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ジャンヌ――私の知らない昨日を、私たちは生きた  作者: parupuntist


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第二章 知らない故郷

 リリィは、受付へ出した作業票を見つめていた。

 レティア。

 仕事を受けるときも、部屋代を払うときも、毎日の暮らしで使う名前だ。

「レティアさん。お呼びするときも、そのお名前でいいですか」

「はい。……お願いします」

「わかりました。まず、腕を診てもらいましょう」

 窓口の人は名前を控え、傷のある腕へ目を移した。

 記憶帳には、十時三十八分、レティ、とある。旧保守区画を出た。腕に傷。ライと通報へ行く。

 リリィがおぼえているのは、朝、髪を直したところまで。ライが来るまで起きていたかったのに、会えずに交代してしまった。

 それだけで腹が立っていた。なのに今、彼の作業着には血がついている。

 市の紋章の下に、事故受付の案内がある。待合室には破れたバッグを抱えた老人。となりの列では、水道が壊れたという人が順番を待っていた。

 時刻は、十一時四分。

 窓口の人は奥の救護室へ連絡を入れ、リリィへ椅子を勧めた。それからライへ向き直る。

「現場には、まだ動いている機械があるんですね」

「銃口のついた四脚機です。旧保守区画の、サーバー室まで入ってきた」

 ライは許可票と、入口で撮った写真を見せた。

 受付の人の指が、止まる。

 次の瞬間には、通報票の分類が変わっていた。

「保安の担当へ、立入停止の連絡を出します。現場を調べてもらいますから、お二人は戻らないでください」

 ライが、長く息を吐いた。

 右手を開くと、爪の跡が残っていた。リリィはそこで初めて、強く握っていたと気づいた。


 救護室で袖を切られると、傷は思っていたより長かった。

 前腕の内側を、斜めに走っている。

 医療員が傷のそばをたしかめた。

「指は動きますか」

「はい。でも、曲げると痛くて」

「いつ、傷ができましたか」

「切れたところは、あたし、おぼえていません。ライは同じ部屋にいました」

 医療員は、おぼえていない時間があると書き留め、ライにも尋ねた。

「金属片が飛んで、左腕に当たりました。そのあと、床下へ逃げたんです」

 ライが答えると、医療員はメモを足した。

「ほかにも具合の悪いところがあれば、教えてください。いつもの相談先にも、メモを渡せます」

 リリィは、二人の話を聞きながら、自分の腕を見ていた。

 今朝、髪へふれた手だった。

 傷ができたところを見ていなくても、自分の左腕だった。リリィは曲げかけた肘を戻した。

「傷の処置をします。痛みが増したら、教えてください」

 医療員はそういってから手を動かした。

 白い保護シートが傷を覆った。医療員が、外した血まみれの布を袋へ入れる。

「現場の調査に残してもいいですか」

 リリィはうなずいた。

「処置の記録、もらえますか」

「受付の控えにつけますね」

 知らないことを、これ以上増やしたくなかった。


 救護室を出ると、灰色の上着を着た男が待っていた。

 胸の札には、技術調査とある。

 受付の人が、彼へ通報票を渡した。

「機器を調べてください。傷は救護室で手当てしています。現場のようすは、保安の担当にたしかめてもらっています」

「私が機器の記録をたしかめます。現場には、保安の担当に入ってもらってください」

 男は答え、通報票の端を見た。

 そこになにが書いてあるのか、リリィからは見えなかった。

「サーバーにふれたとき、首のあたりに刺激はありましたか」

「……どうして、首を?」

「旧式の接続器がある方から、まれに報告があります。安全の確認です」

 男は声を変えなかった。

 リリィは首のつけ根にふれた。体の中には古い接続器が残っている。診察のメモでは、居場所を知らせる部分は働いていないという。詳しく調べられる施設も限られていた。

 その刺激がどんなものだったかは、今の彼女にはわからない。

 ライが口を開いた。

「作業中に、首をおさえていました。本人がどう感じたかまでは、俺にはわかりません」

 男は刺激の欄へ印をつけた。

「保存した資料もありますね」

「コピーした分なら、渡せます」

 ライが作業用タブレットを出す。

「原本は残してください。なにが動いたのか、こっちもたしかめたい」

「もちろん。お二人の作業記録ですから」

 男は端末の受信欄を開き、コピーが終わるまで待った。

 リリィはとなりの救護室を見た。医療員が、彼女の記録をまだたしかめている。

 ここなら、なにかあれば聞ける。

「接続器だけ、別室でたしかめましょう。ライさんには、現場の経過を詳しく伺います。すぐとなりです」

 ライがリリィを見た。

「ひとりで、大丈夫か」

「終わったら、待ってて」

「わかった。俺の聴取が長引いたら、連絡をもらう」

 受付の人が、一枚の通報票に二人分の連絡先を登録した。

 紙の控えが渡される。名前。救護室で処置済み。

 リリィは記憶帳へ挟み、左手で短く書いた。

『十一時十六分。事故受付所。腕は処置済み。接続器の確認へ案内された。ライはとなりで事情を話す。――リリィ』

 最後の線を引こうとして、ペンが止まった。

 窓口の人の声が、遠くなる。


     * * *


 レティは、左の指に挟まったペンを受けとった。

 右手へ持ちかえ、開いた記憶帳を読む。

 事故受付所。接続器の確認。ライはとなり。

 左腕には白い保護シートがある。

 通りをライと歩いたことは思い出せる。ここへ入ったことも、手当てを受けたことも、おぼえていなかった。

「……ライ」

 彼が足を止め、こちらを見た。

「受付と手当ては済んだ。これから、接続器の確認だって」

 控えには、レティアと書かれている。

 『被験個体』ではなく、レティア。自分の名前で受け付けてもらえた。それだけで、すこし息が楽になった。

 レティは紙を閉じ、工具バッグを持った。


