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03

「僕はね、確実にαを孕む家系のΩなんだ」


 「君は改めてαとΩ、そしてβについて学んだ方がいい」と言われ、図書館でのいつもの勉強の延長で、リアム様から第二の性について教えてもらっていた。


「えっと……」


 それになんと答えたらいいかわからなくて言葉を探していると、彼はふふっと微笑んだ。

 うわぁ、美人。と思考を飛ばしていると、ぎゅっと鼻をつままれて「僕が美人なのは知ってるけど、話を聞こうか?」と言われ、コクコクと頷く。


「平民の君には僕の価値が分からないと思うから、説明してあげるけど」

「リアム様、私、そういう物言いは好きじゃないです」

「うるさいよ、話が進まなくなる」

「はい……」


 価値とかそういう言い方は好きじゃないんだけど、リアム様の話を遮ると笑顔で怒るので黙っていた方が利口である、ということは数週間の短い交流の中で学んだ。

 そのため、大人しく口をつぐむと彼は満足げに笑って、私の鼻からも手を離した。


「貴族にとってαを擁しているというのはそれだけでアドバンテージだ。それこそ、貴族階級を凌駕すると言ってもいい。なぜだと思う?」

「全体的な能力が高いからですか?もちろんある程度の努力は必要ですけど」

「それもあるけれど、周囲を威圧すれば意のままになるだろう?要は脅しだね。だから各家対抗手段としてもαが必要なんだ」

「他家にいいようにされずに、自分たちが優位に立てるように?」

「そういうこと。でも、αっていうのはそんなに生まれるものじゃない。ここで僕の家系の出番だ。僕は母方はΩであれば高確率でαを孕む家系の貴族でね。そして必ず1人はΩが生まれる。それが僕だ」

「それって……」


 貴族においてαが重要であればあるほど、リアム様の価値が相対的に高まるのではないだろうか?と思った。

 高確率でαを生む貴族であれば、どこも引く手あまただろう。現にリアム様のお兄様2人はαであるし、リアム様はΩである。「βが生まれない」という、人口比率的にほぼありえないことを可能としているのだから。


「気づいたかい?僕の”価値”に」

「……それはリアム様の価値ではなくて、Ωとしての評価じゃないですか」

「そうだね」

「それはリアム様の価値なんかじゃないです」

「正解だよ。でも周りはそうは見てくれない。僕がどんなに努力しようとも所詮は他家に行き、αを産む側の人間だ。産むことでしか価値が生まれない」

「そんなことないです!リアム様は物知りだし、色々と私に教えてくれるし、それはΩだからじゃなくて、リアム様だからで……。上手く言えないんですけど、リアム様はすごいんです」

「君って、本当に頭がいいんだか、バカなんだか……」

「今、そういう話してました!?」


 どうやってリアム様の素晴らしさを伝えればいいか分からないから、そう口にしただけなのに……。

 なんでそんな風に言われないといけないのだろうと思って、言い返したのだけど思いのほかリアム様の顔が近くて優しく私を見ていたのでドキリとする。


「僕の価値の話と同時に、αの価値についても話してたんだけど?」

「えっと?」

「ハンナ、君がβの貴族と身分を超えて仲良くなったのはなんでだと思う?」

「皆さんがいい人だったから……?」

「そういうところをバカだって言ってるんだよ、僕は」


 優しさから一転、呆れたため息をついたリアム様は「君みたいな無知で無害なαを取り込もうと躍起になってるんだよ」と言う。


「無知で無害……」

「だから言っただろう?もう一度勉強をし直そうって。本当に君、見てられないんだよ。失礼に当たることはほとんどしてないけど、貴族間のパワーバランス、派閥を飛び越えて仲良くしてるから」

「それはいいことなのでは?」


 みんなと仲良くできるのはいいと思うのだけど違うのだろうか?と思って口にした言葉に再度リアム様はため息をついた。


「いいんだけど、よくないんだよ。最近、僕と親しくしてるからまだ周りは大人しいけどね」

「リアム様のお家は力が強そうですよねぇ」


 お父様がα、お兄様2人もαであれば、とんでもない権力を持っていそうだ。

 ただ、なんとなくだけどΩを一人でも出したら貴族としてバカにされる傾向があるのは分かるから詳しい序列は分からないけれど……。


「呑気に言ってないで、次、これも頭に叩き込んで」

「……貴族名鑑」

「最低限クラスメイトの家柄、所属派閥を叩き込まないとトラブルになるよ。君は平民かつ珍しい女性αだ。αのいない貴族はこぞって君を狙っている。特に女性としてαを生む可能性を秘めているんだから」

「……はい」


 勉強ならまだしも、こういう全く興味のないことを覚えるのは好きではない。

 嫌だなぁと思いながら、貴族名鑑を手に取ろうとしたら、その手をリアム様が掴んでご自身の口元にもっていく。


「ハンナ、僕を僕として認めてくれてありがとう。だから、そんな君をトラブルから守りたいんだ。分かってくれるね?」


 私を真剣に心配しているという表情を浮かべた美しい顔で、ついでに指先にキスされて言われたら、私は自分の中に蠢くナニカを消し去るように「はい!」と元気よく返事をするしかなかった。


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