そもそも照明がまだ動くのが驚きだ」
本当にこの工場は長年維持されていたんだ。
だが工場内では音がなく、ロボットも動く様子はなかった。
二人で軽く見て回る。
途中でフォークリフトを発見したが、鍵を回しても動かない。
恐らくバッテリーがダメになっているようだ。
工場の一部とみなされなかったのか、そもそも朽ちかけている。
「メンテナンスを担っていたロボットたちも稼働限界を迎えていますね。……お疲れ様」
「人間がいなくなっても、ずっとこの工場が動くようにしてくれていたのか」
「はい。いつ人間が帰ってきてもいいように」
もし彼らがいなければ、この工場も他の建物と同じように植物に潰されていただろう。
ロボットの頭を撫でて俺もお礼を言った。
できれば彼らの貢献を無駄にしないためにもなにかここで収穫があればいいのだが。
「あ」
「どうした?」
「あっちは食品を製造していたみたいですよ」
「なんだ、腹が減ったのか?」
「えっ。ち、違いますよ、もう!」
ミナが指さした方向には食品工場エリアへ向かう通路があった。
探しにきたのは車だ。
携帯食料も十分に用意してあるのでわざわざ探す必要はないと思った。
「そうじゃなくて、食品を作ってる場所なら滅菌室があるはずです」
「ああ、そういうことか」
スーツを脱いで休める場所があるかもしれない。
ミナの言った通り、食品工場エリアに入る前に滅菌室があった。
消毒室と同じように蒸気が噴出され、滅菌が行われる。
それが終わったら次の部屋に移動した。
「この部屋はウィルスの反応がありません。スーツを脱いでも大丈夫ですよ」
「ふぅ」
スーツを脱ぐ。
開放感が凄い。
ミナもスーツを脱ぐと一息ついていた。
「この部屋から工場の中枢システムにアクセスできるみたいです。ちょっと色々調べてみましょうか」
「そんなこともできるのか」
部屋の端末を起動させる。
OSが立ち上がり、管理メニューが表示された。
しかしIDとパスワードを要求される。
ミナが自分の端末と工場の端末を繋ぎ、何かを入力する。
「ちゅうちゅうたこかいなっと」
「なんだそれ」
「分からないですけど、ハッキングの時はこういうと上手くいくらしいですよ?」
「そんなばかな」
ピッという音と共に端末のセキュリティを突破する。
ミナのスキルはこんなこともできるのか。
デルタが警戒して荷物を取り上げるわけだ。
シェルターでこんなことをされたら堪らないと判断したのだろう。
「言っておきますけど、悪用はしてませんからね! ……緊急時に仕方なくやってるだけですから」
「まあいいんじゃないか。咎める人ももう地上には残ってないさ」
地上では法律すら意味をなさない。
誰が裁くというのか。
管理AIに管理されたシェルターならAIがその役割を果たすだろうけど。
「なるほど……この工場の状態が大体わかりました。あ、ありがとうごさいます」
ミナに飲み物を渡しながら端末を覗き込む。
パッと見では全然分からない。
赤い文字は多分何かしらトラブルがあったところか。
「凄いですよ。工場の半分近い機能がまだ生き残ってますね。ただ……メンテナンスや修繕の為に蓄積されていた資材を使い切ったみたいです」
「ああ、そうか。地上から人間がいなくなったからいくら自動でメンテナンスできてもその資材が補充がされないんだ」
稼働を停止したロボットも自分ではなく工場に資材を優先したのだろう。
もし資材の補充がされ続けていたら完全な状態で残っていたのだろうか。
「駐車場にトラックや自動車が残ってますが、メンテナンスを受けずに百年以上放置されているので確実に動きませんね」
「困ったな……せっかく工場はあるのに」
デルタに資材の一部をくれるように頼んでみるか?
いや、無理だな。
車を提供するのと実質変わらない。
「うーん。どこかに残ってたりはしないかな」
ミナは工場のあらゆる部分を調べていく。
すると、一ヵ所資材が残っている場所があった。
「ここ、ここに通路が塞がってて資材が手付かずの部屋があります」
「工場奥か。通路の修理ができないと判断して放置されたみたいだな。見てみる価値はあるか」
「ですね。今から行きますか?」
「いや、一度しっかり休もう。ここを出たらまたスーツを着なくちゃいけないし、疲れるだろう」
「分かりました」
寝袋を用意し、簡単な食事を済ませて仮眠をとることにした。