 検査室へ続く廊下の壁には、青い手すりがあった。

 レティは右手でふれながら歩いた。塗装が一か所だけ剝(は)がれ、指の腹へ小さく引っかかる。

 男はそこを通り過ぎ、白い扉を開いた。

 中には診察用の椅子と、端末。奥の壁には、小さな機械用の扉がある。

 レティは椅子に座り、工具バッグを足元へおいた。記憶帳を出して、受付でもらった控えを挟む。

『十一時十八分。レティ。市の事故受付所。接続器の安全確認。ライはとなりで事情を話している。』

 これで、次に起きる人も場所がわかる。レティはペンをおいた。

「すこし待っていてください」

 男は端末を起動し、いったん部屋を出た。

 廊下から、だれかを呼ぶ声がする。

 椅子の背は硬かった。

 腕の痛みが、呼吸のたびに近くなったり、遠くなったりする。

 レティは記憶帳の角をおさえた。

 紙の手触りはわかるのに、書いたばかりの文字が、意味を失っていった。


     * * *


 リーヌは、膝の上の記憶帳を持ち直した。

 部屋の輪郭が、白い光の中へ溶けている。

 左手でバッグから眼鏡を出す。かけると、取っ手も端末の字も、くっきり見えた。

 十一時十八分。

 市の事故受付所。

 ライはとなり。

 さっきの首の刺激から、ここまでの道はおぼえていなかった。

 白い傷を覆うシートを見て、指の動きをたしかめる。痛みはある。

 記憶帳へ、わかることを足した。

『眼鏡をかけた。腕は手当てされている。待っているところ。――リーヌ』

 工具バッグから、作業用タブレットを取り出す。

 最初に読むのは、ジョーンが保存した接続の記録だ。

 照合開始。応答確認。照合情報の送信。

 最後の行に、宛先があった。

 リーヌはその略号を見つめた。

 市の受付で見た表記とは違う。でも、別の部署の略号かもしれない。今は、どこの名前か決められなかった。

 見知らぬ略号の脇へ、細い印だけつける。

 廊下で足音が止まった。

 扉が開き、男が戻ってくる。

 灰色の作業着の二人が、男のうしろからカートを押してきた。男の指した、椅子の横へ止める。

 上に載った装置の端子は、今朝のサーバーのものと、よく似ていた。

「お待たせしました。調整の補助員も呼びました」

 男は二人へ、廊下で待つようにいった。

 リーヌは顔を上げた。

 体のどこへつなぐのか。尋ねようとしても声が出ず、言葉を整える間に男の顔が遠くなった。


     * * *


 レティには、部屋が歪(ゆが)んで見えた。

 まっすぐだった扉が、細く傾いている。

 顔を動かすと、机の端までついてきた。

 左の指に、眼鏡の縁がふれていた。

 レティはそれを外した。

 扉はまっすぐになった。

「見え方が変わるんですか」

 男が尋ねた。

「急に、見え方が変わることがあります。今は、かけていると見えにくくて」

「記録しておきます」

 男は端末へ手を動かした。

 レティの膝には、左手で書かれた新しい行がある。

 数分のことだった。

 読むたびに、知らない数分が増える。待っている間に、なにか聞かれたのだろうか。

 男は椅子を引き、彼女の向かいへ座った。

「いくつか伺います」

「検査は、なにをするんですか」

「まず、接続器の動作履歴をたしかめます」

 男はカートの装置を示した。

「体の中に残っている型式を、おぼえていますか」

 レティは首を振った。

「わかりません」

「では、今、だれがいる?」

 レティは、外した眼鏡を握ったまま止まった。

 なにが見えるか、とは聞かれなかった。

 ライやイネスなら、その聞き方をする。でも、この男には交代のことを話していない。

 受付で、だれかが話したのだろうか。控えには、接続器の確認としかない。

 男は平然と待っていた。別の人が答えるかもしれないと、最初から知っているように。

 最後の語だけが、わずかに高かった。

 レティの足が、椅子の下へ寄った。

 その声を、知っている。

 男の顔は知らない。それなのに、机の端を叩く指を見ていると、別の指が重なって見えた。

 答えなければ、怒られる。そんな気持ちが先に湧いた。

 でも、知らない男へ、これ以上なにかを教えたくなかった。

 どちらの考えも、口まで届かなかった。


     * * *


 エマは、右の手のひらを開いた。

 机に、血のついていない指をおく。

 息が詰まっていた。傷のある腕が、膝の上で強張(こわば)っている。

 男の胸札を読み、記憶帳のページを見た。

 安全確認。

 その四文字と、目の前の装置を比べる。

「あたしはエマ。あなたのお名前は?」

「技術調査担当のハーデンです」

 男は名乗ったあと、短くペンを動かした。

 エマは男の胸札を見直した。初めて会う担当者なのに、作業票と違う名を聞いても尋ね返さない。検査の答えの一つとして、受けとっている。

「なにをたしかめたいのか、もうすこし教えて」

 男は端末の行を一つ送った。

「接続器の型式と、以前に受けた調整の内容です」

「今の動作を調べるため?」

「不適切な応答が残っていないか、たしかめる必要があります」

 エマはうなずかなかった。なにが『不適切』なのか、説明されていない。

 男は、その間を答えの不足と受けとったらしい。

「色の異なる図形を並べる課題をしたことは。赤が消えたあとに、青を選ぶ課題です」

 右の指が、紙の縁から離れた。

 そんな課題をしたことはある。

 今朝の作業の話ではない。

「その質問と、接続器の安全には、どういう関係があるの」

「応答の順序が、設定と一致するかを見ます」

「今日の検査で、あたしに図形を選ばせるの?」

「必要なら」

 男の目が、カートへ動いた。

 図形を見せるだけなら、なぜ首へつなぐ装置が要るのか。

 ハーデンは説明せず、昔の課題を知っているか答えるのを待っていた。

 エマは記憶帳の端へ、右手で書いた。

『型式と、幼いころにした課題を聞かれた。エマと名乗っても、作業票の名とは違うことを聞き返されなかった。なぜ聞くのか、どこで資料を得たのかは、教えてもらっていない。――エマ』

