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ウィキンズの〝赤毛同盟〟の話。それはまさにパズルのピースが当て嵌まるように、私の直感が告げていた。ベアトリス・モリアーティの破滅の原因の一端だと!

(思えばあのゲームスチルの黒装束の男たち!顔は見えなかったけど、赤い髪の毛をしていたわ)

 ベアトリスが主人公を貶める為に裏取引をしていた者たちだ。一介の令嬢が何故そんな組織と、と思っていたがそこはそれ。悪のモリアーティ家クオリティで疑問に思い辛かったのである。

(この時期にベアトリスに接触があったのね。でも彼等の目的って?)

 ベアトリスの破滅のパターンを思い返してみる。

(確か——三つ)

 一つ。裏で動かしていたはずの者たちに裏切られること。

 二つ。証拠を握られて、社交界で一気に転落すること。

 三つ。——お兄様に、切り捨てられること。

(どれも最悪ね)

 けれど、今なら分かる。

(“赤毛同盟”は、その全部に関わっている)

 喉の奥が、ひやりと冷える。

(利用しているつもりで、利用されていた)

 ベアトリスはきっと、彼らを“駒”だと思っていた。でも実際は——逆。

(……だから破滅した)

 ゆっくりと、息を吐く。ネロが味方でなかった。それもきっと大きいだろう。

(なら、やることは一つ)

 視線を上げる。地面に押さえつけられたウィギンズと、その背後に立つネロ。

(先制攻撃よ)

「……で?信用しろってか」

「いいえ」

 即答する。

「信用なんて必要ないわ」

 少しだけ声を落とす。

「裏切るなら、殺すだけだ」

 私に代わりにネロが言う。

「貴方の姉。——アイリーン」

 ほんの一瞬、間を置く。

「わたくしが、王宮の中から引きずり出してあげる」

 沈黙。ウィギンズの瞳が、見開かれた。



「本当に?」

 その声は、まだ変声期前のものだ。そこで私は初めて彼がまだ幼い少年であることに気づいた。

「ええ、だからこんな手荒なことをしなくとも手伝ってあげるわ。そもそも悪いのは、貴方からお姉さんを取り上げた王宮なのだし」

「あんた、本当にお貴族様?物分かりが良すぎやしないか?」

「あら。わたくし、柔軟な発想で有名なのよ。知らなくって?まぁ、モリアーティ家に常識を説くだなんて、笑っちゃうけどね」

「わぁ」

 感嘆とも呆れともつかないウィキンズ少年の声に、私はくつくつと笑う。

「アイリーンのことは知ってるわ。彼女、寡黙だからあまり本心が見えないけれど、いい娘ってのはわかる。きっと貴方の為を思って彼女は王宮に留まっていたのね」

 自信を持って断言するとウィキンズはむず痒そうに足元に視線を落とした。幼少の頃に引き離されて以来会っていない姉。その心の内まで読むのは難しいだろう。

「わたくしが中から手引きしてあげるわ。いい、その代わり貴方はーー」

 そこでそっと私は少年に耳打ちした。赤毛同盟を裏切るのよ、と。




「お嬢様。あの少年の言うことを間に受けるのですか」

 ウィキンズが去った後、ネロが眉根を寄せて苦言を呈した。

「信憑性はあったわ。この頃、王宮付近で怪しげな動きがあったのも事実」

「しかし」

「わたくしが、その渦中に巻き込まれそうになっていたのもそうね」

「!?」

「今日、ネロがいてくれなきゃわたくしはもしかしたら彼等の手駒になっていたかもしれないわ。世間知らずの令嬢ですもの」

 ネロの手が知らず私の手と重なる。熱い。普段の冷静な彼らしくない熱だった。

「モリアーティ家の我が儘娘。それが世間の評価。マリオネットにはちょうど良い人材よね」

「お嬢様。そんなーー。させません、決してそのようなことは。俺が、いる限り」

「えぇ。わかってる。わたくしだってそんな運命、嫌よ。ーー貴方がいてくれて良かった」

 ぐっとネロに抱き寄せられる。ネロは、彼らしくもなく震えていた。いったい何が怖いのかしら。月の光だけが、私たちを照らしていた。




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