第17話 受け入れられない者
排他的、という言葉はフィクションの中だけだと思っていた。
このシェルターの中はずっと平和だったし、皆協力して今までやってきたからだ。
仲間外れになるやつはいなかったし、デルタのよる監視が行き届いていたので安全だった。
だがそれはデルタシェルター内の者に限る、ということだったのだろうか。
カワハタ先輩の態度は正直なところショックだった。
あの人とは仕事を始めてからずっとコンビを組んでいたが、気の良い先輩であんなことを言うとは今でも信じられない。
明らかにミナのことを部外者として扱っていた。
なにか悪いことをするんじゃないかと怪しんでさえいたと思う。
ミナと少し一緒にいればそんなことはないと分かると思うのだが、あの様子では聞き入れてはくれないだろうな。
しかも俺を心配してくれていたのが余計にどうしようもない。
きっと先輩が突然何か変わったというわけじゃないんだ。
彼にとって俺は仲間で、ミナはそうじゃなかった。
ミナという来訪者にたいして身を守るために防衛反応が起きたと見るのが正しいだろう。
先輩だけではなく同僚の人たちも似たような感じだった。
もしかするとああいう反応の方が一般的なのか?
ふとミナの方を見ると、顔を伏せていた。
俺はそれを見て、自分のことしか考えていなかったことに気付く。
話は聞こえていなかったはずだが、話をしている様子だけでも雰囲気は伝わってしまったと思う。
先輩や同僚の態度もよくなかった。
俺なんかよりもミナの方がよっぽど傷ついたはずだ。
ショックを受けている場合じゃない。
「気にしないで下さい」
何か言おうと考えていると、ミナが顔を上げた。
ただ目尻が少し赤い気がする。
「もしかしたらこうなるって可能性は考えてました。ここが上手くいっていればいるほど、私みたいな部外者は必要とされていないでしょうから。カイトさんが良くしてくれるだけでも本当に嬉しいですよ」
「だからってミナは何も悪いことはしてないのにあんな態度はどうかと思う。いい人たちだと思ってたんだけど……」
「いい人たちですよ。カイトさんもそんなこと思わないで下さい。あの人たちはただ少し怖いだけなんです」
納得はできなかったが、ひどい態度を取られたはずのミナがそう言うのならこれ以上俺がどうこうは言えなかった。
試しにコミュニティルームを改めて確認すると、かなり荒れていた。
普段は書き込みがほとんど無いのにログが常に流れている。
このコミュニティルームは匿名性がないにもかかわらずこれだけログが流れているということは、相当な人が参加していることになる。
チャットの内容は……あまり肯定的とはいえなかった。
ただせっかく外から来た人を歓迎しようという意見もそれなりにあったのが俺にとっては救いか。
ミナはこのデルタシェルターで全く歓迎されていないわけではない。
全体の意見としては、やはり人口のカウントがミナが来たことで一つ増えたことで儀式が早まることへの懸念だった。
デルタがミナはそうなったら出ていくとちゃんと説明したにもかかわらずこれだ。
外部の人間のせいでデルタシェルターの人間が割を食うのは許せないといったところか。
なるべく早く出ていって欲しいという直接的な意見すらある。
このシェルターの知らなかった部分をまざまざと見せつけられている気分だ。
こんな一面があるとは思わなかった。信じたくない。
コミュニティルームに悪意のある言葉を書き込んでいる人たちにとってはミナは人間ではないのだろうか?
こんな酷い言葉を書くなんて、画面越しに言葉を受け取る相手がいるということを忘れているとしか思えなかった。
一線を超えるものはデルタが逐一削除している。
また警告文も表示された。
その影響もあってか勢いは大分収まっているようだ。
もしミナを追い出せという論調が全体に広まったらと考えるとぞっとする。
このコミュニティルームのことはミナには絶対に教えないようにしよう。
「何を見てるんですか?」
「えっと」
心臓が跳ねた気がした。
慌てて端末を隠す。
「なんで隠すんですか? 気になります」
「か、隠してなんかないよ」
バレバレの嘘だったが、ミナは追及してこなかった。
何かを察したのかもしれない。
「そうだ。志願者がいないかデルタに聞いてみよう」
「昨日の今日ですからいないと思いますけど……」
「いいからいいから」
コミュニティルームは荒れていたが、俺と同じように協力しようという人は少数でもいるかもしれない。
デルタに確認してもらったが……。
<志願者は0となっております>
「そうか。こんな機会滅多にないんだけどな」
なんせシェルター外からの接触は170年振りだ。
歴史的なことだと思うんだけど、俺が変なのだろうか?
女性二人組が話しながら歩いているのが見える。
声はそれなりに大きい。
「あれ、どう思う?」
「怖いよね。地上からきたなんて、喋るだけでウィルスに感染しそう。なんでデルタはさっさと追い出さないんだろう」
「こういう時はAIなんだなって思うよ。まあ1000人まであと少しだし、長居はしなさそうだからちょっと我慢すればいいけど」
話の内容からミナのことを言っているのが分かる。
まるでミナがウィルスかのような扱いだった。
すれ違った後に文句を言おうとしたが、ミナが強く手を握ってきたのでミナへと振り向く。
ただ首を横に振るだけだった。
こっちに気付いた二人組は、不審そうな顔をした後に歩いていく。
本人に聞かれたとすら思っていないようだ。
「言い返すべきだ。あんなの許せないだろ」
「やっぱり優しいんですね。でもいいんです。このシェルターの平和を乱しているのは私なんですから」
「ミナがやろうとしていることすら知ろうとしないであんなことを言ってるんだぞ」
「でもカイトさんが分かってくれている」
ミナは両手で俺の手を包み込んだ。
「私にとってはそれだけで十分すぎるほど救われているんです」
ミナの目は一切迷いがなく、俺の魂までも貫くような視線の強さだった。
俺はただただ彼女の崇高さを見つめることしかできない。