「見ている資料を、あたしにも見せてもらえる?」

 ハーデンは端末をこちらへ回さなかった。

「確認が済んだら、お伝えします。出身についてですが――」

 エマは、男の口元へ注意を戻した。

 その先の言葉だけが、途切れた。


     * * *


「出身を聞いているんです。ルナ・オースリーワンで間違いありませんね」

 レティは、男を見ていた。

 ルナ・オースリーワン。

 何度も、いったことがある。

 小さいころ、住んでいる場所を聞かれたら、そう答えるようにいわれていた。

 部屋の形も、外の景色も、はっきりとは思い出せない。

 名前だけが、いつも先に出てくる。

「……その名前、だれから聞いたんですか」

 男はペンを止めた。

「照合資料にあります」

「私は、まだ、出身を話していません」

「照合資料です」

 同じ言葉が返ってきた。

 レティは、膝の上の記憶帳を見た。

 自分が知らない問いが、エマの字で残されている。

 型式。幼いころの課題。別の名前を告げても、関係を尋ねられなかった。

 レティは余白へ、『今、だれがいる、と聞かれた。私は交代について説明していない。受付で話したか、要確認』と足した。

 ペンを持つ右手が、震えた。

 首の中で、なにかが熱くなり始めた。

 また交代したら、話の続きがわからなくなる。その間に検査が進み、知らないうちに答えたことにされるかもしれない。

「待ってください」

 自分の声に、レティは驚いた。

 ハーデンの手が止まる。

「質問を、いったん止めてください」

「まだ確認が――」

「なにを聞かれたか、今の私にはわからないところがあります。わからないまま、答えたくありません」

 言い終えると、右手の爪が袖へ食い込んでいた。

 怒られるかもしれない。必要な検査に、勝手なことをいっているのかもしれない。

 それでも、うなずけなかった。

「普段、相談している医療支援先があります。そこへ、連絡してください」

 男は彼女を見た。

 すこししてから、端末を伏せる。

「連絡先をどうぞ」

 扉が開いた。

 受付で顔を見た職員が、追加の用紙を持ってきたところだった。

 レティはその人へ、顔を向けた。

「紙に、書いてもいいですか」

「はい。こちらに」

 差し出された白紙へ、右手で連絡先を書く。

 南二街区の生活医療支援室。

 いつもの相談日と、担当者へ伝えてほしい名前。

 聞かれた地名も、余白に書いた。どこで知ったのか教えてほしい、と頼んだことも。

 最後に、質問と接続検査の中断を希望します、と書いた。

 手が震え、検査の一字が、うまく収まらなかった。

 書き直さず、署名する。

「控えを、ください」

「コピーして、受付にも回しておきますね」

 職員が紙を受けとった。

 ハーデンはなにもいわなかった。

 レティは渡した紙が扉の向こうへ消えるまで、見ていた。


 職員が戻ってきたのは、そのすぐあとだった。

 レティへ控えを渡し、元の紙は、受付へ回したといった。

「支援室へ、連絡を出しています。検査の中断も受付へ登録しました。返事が来るまで、ここで待っていてください」

「ライにも――」

「お連れのほうへも、伝えます」

 その人の声は、受付と同じだった。

 職員はハーデンにも、控えを示した。

「検査は中断です。接続の確認も、支援室から返事が来るまで待ってください」

 ハーデンはうなずいた。

 レティは礼を言い、控えを記憶帳へ挟んだ。

 職員は用紙を抱え、受付へ戻っていった。

 ハーデンは端末を閉じたまま、カートの向きを変えている。

「検査も、今はしないんですよね」

「こちらの調整員を呼びます」

「止めてほしいと、書きました」

「中断の希望は、調整員にも伝えます」

 ハーデンが部屋を出た。

 白い扉が閉まる。

 次に、小さな金属音がした。

 レティは、取っ手を見た。

 さっきまで緑だった灯が、赤くなっている。

 カートの装置が、低い音を出し始めた。

『接続準備』

 文字が点いた。

 首の奥で、細い熱が脈を打つ。

 レティは記憶帳を閉じた。工具バッグへ押し込む。

 ここで待つように、といわれた。

 待てば、いつもの人へ連絡が届く。

 そう思おうとしても、右手は取っ手をたしかめていた。

 動かない。

 もう一度。

 動かない。

 椅子の脇から、体を固定する白い帯が伸びた。

 装置から出た腕が、首の高さへ曲がってくる。

 レティは壁まで下がった。

 座らされたら、なにをされるのだろう。レティは首を守るように肩をすくめた。


     * * *


 ジョーンは、動かない取っ手から手を離した。

 右の爪の端が、欠けている。

 首が熱い。椅子の横では、帯を伸ばした装置が、次に動くのを待っていた。

 眼鏡のケース。記憶帳。足元の工具バッグ。

 彼は袋を引き寄せ、挟まれた控えを読んだ。

 質問と接続検査の中断を希望します。

 レティの字だった。

 その後に、この扉が閉まった。

「頼みは聞いた。止めるとはいってない、ってことか」

 ジョーンは作業用タブレットを出した。

 カートの脇に、点検用の端子がある。壁についた新しい診察端末とは、つなぎ方が違った。

 見覚えのある三つの接点。

 ふれたくないのに、どれがなにを受け持つかはわかる。

 彼は変換アダプターを挿し、読み出すだけのモードでつないだ。

 装置の腕が、一度止まる。

 表示をたしかめる。

『接触確認、未完了』

 まだ、体にふれていない。

 ジョーンは点検モードへ切り替え、待機要求を送った。返事を待つ間、右の指が机を叩きかける。

 止めた。

 音を立てたくなかった。

 装置の腕が、すこしだけ下がった。

 同時に、端末へ警告が出る。

『上位指令の再受信まで待機』

 停止ではない。

 次の指令が来れば、また動く。

 壁の端末に扉を開ける操作を送ると、権限がないと返ってきた。装置を止めても、扉は開かない。

 ジョーンはカートの記録へ戻った。

 検査開始の時刻。

 照合要求。

 応答を待つ番号。

 その下に、照合票と、資料を開くためのアクセスキーがついていた。

 サーバー室からコピーしたデータと、保存の形式が同じだった。

 指が止まった。

 なぜ、市の検査室に、今朝のサーバーの鍵がある。これで資料が開くなら、二つの場所はつながっている。

 カートで、指令を待つ灯がまたたいた。

 いまたしかめている暇はない。

 ジョーンは読み出せる分だけを、作業用タブレットへ移した。照合票を開くのはあとでいい。

 壁の端末には、同伴者への連絡という欄があった。

 そこだけは、ふつうに開いた。

 登録された名前を選ぶ。

 ライ。聴取室。

 今度は、待つ時間が長かった。

 扉の向こうで、話し声がする。

「ハーデンさん。接続の準備は」

「受付の照会はこちらへ。接続の準備を先に進めてください」

 ジョーンは、何度も押しかけた指を止めた。呼出しを増やしても、早く出られるわけではない。

 短く、音が鳴った。

「レティ?」

 ライの声。

 ジョーンは端末へ顔を寄せた。

「俺だ。ジョーン。検査室の扉が外から閉まってる。レティが中断を頼んだあとで、接続器を動かそうとしてる」

 向こうの息が、止まった。

「何階の、どこだ」

 ジョーンは通報票の控えを見た。

「同じ階。お前の聴取室のとなり。正面には来るな、だれかいる」

 部屋の奥に、小さな機械用の扉がある。

 その横の点検図へ、目を動かす。

 検査室。隣接する機械室。その外側のメンテナンス通路。

 順に指で追った。

「機械室を通る。外側のメンテナンス通路で合流したい。そっちから出られるか」

「部屋は開いてる。受付の聞き取り担当に知らせて、廊下への行き方をたしかめる。連絡は、この通信器へ」

 画面に、ライの作業用トランシーバーの接続番号が来た。

 ジョーンはそれを保存し、部屋の図もコピーした。

 首の熱が、また強くなる。

 カートの腕が、わずかに上がった。

 指令を待つ灯が、点滅している。

「長くは待てない」

「わかった」

 通話が切れた。

 ジョーンは接続ケーブルを抜き、端末の伝言欄へ書く。

『検査室の鍵を外からかけられた。レティが中断を頼んだあとで、接続の準備が始まった。奥の扉から機械室へ、そこからメンテナンス通路へ出る。ライには連絡した。図、照合票、資料のアクセスキーを保存した。――ジョーン』

