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その日の夕方。いつものより遅い時間。私は庭へと向かった。

(あら?)

 小屋の前に、ネロの姿がない。胸がざわつく。

(あの嫌な予感)

 足を速める。すると木立の奥、普段は近づかない訓練用の場所で、人集りができていた。そして、その中心に、ネロ。

「やめてください」

 いつもの彼とは違う、切迫した声。

「今更、愁傷にしても遅いんだよ。野良犬」

 嘲の声が上がる。私は木陰に身を潜めた。

(……これ)

 知っている。ゲームの中であった、ネロのイベント。でも——

(こんな、早い時期に?)

「お嬢様に取り入ってるんだろ?」

「ご機嫌取りが上手いよなぁ」

「さすが野良犬。媚びるの得意なんだな」

 言葉が、容赦なく投げられる。ネロは何も言わない。ただ、拳を握っている。

 だって弱味を握られてるから。

「——何をしているの?」

 全員の動きが止まる。

「お、お嬢様……!」

 使用人たちの顔色が変わる。ネロだけが、驚いたようにこちらを見た。

「説明なさい」

 私はゆっくりと歩み寄る。視線は、他の使用人たちへ。

「これは、どういう状況なのかしら?」

「い、いえ、その……」

「そう。わたくしに説明できないことをしてたのね?」

 一瞬、沈黙。そして私は、にっこりと微笑んだ。

 ネロの腕の中には黒毛の子犬がいた。

 これが彼の弱みだ。



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