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17※アドラー視点
赤くなった耳朶。その反応に満足しながら、ふと視線を後方へ流す。御者台。そこにいる青年は、微動だにしていなかった。——いや。
(凄い殺気だな。庭師としては失格なくらいに)
手綱を握る指先。わずかに白くなるほど力が入っている。さっきから聞こえていた破壊音も、おそらく偶然ではない。
(なるほど)
口元が、わずかに緩む。
(随分と分かりやすい)
感情を殺しているつもりなのだろう。主人の前で取り乱すことを、良しとしない躾けられた犬。けれど——
(視線が素直すぎる)
一瞬だけ、目が合った。冷たい。だがその奥にあるのは、はっきりとした敵意。
(僕に向けているのか)
面白い。くすり、と喉の奥で笑いが零れそうになるのを抑える。
(番犬、か)
いや——
(飼い主以外には懐かない野生の、猛犬)
再び視線をベアトリスへ戻す。何も気づいていない、という顔をしている妹。その背後で、静かに熱を孕む存在。
(退屈しなさそうだ)
「……さて」
何事もなかったかのように声を整える。
「アイリーン。話は聞いてたよね。お姫様がお呼びだよ」