 書いている間も、低い音が床を伝わってくる。

 文字を見続けようとすると、その音ばかりが近くなった。

 彼は端末を袋へ押し込んだ。

 袋の口は、開けたままにする。

 次の人が、すぐ読めるように。


     * * *


 ミュウは、音を聞いていた。

 低い音。短く擦れる音。その上に、だれかの声がある。

 どれも、頭の中から響くようで、最初は向きを分けられなかった。

 右手で作業用タブレットを起こす。

 ジョーンの伝言。

 検査室の奥から機械室へ抜け、ライと合流する。ジョーンが書いた道を、画面の図でもたしかめた。

 鍵をかけたところは見ていない。でも、目の前のランプは赤く、装置も動き始めていた。

 ミュウは工具バッグから、小さな接触マイクを出した。機械を回収するとき、いつも使うものだ。

 壁へ当てる。

 右手で録音を始め、端末へ波形を出した。

 部屋の中の音が、ひとつの太い帯になる。

 奥の機械用の扉へ近づくと、別の周期が重なった。

 一定の間隔で回り、弱くなる。

 点検図の、換気装置の記号をたしかめた。

 壁の向こうに、機械室がある。

 換気装置の音は、図にある方向から聞こえた。ミュウは奥の扉へ向かう。

 ミュウはマイクを扉の縁へ移す。

 高い音は、そこで途切れた。

 機械室の外から、靴の踵(かかと)が鳴っている。

 だれかが待っている。

 それがライかどうかは、音ではわからなかった。

 彼女は保存された番号へ、短い呼出しを送った。

「ライ。わたし、ミュウ。機械室の向こうにいる?」

「いる。メンテナンス通路の扉の前。見つけた」

「扉を、二回叩いて」

 間をおいて、二つの音。

 ミュウはそれを録音と比べた。

「聞こえた。そこまで、行く」

 端末へ図を戻す。

 正面の廊下には、行かない。

 奥の扉を通れば機械室。その先の扉でライが待っている。

 左手で短い確認を書こうとしたが、ペンを動かすと腕に痛みが走った。

 彼女は書くのをやめ、音声を残す。

『奥の扉の向こうは機械室。その先のメンテナンス通路にライがいる。呼びかけて、扉を叩く音でもたしかめた。――ミュウ』

 録音が終わったところで、正面の扉の灯が点滅した。

 鍵が、動いた。

 ミュウは袋を持ち、奥へ下がった。

 白い扉の隙間から、影が入る。

 同じ灰色の上着。

 その手には、細いケーブルの束があった。

「椅子へ戻ってください」

 部屋の中の装置が、首の高さへ腕を上げた。

 ミュウは、その動きを見ていた。

 次にどちらへ逃げればいいか、わかっている。

 わかっているのに、足が、床へ張りついた。


     * * *


 アジーは、奥の扉へ右手をかけた。

 左腕が痛い。

 朝の傷の上に、白い保護シートが貼られている。肘を引くと、その縁が皮膚へ食い込んだ。

 バッグから、記憶帳が半分出ていた。控えにはレティの署名と、検査を止めてほしいという願い。端末には、断ったあとで鍵をかけられた、とある。

 レティが頼んだところは思い出せない。アジーは、目の前の文字で知った。

「椅子へ」

 男が一歩近づく。

「座らない。止めろっていったはずだ」

「それは、こちらへ戻ってから――」

 アジーは扉の留め具を引いた。

 鍵ではない。機械を収めるための、重い止め金だった。

 開いた図を見た。奥の扉から機械室へ、ライのところへ。ジョーンの示した道だ。

 男が腕を伸ばした。

 アジーは傷のある左腕を胸へ寄せ、体を横へずらした。

 手が、袖の端にふれる。

 引かれるより先に、右の肩で扉を押した。

 留め具が鳴り、隙間が開いた。

 体を滑り込ませる。

 機械室の床は、検査室より一段低かった。

 靴が落ち、膝が折れる。

 アジーは右手を壁へつき、転ぶのを止めた。工具バッグが床へぶつかる。腕に痛みが走り、歯を食いしばる。

 機械室へ両足を入れ、ふり返って扉を引いた。

 男が検査室側から押し返す。隙間は、まだ手の幅ほどある。

 右足を壁の根元へ突っ張り、腰を落として取っ手を引く。男が縁から手を引いた。

 扉が枠へ当たり、閉まった。

 男は検査室側に残った。アジーだけが、機械室へ抜けている。

 扉をおさえたまま、点検棒を足で引き寄せた。先を取っ手に差し込み、もう一方を床に固定されたパイプの支柱へ突っ張らせる。

 次に扉がおされたとき、棒がその重さを受け止めた。

 金属がしなる。

 手を離せたが、長くはもたない。

「ライ」

 通信器へ呼びかける。

「アタシ、アジー。メンテナンス通路側の扉、軽く押して。留め金にかかった重さを抜いてから、こっちで外す」

「今やる」

 機械室の反対側で、保守扉の蝶番(ちょうつがい)が鳴った。

 通路へ出る扉の留め金は、こちら側にあった。搬入のとき、手で外すものだ。

 アジーはその前へ走り、右手でレバーを引き上げた。

 途中で、止まる。

 扉の重さが、金具へかかっている。

 呼吸を一つ吐き、レバーをすこし戻す。

 レバーが動き始めると、ライは今度は外側へ扉を引いてくれた。

 扉の重みが抜けたところで、留め金が外れた。

 細い光が、顔へ差す。

「こっちだ」

 ライの手が、袋を受けとった。

 アジーが通路へ出ると、ライは扉を閉め、外側の止め金をかけた。点検のときだけ使う、小さな金具だ。

 検査室側から、点検棒の落ちる音がした。

「外へ、出られる?」

「廊下の先が搬出口だ。荷物を運ぶときの道。俺が出てきた聴取室の前へ、戻らなくていい」

 ライが片腕に、折り畳んだアシストフレームを抱えていた。もう片方の手で、袋を返してくる。

「受付の聞き取り担当に、ようすを見に行くっていった。席を外して構わないって、メンテナンス通路の入口を教えてくれた。お前の中断願いのことは、まだ知らなかった」

 アジーはうなずき、端末へ短く書いた。

『検査室を出た。機械室からメンテナンス通路へ。ライと搬出口へ行く。接続は拒否している。――アジー』

 通路は暗く、片側は何本ものパイプで埋まっていた。

 青い手すりに、右の手のひらを滑らせる。

 裏側に、深い擦り傷があった。

 指の腹へ、ざらついた線が残った。

 足音が、もう一つする。

 来た方をふり向くと、保守扉の隙間が明るくなっていた。

 向こう側から、扉へ体当たりする音がした。小さな止め金が、枠から浮いている。

「急いで」

 いったつもりだった。

 ライの背中が、ぼやけていく。

 手すりを握った指に、力を入れ直した。


     * * *


 レティは、青い手すりにふれていた。

 指の下が、ざらざらしている。

 つい今、その線に沿って手を動かした気がした。

 手すりに沿って歩いていたらしい。足は前へ向いているのに、どこへ行こうとしていたのかわからなかった。

 けれど、ここはどこだろう。

 明かりのすくない廊下。パイプ。遠くの白い戸口。

 検査室の椅子は、どこにもなかった。

 支援室へ連絡してくれた職員の声を、思い出す。

 返事が来るまで、ここで待っていてください。

 控えを挟んだところまでは、おぼえている。そのあと扉やカートがどうなったか、遠い音に混ざって思い出せない。

 私は、また勝手に出てきてしまったのかもしれない。

