18
「場所を変えてもよろしくって?」
ヒロインちゃんに尋ねると彼女は静かに頷いてくれた。
「ずっと貴方とお話ししたいと思っていた、と言ったら信じてくれるかしら」
アイリーンは一瞬だけ視線を揺らしてから、静かに答えた。
「……半分ほどは」
「あら」
思わずくすりと笑みが零れる。
「正直なのね」
「嘘をつく理由がありませんので」
淡々とした返答。感情は薄い。でも——ちゃんと人を見ている。真っ直ぐに。
ゲームではわからなかった彼女の理知的な面。
「では、残りの半分は?」
軽く首を傾げる。
「……理由があるはずだと」
短く、しかしはっきりと。
(ええ、その通り)
内心で頷く。
「ウィキンズって名前に聞き覚えあるかしら」
「!」
一歩、距離を詰める。
「話が早いわね。弟さんなんでしょ」
彼女は逃げない。ただ、驚愕に瞳が戦慄いている。
「貴方に聞きたいの」
声を少しだけ落とす。
「——今の自分の立場を、どう思っているのか」
沈黙。風が揺れる。遠くで、かすかに軋む音。
(……ネロ、ね)
気にしないふりをして、視線は逸らさない。
「……光栄だと、周囲は言います」
やがて、アイリーンが口を開く。
「王子付きの侍女。望まれる立場だと」
「“周囲は”、ね」
やんわりと繰り返す。
「貴方はどうなの?」
ほんの少しだけ、踏み込む。アイリーンの瞳が、わずかに揺れた。それだけで十分だった。
(やっぱり)
確信する。
「——選んだわけでは、ありません」
かすかな声。けれど、確かにそこにあった。
「そう」
ゆっくりと頷く。
「なら、話は簡単ね」
私は微笑む。悪役にぴったりな笑顔で。




