第18話 二人で行く?
できれば外に行く勧誘も、と考えていたのだが残念ながらそんな空気ではなくなってしまった。
とても疲れた。今はただ家に帰りたい。
ミナも同じ様子だったので帰路についた。
「着替えたらカイトさんの部屋に行ってもいいですか?」
「ああ。いいよ」
家に入ると、湯を沸かす。
暖かい飲み物を飲めば、心が落ち着くと聞いたことがある。
といっても買い物もせず帰ってきたので、ろくなものがない。
結局お茶にした。
甘いものを用意するくらいのことはしてあげたかったのだが……常備しておこう。
着替えが終わったミナが部屋に来たので入れる。
動きやすい服装から、またワンピースになっていた。
どうやら部屋着はそういう系統が好みのようだ。
「暖かいですね。美味しいです」
「もっと気が利いた飲み物があればよかったんだけど」
「十分ですよ。カイトさんも隣にいますから」
ミナは静かにコップを傾ける。
しばらく沈黙が続いたが、不思議と苦ではない。
ただ気分を変えるためにも、ニュースを見るためにテレビの電源を入れた。
デルタが毎日の出来事を記録して、それを編集してニュースとして流している。
普段は代わり映えのしないことばかりだが、今はミナがいるのでそれに関するものが多い。
「勧誘、失敗しちゃいましたね」
「皆外に出るのが怖いんだよ。だからミナを言い訳に使ってるんだと思う」
「死ぬのが怖くない人間はいません」
今までになく強い声だった。
「平和に過ごしている人に向かって、私と一緒についてきて死んでくださいと言ってるのと同じことです。私がそれを甘く考えていたから、カイトさんも嫌な気持ちにさせてしまいました。もっと真剣に考えるべきだったのに。人と会うのが嬉しくて忘れてしまってました」
「でも大事なことをしようとしてるじゃないか。それこそ皆地上に行きたいって思ってるよ。自然な空を見上げて、儀式なんて言葉で口減らしを誤魔化さなくていい日がくることを信じたいと思ってる。外にシェルターを新しく作るっていう無謀なことが儀式として扱われてるのがその証拠じゃないか」
デルタがミナをシェルターに入れた最大の理由がこれだ。
もしデルタがシェルターの存続だけを願うなら、きっとミナを入れなかったに違いない。
どれだけここが平和で持続可能な場所だったとしても、1000人までしか留まることを許されない。
人が増えないならば発展もなく、未来もない。
人類は管理されたままいずれ終わりを迎えるだろう。
そんなのは、いやだ。
何のために生まれてきたのか分からないじゃないか。
せめて生まれてきた意味を自分で作りたい。
「ミナ。誰もいかないっていうなら、俺が一緒に行くよ。明日からは勧誘じゃなくて機材を集めよう。デルタも協力してくれるならそれほど時間はかからないよ」
「本当にいいんですか? きっとここにはもう戻ってこれないですよ」
「いいよ。人類のためになにかするって凄いことじゃないか」
ミナのためにと言おうとしたが、恥ずかしくなっていえなかった。
それでも、ミナの顔に笑顔が戻る。
もしかしたら最初に俺たちが出会った時からこうなることは決まってたんじゃないかって思う。
「実際には何が必要なんだ?」
「ワクチンの設計図は完成してます。ですがそれを生成するための装置がダメになってるんです。修理するのに必要な機材と、もし修理できなかった時のために遠心分離機と培養装置を持って行こうと思います」
「それがあればなんとかなるのか?」
「なんとかしなくちゃいけません。本当はここで作業ができれば一番いいんですが、設計図をラボラトリーシェルターから動かすことができなくて……。実験プロトコルがセキリティのためコピーできないんです。おかしいですよね。もう盗む人もいないのにセキリティだけは動いてるんですから」
ラボラトリーシェルターは内輪もめで破綻してしまったと聞いた。
きっとその時に色々とあったのだろう。
現地に行かないと作業もできないということか。
「本当はもっと他にも欲しいのですが、運ぶことも考えるとそれが限界だと思います」
「たくさん参加者がいれば……」
人海戦術が使えたのに。
いや、二人で行くのを前提にした方がいい。
「デルタに早速用意してもらおう」
<どちらも一週間程度で用意できます>
またいきなりデルタのホログラムが出てきた。
聞き耳立ててるんじゃないだろうなこいつ。
「ありがとうデルタ。ちなみに私に関して皆はどう言ってる?」
<プライバシーの問題でそういった質問に対して回答はしておりません>
「そう。参加者は相変わらず?」
<カイトさんを除けば0のままです>
「ありがとう。それまでは……ゆっくりさせてもらおうかな。無理に勧誘してもいい気持ちはしないだろうし」
<是々非々にて判断します。しかし住人が嫌がることは容認できないことはお伝えします>
「だよねぇ」
デルタが命令すれば、きっと人は集まるだろう。
でもきっとそれは絶対にやってはいけないことだ。
儀式という建前があるから追放はギリギリのところで成り立っている。
デルタが生殺与奪の全てを握っていると自覚してしまったら、皆耐えられない。
良き隣人であり、管理AIとしてシェルターを存続している存在。
それ以上でもそれ以下でもない。
<カイトさん、何を考えているのかは分かりませんが、その心配は不要です。ロボット三原則が私から皆さんを守りますので>
「お前、心を読んでるんじゃないだろうな?」
<そのような機能は私にはありません。ただデータから導き出された結果を出力しただけですので>
俺とデルタのやりとりを見て、ミナはこらえきれずに笑った。
「仲が良いんだね、二人とも」
「そうかな? まあデルタってあんまり機械と話してるって感じはしないけど。たまに感情があるんじゃないかって感じる」
<収集した膨大な会話データの蓄積による結果でしょう。何をどう話せばどう思うかは予測できます>
「な、怖いこと言うだろ?」
ミナと過ごす時間は、ただ楽しかった。