「待って」

 レティはいった。

 ライがふり向く。

「戻らないと。まだ、返事を――」

 彼の説明が始まる前に、足が向きを変えていた。

 白い戸口へ、一歩。

 そのとき、光が目へ当たった。

「いた。動かないで」

 来た方の白い戸口から、二つの灯が向いた。

「ハーデンさん。こちらです」

 灯を持つ二人は、灰色の作業着を着ていた。

 レティは、光を正面から見てしまった。

 あの人たちも、職員なのだろうか。

 戻れば、叱られずに済むだろうか。

「レティ、止まって」

 ライの声がした。

 彼は手を伸ばす前に、彼女の前へ回った。

「戻る前に、これを読んで。今の場所と、出てきた理由」

 工具バッグの口から端末を出し、こちらへ向ける。

 機械室からメンテナンス通路へ。

 ライと搬出口へ。

 接続は拒否している。

 レティは、その一行を二度読んだ。

「私が、接続を断ったの?」

「中断を頼んだんだろ。その紙も、入ってる」

 記憶帳の間に、控えがあった。

 質問と接続検査の中断を希望します。

 レティア。

 署名は、自分の字だった。

 書いたことは、おぼえている。

 そのあとの時間は、知らない。

 でも、続けたくないといったのは、私だ。

「そのあと、部屋が、閉まったの?」

「ジョーンから、そう連絡が来た。俺が見たのは、アジーが機械室から出てきたところからだ」

 ライが答える。

 白い戸口へ、灰色の人影が入った。

「検査の安全確認が済んでいません。こちらへ」

 ハーデンの声だった。

 レティはその声を聞き、工具バッグの中へ紙を戻した。

「やめてほしいと、書きました」

 声は、まだ小さかった。

 相手が答えるより先に、ライへ向く。

「ここを、出たい」

「こっち」

 ライの手が差し出された。

 右手で、それをとる。

 光から背を向け、歩き始めた。

 走ろうとすると、膝が震えた。手すりへぶつかりそうになる。

 さっき、だれかがふれたざらついた線が、右の手のひらに残っていた。

 歩いた感触だけが残っている。検査室を出たところまでは、どうしても思い出せなかった。

 今、見えている先へ進む。

 ライは、彼女の足がもつれるたびに歩幅を変えた。

「段がある。右足から」

 声に合わせて、足をおく。

 搬出口の向こうに、明るい通りが見えた。

 扉の横には、荷物を受け取りに来た人がいる。カートを押す係員も。

 ライは係員へ顔を向けた。

「検査を中断してくれない。事故受付に、本人の願いが届いてるかたしかめてくれ」

 係員が目を見開き、端末へ手を伸ばした。

 後ろの声が、言葉を変える。

「接続器の安全措置です」

 係員は男の胸札を見た。技術調査と書かれている。

「お二人を止めろとか、捕まえろとか、保安担当からは聞いてません。受付にたしかめます」

 声を聞いた配送の人が、カートから顔を上げた。

「腕に怪我があります。通路、空けてください」

 係員はカートを壁へ寄せ、道を空けた。二人を捕まえる代わりに、保安担当を呼ぶ。

「搬出口です。技術調査の担当が、けがをした人を帰らせないようにしています」

 追ってきた男が足を止めた。

「こちらの検査が――」

「本人の中断願いもたしかめます。担当者のお名前を」

 係員は胸札へ端末を向けた。

 呼出しに、別の声が返る。

『市の保安担当です。お二人を止める指示は出していません。通してください。技術調査の担当は、そこで待つように。』

 係員はレティたちへ、出口を示した。

 ライは空いた通路を進み、レティを通りへ連れ出した。

 人の声が、ひとつではなくなった。

 配送車の警笛。荷袋をおく音。店先からの呼びかけ。

 レティは、自分の手を見た。

 ライの手を、まだ強く握っていた。


 通りを曲がってから、ライが通信器を出した。

 レティは壁際に立ち、閉まっていない店の扉を見ていた。

 さっきまで、検査室へ戻ることばかり考えていた。

 今はライが、次はどこへ行きたいか聞いてくれる。

「いつもの支援室。連絡してほしい」

 レティがいうと、ライはうなずいた。

「番号は、控えにあるな」

 紙を取り出し、通信器へ写す。

 呼出しが鳴る。

 一度。

 二度。

 その間、レティは通りの角を見ていた。

 灰色の上着は、まだ来ない。

「生活医療支援室です」

 声が返った。

 レティは、息を吸った。

「レティアです。事故受付から、連絡が来ていると思います」

 向こうで、紙をめくる音がした。

「中断の希望を受けています。今、どちらに?」

 届いていた。

 自分が書いたものが、あの部屋の外へ出ていた。

 レティは住所をうまくいえず、ライへ通信器を渡した。

 ライが位置を伝えると、支援室の人が答えた。

「イネスさんの工房が近いです。連絡しますから、そちらへ向かってください。腕の手当てのメモも、医療担当へ渡します」

 レティは声を聞いている間、右の手のひらを開いたり、閉じたりした。

 今度は、なにが起きているかを、一つずつ聞けた。

 レティは記憶帳へ、支援室からイネスの工房へ行くようにいわれたと書いた。ライといっしょ。手当てのメモも、工房へ届く。

 その下へ、ハーデンの名前を書こうとして、手が止まった。

「あの人、どうして、私の故郷の名前を知ってたんだろう」

 ライが顔を上げた。

「私、教えてない。だれがいるのかも、説明してないのに」

 あの部屋からは出られた。

 どこで自分を知ったのかは、わからない。次の部屋でも、同じことを聞かれるのだろうか。

 レティは、閉まっていない店の扉から目を離した。

「持ってきた記録で、なにかわかるかな」

 ライは端末の伝言をたしかめた。画面を送る指が止まり、同じ行を読み直す。

「照合票に、資料のアクセスキー……。検査するだけの機械じゃなかったのか」

 彼は記憶帳と端末を、レティへ向けた。

「ジョーンが、そこから持ち出してる。ハーデンがなにを見ていたのか、手がかりがあるかもしれない」

「首につなごうとした機械から?」

「そう書いてある。今朝のサーバーからとった資料も残ってる。工房で、イネスといっしょにたしかめよう」

 レティは、襟の上から首のつけ根へふれた。

 仕事先で襲われ、届け出た先では首につながれそうになった。なぜ自分が狙われるのか。わからないまま、明日も仕事へ行くのはこわかった。

「知りたい。どうして私を、あの検査室へ連れていったのか」

 ライは記憶帳の空いた欄を指した。

「そのことも、残しておこう。ここで急いで調べなくてもいい」

 レティは右手で、次の人へ頼むことを書いた。

『イネスの工房で休む。ハーデンは私のことを、どこで知ったのか。持ち帰った記録を調べたい。――レティ』

 居場所といっしょに、知りたいことも残せた。

 ペンを置こうとしたとき、通りの声が遠くなった。


     * * *


 リーヌは、工具バッグの眼鏡をかけた。

 ライがとなりで足を止め、彼女が記憶帳を読み終えるまで待っていた。

 イネスの工房。そこへ行く。

 待っていた白い部屋から、この通りまでの道は、記録でしかたしかめられなかった。

