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いつもの森の中。木漏れ日がやわらかく差し込んでいる。ネロは草原に腰を下ろし、私はその膝の上に身を預けていた。まるで幼い頃に戻ったかのような光景。けれど、私たちの関係は、あの頃とは確かに変わっている。

「ベアトリスお嬢様」

 口付けの雨が私に降ってくる。額に、目元に、頬に、ーーそして忠誠を示すよう手に。

なんて幸せな午後なのかしら、とネロの腕の中で私は思う。

「……ネロ」

 名を呼べば、すぐに視線が落ちてくる。

「はい」

 短い返事。けれど、その声音はどこまでも柔らかい。

「少し、やりすぎじゃなくて?」

 くすりと笑えば、ネロはほんのわずかだけ眉を寄せる。

「足りません」

「まあ」

 即答に、思わず目を細める。

「貴方、欲張りね」

「ええ」

 迷いはない。

「貴方に関しては」

 そのまま、もう一度――今度は頬に、ゆっくりと口づけが落ちる。優しく。けれど、逃がさないように。

「……本当に」

 小さく息をつく。

「昔は、こんな子じゃなかったのに」

「昔からです」

「嘘ね」

「いえ」

 ネロは静かに首を振る。

「抑えていただけです」

 一瞬、言葉を失う。それから――

「……そう」

 ふっと笑う。

「じゃあ、これが本性?」

「はい」

 視線が絡む。

「貴方にだけ見せるものです」

 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

「ずるいわね」

「何がでしょう」

「そんなこと言われたら」

 指先で、彼の頬に触れる。

「逃げられなくなるじゃない」

 ネロは、ほんのわずかに目を細めた。

「逃がしません」

 低く、確かに。けれどその声は、どこか穏やかで。

「……知ってるわ」

 くすりと笑う。そのまま、少しだけ身を寄せる。鼓動が、すぐ近くで響く。

「お嬢様、愛しています」

 呼ばれる。優しく。逃がさないように。

「ええ、わたくしもよ」

 その一言で、十分だった。言葉にしなくても、分かっている。この距離も、この温もりも。もう、失われることはない。木漏れ日が揺れる。風が、そっと髪を撫でる。世界は静かに動き続けているけれど――この場所だけは、変わらない。

 あの頃のままで。そして、あの頃よりもずっと深く。二人は、ただそこにいた。

 これが私、ベアトリス・モリアーティの悔いのない人生。


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