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「お嬢様、淑女にあるまじきお顔になっていますよ」とジェームズのお小言を頂くこと数時間。私の思考はまさに宙を彷徨っていた。
ネロに抱き締められた。ネロに?ネロにだ!
そしてその後ーーー、
(ぇええええ〜〜)
「親愛!?いえ、ネロに限って違うわよね!」
つまりそういう意味である。ばたんっ、と寝具に突っ伏した。
「お嬢様、はしたないですよ」
「今はそれよりもわたくしの心配をなさい!」
ジェームズがため息をつく気配がする。見なくてもわかる、あの“やれやれ顔”。
「では、そのお心の内を整理なさってはいかがですか」
「貴方に何がわかるって言うのかしら!?」
「ええ、存じております」
「なんで知ってるの!?」
「お嬢様は大変わかりやすくお戻りになりましたので」
ぐっ、と言葉に詰まる。そんなに顔に出ていたのかしら。いや、出ていたわね。絶対に。
「……でも、ネロよ?」
「はい」
「わたくしを」
「はい」
「これって、どういう意味なの」
ぴたり、とジェームズの動きが止まる。それから、わずかに目を細めた。
「一般的には」
やけに丁寧な前置き。
「庇護、祝福、あるいは——所有の印、とも言われますね」
「所有!?」
思わず椅子から立ち上がった。
「な、ななな何を言っているのジェームズ!そんな物騒な!」
「お嬢様の周囲は元より物騒でございますが」
「それはそうだけど!」
頭を抱える。
「いやいやいや、でもネロよ!?あのネロよ!?膝にも乗せてくれなくなったネロよ!?」
「ええ」
「そのネロが所有!?」
「ええ」
「……っ」
言葉が詰まる。ありえない、と言い切れない自分がいる。
「……お嬢様」
ジェームズの声が少しだけ低くなる。
「お一つ、よろしいですか」
「な、なによ」
「私は兼ねてより、あの野犬ーー失礼。お嬢様の飼い犬が手を噛むのではないかと常々、忠告して参りました。私の心配が現実になっただけかと。まさに〝ほら、見たことか〟でございます」