 工房の扉の上では、小さな風車が回っていた。換気の流れをたしかめるための、薄い金属の羽根だ。

 入る人が立ち止まると、すこしだけ速くなる。

 作業中と書かれた札が、ひっくり返っていた。

 イネスが中から開けてくれる。

 灰色の髪をうしろで束ね、腰には工具用の布を巻いていた。いつもの姿だった。

「入って。入口の鍵は、私が閉める。内側から開けられるから、先に見ておいて」

 彼女は扉の内側の取っ手を、ゆっくり動かした。

 かかる。外れる。

 リーヌは留め金が動くところをたしかめ、工房へ入った。

 ここには、何度も来たことがある。

 回収したパーツを分ける。読みにくい仕事の依頼票を読む。次の相談日をたしかめる。

 イネスは修理の傍ら、生活医療支援室の相談にも加わっていた。記憶帳をいっしょに見た夜もある。だれがなにをおぼえているか、一から話し直さなくていい人だった。

「今、話せる?」

「リーヌ。すこしなら」

「わかった。座って。腕を楽に置けるところ、作るから」

 作業台の端から、パーツの箱がどかされた。

 折り畳んだ布がおかれる。

 リーヌは左腕を載せ、そのとなりへ記憶帳をおいた。傷が引きつれ、指が開いた。

 同じ白い部屋にいたときより、血の色が濃くなっていた。


 ライが、見たことを順に話した。

 旧保守区画の調査。無人機。事故受付。検査室から届いた、ジョーンの連絡。

 イネスは途中で何度か、だれが見たことかをたしかめた。

「わたしが見たのは、サーバーの照合と、そのあとの白い部屋。男の人が戻ってきて、サーバーと似た端子を見たところまでです」

 リーヌも、おぼえている範囲を話した。

「待っている間に、送信先を見ました。知らない略号があったけれど、どこの組織かは、まだ読めていない」

 細い印をつけた箇所を、端末で示す。

 次に、レティの中断願いと、エマが書いた質問の記録を並べた。

『今、だれがいる、と聞かれた。私は交代について説明していない。受付で話したか、要確認』

 レティの字を読むと、左の指が、眼鏡の縁へ行った。

 あの男は、自分がかけた眼鏡を見ただけで、どうしてそこまで聞けたのか。

 ライが紙を手元へ寄せる。

「受付では、俺も名前を出してない。リリィも、おぼえてない時間がある、といっただけだ」

 彼は眉を寄せ、男の問いをもう一度読んだ。

「あいつは、最初から知ってたのか」

「その可能性は、あります。なんの資料を見たか、たしかめないと」

 リーヌは答えた。

 知っている相手との話し方だった、と記録する。どこから漏れたかまでは、決められない。

 イネスは二枚の紙をコピーした。

「質問の仕方も、照会に入れる。支援室から、検査を受ける前にあなたたちの事情を渡したかどうかも、たしかめてもらう」

 リーヌはうなずいた。

 記録は読める。でも、名前を聞かれたときのレティの声は、思い出せなかった。

「おぼえてないなら、おぼえてないっていえばいい」

 ライが、記憶帳の空白を指した。

「俺が見たところは話す。わからないところは、いっしょにたしかめよう」

 リーヌは、まだ埋まっていない時刻欄を見た。

 サーバーの床から、受付の椅子まで。白い部屋から、ここまで。

 無理に思い出さなくても、ライと記録を頼りに、話を続けられた。

 イネスが、コピーした紙を並べた。

「支援室には、中断を求めた連絡が残ってる。事故受付の通常の担当にも、確認をとっているところ。現場の調査と、検査室で起きたことは、それぞれたしかめてもらう」

 紙の端には、受け取った時刻がプリントされていた。

 レティが白い部屋で書いた紙が、ここへ届いている。

 リーヌはその時刻を、記憶帳へ足した。

「検査室とは別の、保安の捜査担当にも記録を渡せる。私から連絡していい?」

「コピーでお願いします。わたしたちの端末は、ここに残したい」

「残せる。渡した相手と時刻も、控えをもらう」

「それなら、お願いします」

 眼鏡の奥で、細かな字が一つに重なった。

 リーヌは眼鏡を外し、開いたケースへ収める。となりに、記憶帳をおいた。

 傷を覆うシートの端へ、血が滲(にじ)んでいる。

 そこを見ていたはずなのに、次にはもう、机の縁が近くなっていた。

 左手の指が、処置用の袋を持っている。


     * * *


 ノアは、袋の封をたしかめた。

「私、ノア。傷を見直したい。最初の処置の記録はある?」

 イネスが、救護室の記録を画面へ出した。

 ノアは読み、左の指でカバーの外側を示した。

「ここが擦れてる。腕を動かして、また滲んだみたい」

 痛みをたしかめようとして肘を上げると、肩まで重くなった。

 彼女は腕を元の位置へ戻した。

「ライ、外側の布をおさえて。私、片手でやるから」

 ライが椅子を引き寄せた。

 ノアは左手で用具を取った。でも、腕に力を入れると傷が引かれ、右へ持ちかえる。

「ここも支えて。今日は、うまく持てない」

 ライに頼み、新しいカバーを重ねた。

 イネスが支援室からの返事を開いた。

「医療担当が来てくれる。首の接続器は、まず今朝のデータを見て調べるって」

「診てもらおう。私がわかるのは、ここまで」

 ノアは言い、ライの手を止めた。

「締めすぎないで。そう。その位置」

 白い布が、腕へ沿う。

 机の端で、記憶帳のページが開いていた。

 アジーの署名。左腕に傷。

 ノアはしばらく、その行を見つめた。

 傷を受けたのはアジーだ。でも、今の自分も痛む。ノアは肘の下へ布を寄せた。

 彼女は新しい行へ、左手で短く書いた。力をかけすぎないよう、紙をライにおさえてもらう。

『十二時十九分。イネスの工房。左腕の保護シートを取り替えた。診察を待つ。――ノア』

 書いたあと、ペンを右側へおく。

 次にだれが起きても、手の届くところに。


     * * *


 リリィは、机の右側におかれたペンを見た。

 腕に、新しい白い布がある。

 ライの指が、その下で、布の端を支えていた。

 十二時十九分。イネスの工房。保護シートを取り替えた。診察を待つ。ノアの名前がある。

 アジーが傷を受けたときも、ノアが手当てをしたときも、自分は前にいなかった。

 そっと肘を動かすと、痛かった。

「まだ、痛む?」

 ライが尋ねる。

「うん。おいてある方が、楽」

 ライは腕の下の布を直した。

「ノアが、動かしすぎるなって」

「読んだ。……このままで、いい」

 リリィはペンを取ろうとしてやめた。指は動いても、腕を上げると傷が引かれる。

 ライに頼んで、短く記録してもらった。

『十二時二十二分。リリィ。腕を載せたまま休む。――ライ代筆』

 名前がとなりに並んだ。

 その小さなことが、うれしかった。

 腹が鳴った。

 ライが袋を開き、すこし平たくなったパンを取り出す。

「昼の分、潰れたな」

 包みの片側に、ペンキの缶の丸い跡がある。

「工具と同じ袋じゃ、こうなるよ」

「朝、上に載せたんだけどな」

 ライは缶を出し、パンをきれいな皿へ移した。

 リリィが材料の表示を読む間に、ライはパンを小さくちぎった。傷のある手で、おさえなくて済むように。

 右の指で、一切れをとった。

 薄い皮が、歯の間で鳴る。

「これ、選んでくれたの?」

