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06_sideリアム

 全寮制の学園ではあるものの、さすがに学園内で問題になるほどのヒートを起こしたΩである僕は鎮静剤が効いているうちに一度家に帰された。

 βの養護教諭や使用人には分からなかったようだが、僕の体にαの威嚇時の強烈なフェロモンがべったりとついているせいで、父や兄たちは僕に近づきたくても近づけない状態だった。

 Ωである自分にも分からないけれど、ハンナがそうやって守ってくれたことが嬉しかった。


「可愛い女の子αのフェロモンだよ。一緒にいたから」

「一緒にいて何もなかったの!?」


 驚いた母にうなじを見られたが、残念ながらハンナの噛んだ痕はない。

 母としては噛み痕がないことに安心したらしく、自室へと行く僕に付き添ってくれたのだが、自室に入っても母は中々出ていかなかった。


「どうしたの?」

「お母さんの時代にはいなかったのよ、そんなαは」

「そう。でもハンナは僕を守ってくれた」

「リアム、こんなことは言いたくないけれど、あまりαを信用してはダメよ。私たちはΩで、彼らには勝てないの。確かにお父さんのようなαもいるけれど……」

「大丈夫だよ、母さん。分かってるから」

「それならいいんだけど……」


 母を追い出して、楽な格好に着替えてベッドに寝転がる。

 あの、ハンナの新緑の森のような優しく、爽やかな香りを思い出すと体が疼く。


「ハンナ……。僕のα……」


 欲しくて欲しくて仕方がないのに、求めても応えてはくれなかった。

 鋼の理性というべきか、ただの恐怖心か。


「僕が君の番になれたらいいのに……」


 僕のために全ての感情を殺して、ただ僕を守るためだけに抱きしめてくれた。

 Ωという性に嫌悪感はあるけれど、ハンナの腕の中はどんな場所よりも守られていると安心できた。


 定期的にやってくるヒートには嫌悪しかなかったけれど、今日この時だけはハンナを思えば良いものに感じられた。


 君の腕の中にずっと閉じ込めてくれていたらいいのに……。

 世界で一番可愛い女の子、そして誰よりも優しいα。


 ヒート中に考えるのはハンナの事ばかりで、彼女に支配されたいと本能から求めている事をはっきりと自覚させられた。

 男として、Ωとして彼女を手放す選択なんてなかった。どんな手段を使っても僕はハンナを手に入れる。絶対に。



「ハンナ」

「……」


 ヒートから復帰して早々、気まずそうに視線をそらして、彼女は僕を無視した。

 嫌われたとは思わなかった、こうなるだろうなとは思っていたから。


 αである君がΩのフェロモンに抗えるはずもない。

 αを「人を傷つけ、奪う性」だと認識し懸命に押し殺している以上、気持ちの置き場に困っているのだろうな、と。


 でも、もう僕は決めたのだ。

 君と番になるって。


「ハンナ、無視されるのは悲しいな」


 殊勝にそう言えば、ハンナは戸惑いながらこちらを向く。

 その視線には心配の色がありありと出ていて、本当にかわいいなぁと思う。


「……リアム様、おかげんは?」

「もう大丈夫。それにヒートは病気じゃないからね」

「それは、そうですけど……」


 制服の端から見える包帯は痛々しくて、彼女に近づいてそっと触れる。

 一瞬、彼女の体がこわばったのは分かったけれど、気にせずそのまま「ごめんね」と謝る。


「傷はすぐに直りますから」

「女の子に傷をつけるのはよくないだろう?今度お詫びさせて」

「私はリアム様が何もなければそれで」

「あのさ」

「はい?」



「……噛みたかった?」


 そう彼女の耳元で囁けば、すごい勢いで飛びのいて僕から距離を取った。

 

 あぁ、その反応が見たかったんだ!

 αである君が、Ωである僕を求めた確固たる証拠に心が震える。


「冗談でもそういうことは……!!」

「なーんだ、それを口実に責任をとって!って迫ろうと思ったのに。残念」

「リアム様!?」

「言っておくけど、本気。僕、本気で君の番を狙いに行くから覚悟して。あ、その傷の責任を取るってことでもいいか。女の子に傷をつけるのはよくないことだし」

「私はあなたの傍にはいられません!」


 そうして走って逃げていったハンナを追うことはしなかった。

 どれだけ逃げたって、僕は君を捕まえるつもりだし、なんなら家の力を使ったっていい。

 それは最終手段だけれど、平民の商家が喉から手が出るほど欲しがる貴族というブランドを僕は持っているのだから。


「ずっと一緒にいてもらうから覚悟してね、ハンナ」


 僕はΩだ。αの君は抗えないだろう?

 嫌悪している己のΩという性すらも利用して、君を堕とすと決めたんだ。

 僕の覚悟は生半可じゃないんだよ。


 ……だからごめんねハンナ。

 僕は君が恐れているαという性も容赦なく利用させてもらう。

 正直、君を苦しめられるのが僕だけだということに優越感すら感じているんだ。


 でも、全部責任は取るから。

 一生幸せにするって約束するから、だから僕だけの君になってね。


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