「市場で試し焼きしてた。朝、説明したけど――」

「あたしは、今聞いた」

 ライは一度、口を閉じた。

「そうだった。包みも残してある。卵も乳も入ってないって」

「うん。ありがとう」

 朝、髪を直したのは、彼に会いたかったからだ。

 会えないまま昼になって、今度はパンをちぎってもらっている。

 思っていた通りには、すこしもならなかった。

 ライも、自分の包みからパンを出して食べ始めた。

 向かいに座る彼を、もうすこし見ていたかった。

「袖、破れてるよ」

 右の肘のところで、彼の作業着が裂けていた。

「床下で。腕は大丈夫」

「あとで、縫ってあげたい」

 ライはリリィの左腕を見た。

「治ってからな」

 イネスが針箱を出してきた。

「今日は私がやる。二人とも、まず食べて」

 リリィはうなずき、パンをもう一口食べた。

 彼の袖にふれられないことは、すこし残念だった。

 次の一切れを受けとるとき、指がぶつかった。

 もっと長く、彼といたかった。指がふれただけで、満足したことにはしたくない。

 今は、そのあたたかさをおぼえておいた。


 医療担当が来て、腕の具合をたしかめた。

 担当者は小さな診察用の鞄(かばん)を持っていた。あのカートとは違う。腕にふれる前に、なにを調べるか話してくれた。

「首の刺激は、記録でしかわからないんです。中断の紙を書いたのはレティ。でも、あたしもあそこへ戻って、接続を受ける気はありません」

 リリィは、記録でわかるところだけ話した。

 担当者は、記憶帳の署名と彼女を順に見た。

「今、ご自身でおぼえているところと、読んでわかったところを分けて、教えていただけますか。普段の担当にもたしかめます」

 リリィはうなずいた。名前によって話せる記憶が違う、と支援室から伝えてもらっている。それでも、自分の言葉でこの人に話すのは初めてだった。

 途中でうまく説明できなくなると、イネスが記録を示して補ってくれた。

 首になにかをつながれることはなかった。

 工房の扉が閉まったあと、イネスは記録を渡した相手の名を、控えへ書き足した。

 リリィはそれをたしかめ、椅子の背へ身を預けた。

 左腕を休めたまま、レティの作った欄を見る。

 次にしてほしいこと。

 イネスの工房で休む。ハーデンは私のことを、どこで知ったのか。持ち帰った記録を調べたい。

 レティの字で、そう書いてあった。

 ライが電源ケーブルをつなぎ、タブレットを机へおいた。イネスは入口を見ている。ここなら、腕を休めて読めそうだった。

「調べてわかったことは、端末と帳面に残しておく。次に起きた人も読めるように」

「レティにも、ここまで来たって、わかるようにね」

「ああ。場所も残す」

 リリィは右の親指を、記憶帳の端へおいた。痛い方の腕でなくても、その紙をおさえられた。

 低い機械音の向こうで、イネスが支援室へ状況を伝えている。

 その声を聞きながら、まぶたを閉じた。


     * * *


 セラは、記憶帳に残されたレティの問いを読んだ。

 ハーデンは私のことを、どこで知ったのか。

 時計は、十三時四十一分を示していた。

 イネスの工房。左腕は動かしすぎない。

 起きて最初にたしかめる欄には、そう書いてあった。

「わたくし、セラです。検査室から持ち帰った記録を、見せてください」

 ライが椅子を寄せ、照合票を開いた。

 あの検査機器が、どのデータを見ていたか。それを示す欄があった。

 ルナ・オースリーワン。

 レティが質問された名と、同じだった。

「この番号の先にある資料から、たしかめます。あの人がなにを知っていたのか、わかるかもしれません」

 今朝のサーバーからコピーしたデータを選ぶ。開くためのキーを求めるメッセージが出た。

 セラは、検査室でジョーンが保存したアクセスキーを指定した。

 表示が、一度暗くなる。

 閉じられていたフォルダーが開く。さっきまでは見えなかったファイルの名前が、画面に並び始めた。

「開いた……」

 ライは、端末を支えていた手を離した。

「今朝のサーバーに入ってたものが、あの検査室の鍵で?」

 セラもすぐには答えられなかった。鍵の番号を、もう一度たしかめる。

 仕事で入ったサーバー室と、首につながれそうになった検査室。離れた二つの場所で、同じ資料が開く。

 どちらにも、自分たちが来ると知っていた人がいるのだろうか。

「わたくしたちが行く前から、これが保存されていたのですね」

 セラは右の指を、記録の日付へおいた。

 今朝、作ったデータではない。古いものの中に、数か月前に書き換えたものもある。

「仕事の依頼は、市の回収窓口からだ。いつもと同じ手順で受けた」

 ライが、受注の控えを呼び出した。

「この仕事自体が、俺たちをサーバー室へ呼ぶための罠だったのか?」

「その控えだけでは、まだわかりません。こちらが着く前に保存されていたものと、着いてから送られたものを、分けておきましょう」

 セラは、資料のリストを二つにした。

「開いたのは、このフォルダーだけです。整備の図と、照合の記録、目次。人事などは、別のキーが必要ですね」

 セラは開けない欄をライへ示した。

「今、外から取り寄せたのではありません。今朝ジョーンがコピーしたものを、初めて読めたのです」


 照合票の一番上にある項目を開く。

『照合対象 レティア』

 右手が止まった。

 型式の似た装置を探すための資料ではなかった。

 この体についての資料だった。

「名前まで、ある」

 ライが立ちかけた。椅子が、床を短くこすった。

「昨日の仕事を終えた記録じゃないぞ。十三年前って、書いてある」

 セラは、となりの欄を読んだ。

 照合用の映像。接続器の調整履歴。参照先。

 まだ、映像は開かない。

「レティに、先に知らせます」

 彼女は記憶帳へ、二つのことを書いた。

 検査室の鍵で、今朝の資料の一部が開いた。

 そこに、レティアの名で保存された、十三年前の記録がある。

 まだたしかめていない理由は、書かなかった。レティには、わかったことから伝えたい。


 イネスは別の端末を持ってきた。

「この照合票も、捜査の人に渡していい?」

「お願いします。元の記録は、こちらに残してください」

「残す。今、送るのはコピーした方」

 机の端で、送信を示す小さな灯がついた。

 イネスが受け取ったという返事を待つ間、セラはルナ・オースリーワンの目次へ戻った。

 古い区画の表と、最近つけた管理記録が、同じ見出しの下に入っている。

 ファイルを保存した日だけ見ると、三百年前の図のほうが、十三年前の動画より新しかった。

「作った日と、コピーした日が違いますね」

 セラは見出しを指で追った。

「この図は古いままです。サーバーに保存し直した日だけが、新しいのです」

 セラは辞書を開いた。古い管理用の記号を、おぼえているだけで読むつもりはなかった。

 けれど、一行目を写し終えたところで、同じ文字へ目が戻った。

 続きを追えない。

 読む場所を、何度も見失う。

 右手で、しおりの印を残した。

『古い区画表は、まだ確認の途中。映像は再生していません。――セラ』

 最後の点を打ったあと、指が、ペンの重さを忘れた。


     * * *


 ジョーンは、布へ載せた左腕を見てから、記憶帳を読んだ。

 市の検査室にあった鍵で、今朝の資料が開いた。

 自分たちの古い記録まで、入っていた。

 口の中が乾いた。

 引き継ぎを読み終えると、ライが、受注票を差し出した。

「こっちまで、罠だったのかと思ってる」

「俺たちが来たあとに、何が送られたかは調べられる。依頼を出したやつの狙いは、それだけじゃわからない」

 ジョーンは右手で端末を引き寄せた。

 今朝の通信記録を開く。

 近距離照合。

 首の装置から返事を受けた時刻。

 送信した先は、短い記号になっていた。

 新しく読めた管理履歴の中で、その記号を探す。

 同じ印のとなりに、正式な名があった。

 アーク・リバース。

 ジョーンは、検査室の照合票も並べた。

 機器の管理元。

 アーク・リバース。

「同じだ」

 ライが低くいった。

「市の技術調査じゃ、なかったのか」

「あの胸札と、この管理元は違う。サーバーが返事を送った先も、ここだ」

 ジョーンは三つの記録を、そのままイネスの端末へコピーした。

「俺たちが行くって知っていたかは、まだわからない。でも、首の装置が返事をしたあと、こいつらへ知らせが行った」

「それで、回収班を呼んだ……?」

「今朝の声の記録と、いっしょに見てもらおう」

 まだ、決めつけられない。でも、偶然見つけた市の機械に、たまたま自分たちの資料があった――それでは、もう済まなかった。


 管理履歴には、機器の動作をたしかめた映像もついていた。

 人物のいる部屋とは、別の記録だ。

 ジョーンは、まずそちらを開いた。

 黒い機体が、テスト場の床から立ち上がる。

 二階の通路にいた作業員が、柵から離れた。機体の足が一歩進み、塗装を削る。

 肩の幅。腰の細さ。胸を覆う、一枚の装甲。

 右の指が、机の縁をおさえた。

『遠隔実証型装甲機兵(そうこうきへい)』

 表題の下には、旧ジャンヌの機構を参照した設計、とある。

 今朝、読んだ文字列。

 JEANNE(ジャンヌ)。

「この機体が、ジャンヌなのか」

 ライが画面へ顔を寄せる。

「いや。似せて作った方だ。原型とは別って書いてある」

 図では、機体を離れた場所から操っていた。胸に、人が出入りするハッチはない。

 映像の腕が上がった。

 向こうの壁に光が当たり、厚い壁材が崩れる。

 破片は、テスト場の端まで、ごろごろと転がった。

 ジョーンは映像を止めた。

 あの鍵で、こんなものまで開く。今朝の四脚機を思い出し、ジョーンは工房の薄い扉を見た。

「ここ、知られてないよな」

 ライは、イネスを見た。

「今の居場所は、支援室と保安の連絡先にだけ伝えてる。検査室へは、伝えてない」

 イネスが答えた。

「ただ、心配なことは伝えておく。ここを移ったほうがいいかも、向こうと相談する」

 ジョーンは映像と図面を渡した。

 別添の通信規格は、まだ読みきれない。だが、端子の形は今朝のサーバーと同じだった。

 通信の図には、機体の胸の下まで伸びる太いケーブルが描かれていた。

 古い資料のどこかで、見た形だった。

 彼はその図に印を残し、椅子の背へ体を預けた。

 首の熱は弱くなっている。

 代わりに、腕と膝が重かった。

『アーク・リバースへ、近距離照合の結果が送られていた。検査室の機器も、同じ組織の管理。映像には、ジャンヌをまねた機体。人物の記録は、まだ見ていない。――ジョーン』

 書き終え、右手を紙から離した。

 言いたいことは、もっとあった。

 端子を知っていた理由も、図に見覚えがある理由も、わからない。推測を書き足すのはやめた。


     * * *


 レティは、自分の名前が書かれた画面を見ていた。

 時計は、十四時五分だった。

 イネスの工房。左腕の白い布。右の親指に残った、青い絵の具。

 さっき止めてほしいと書いた紙は、記憶帳の内側に戻されている。

 その先のページに、セラとジョーンの字があった。

 ライが椅子を寄せた。データがどこから出てきたのか、一つずつ、順に話してくれる。

 レティは最後まで聞いてから、最初の画面へ戻った。

「これ、私の記録なの」

「そう書いてある。十三年前のものも、ある」

「私、ここへ行く仕事、今日初めてだったよね」

「そうだ。俺も初めてだ」

 ライの顔は、青白かった。

 ライも知らなかったのだ。二人で画面を見ると、すこしだけ息がしやすくなった。

「施設にいたころのことなのかな」

 レティが尋ねる。

「保護される前にいた場所のことか?」

「うん。ずっと前に、話したでしょう」

「十六で保護されるまで施設にいた、って。それ以上は、聞いてない」

 ライは画面の端へ指をおいた。

「今日、その記録が出るとは思わなかった」

 レティも思っていなかった。

 壊れた機械を調べ、使えるパーツを持ち帰る。その仕事の途中に、自分の昔が落ちているとは。


 イネスの端末が鳴った。

 受付の記録と、中断願いを受け取った時刻が、たしかめられたという。ハーデンの仕事で、あそこまでしてよかったのか。保安担当が調べていた。

「次に会うときは、支援室の人にも入ってもらう。来る人の名前は、先に伝えるよ」

 イネスが届いた文面を見せた。

 あの部屋で書いた小さな字が、部屋の外まで届いていた。

 レティは控えを記憶帳へ戻した。

 手を引っ込めると、画面の端に、映像のリストが見えた。

「人の記録も、あるんだよね」

「ある。まだ再生してない」

 小さな画像が、いくつも並んでいた。

 机。壁。椅子。

 レティは一つの画像で、目を止めた。

 小さな女の子が、膝の上に両手を重ねている。

 顔は下を向いていて、まだよく見えない。

 レティも、自分の膝へ手をおいた。

 女の子が、だれを待っているのか。

 その待ち方を、知っている気がした。

 ハーデンは、こんな自分まで見てから、あの質問をしたのだろうか。

 あの人のいうことを信じる前に、自分でもたしかめておきたかった。

「これ、最初のところだけ、見てもいい?」

 ライは彼女を見た。

「開くか?」

「途中で止めたくなったら、止めて」

「わかった」

 レティは左腕を布へ戻し、右手を机においた。

 ライが画像を選ぶ。

 表示が広がった。

 監視カメラは、部屋の角から椅子を見下ろしている。

 左下に、十三年前の日付。

 女の子が顔を上げた。

 細い頬。右の眉の、端だけが下がる癖。

 鏡の中で、見たことがあった。

 息を吸い、そのまま吐けなくなった。

 女の子はカメラを見ていない。

 扉の方を見ている。

 画面の上へ、見出しが重なった。

『照合対象 レティア』

「こんな映像まで、残してたのか」

 ライの声がかすれた。動画を止めるボタンのそばに指をおいたまま、彼も動かなくなっていた。

 ハーデンも、この映像を見たのだろうか。自分が初めて見る姿を、知っていたから、あの質問をしたのか。

 レティは机の縁を掴(つか)んだ。

 画面の女の子も、椅子の縁を掴んでいる。

 扉の取っ手が、動いた。

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