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02_sideリアム

 隣の席になったα。Ωにとってある意味では天敵ですらある彼女が隣になったのは、学園側が身分などの序列を考えた結果だろう。

 貴族のαが頂点に立ち、その次は貴族のβ、そして平民α、最下層は貴族でΩというこの僕だ。

 成績順でも家名順でもない、第二の性を含めた序列。

 そんな序列に気が付いていないのか、本人はのほほんとして貴族のβ達に混じって談笑をしている。

 貴族のβ達の狙いは、裕福な商家のαという属性だけなのに、全くもって気が付いていないお人よし。


 入学初日に「ハンナ」と名乗った彼女は、僕のことを見ていることが多かった。

 本人はおそらくばれていないと思っているだろうが、自衛のために人の視線に敏感にならざるを得なかった僕は、見られていることに気がついていた。

 それでも嫌な感じがしなかったのは、向けられたことの無い「憧れ」という視線だったからだ。

 貴族からのαを生むしか価値がないという侮蔑の視線や、αからの性的な視線、あるいは家族からの憐れみを含んだ慈しみ、そのどれにも当てはまらない。

 αがΩに憧れるなんて信じられなかったけれど、本人はそっと僕を見つめどこか満足げだった。


 見つめる彼女と見つめられる僕、そんな関係が変わったのは、子供の頃から突っかかってくるαの嫌がらせがエスカレートしてきた頃だった。

 昼休みに入って早々に感じた視線は、確実に僕を犯そうとしている視線で、取り巻きたちもニヤニヤとしていたため、身の危険を感じていた。

 ただ、貴族であっても僕はΩで、家のパワーバランスでもあちらが上となると、教師がどちらにつくかなど明白だった。逃げてもどうせ、捕まって状況は悪化するだけ。


「一緒に、お昼を食べませんか?」


 思案していた意識を引き戻した声に、僕は彼女を見る。

 迷いの中に見える凛とした視線。けれど差し出された手は震えていて、アンバランスだなと思った。

 でも、一瞬にしてあいつらの性的な視線が霧散して、彼女の気高くも優しいαのフェロモンに包まれ、自分が安堵していることに驚いた。


 信じられない思いで、席を立って彼女から離れようとしたけれど、漂ってきた香りに、心底悲しく、辛そうな気配が混じっていて、なんだか胸が締め付けられ落ち着かなかった。

 普段なら、ここまで他人が放つものに振り回されないのに、と内心ため息をついて振り向いた。


「どこに行くの?ハンナ」


 ぱっと華やいだ香りに、やっぱりこれの方が落ち着くなと思い彼女が提案した中庭へと赴いた。


 ハンナは貴族のαとは全く違い、その力を使ってはいけないと恐れているようだった。

 それなのに、僕に向けるフェロモンはαのΩを守るというソレなのだから、面白い。

 父や兄たちから感じる憐れみからの庇護ではなく、彼女は守護と言った方がぴったりな柔らかなものだった。


 そして彼女はフェロモンそのものに疎い。

 あのいけ好かないαの威嚇や威圧なども全く気にしないし、僕のヒートの時の香りも「香水を変えたのか?」と問うほどに疎い。

 貴族社会のパワーバランスにも疎く、綱渡りのような対話をしているので見ていられなくて助言をしたこともある。

 そうすると彼女は「リアム様はなんでも知っているのですね!」と大輪の花のように笑うのだ。


 たまらなかった。

 Ωでも、貴族でもないただの僕として受け止めてくれる彼女といることで、僕の中にあった劣等感も何もかもを薄れさせてくれる。

 ハンナが話しかけてくれるだけで笑顔にもなったし、僕の笑顔を受け止めてハンナの顔が緩み、はにかむのも可愛いと思った。

 Ωとしてこのαが欲しいと思ったのか、それとも男として彼女が欲しいと思ったのかは分からない。

 でも、一つ言えることは、αとして未成熟で、貴族社会のことを何も知らない彼女を守ることができたらどんなにいいかと思ったのだ。


 愛おしいと、そう思った。


 だって僕はずっと、αを生むΩとしか見られてこなかった。

 そこに附随する性的な視線を受け止めて来なければならなかった。

 家族は守ってくれたけれど、それでも男でΩとして生まれてきた僕をどこか憐れみを含んだ目でみていた。

 αの兄たちと同じように勉強をしても、僕は彼らの倍以上の勉強量でやっと追いつけるレベルだった。


 Ωなのだから仕方がない、兄たちはαだからそこまで努力しなくてもいい。

 リアムが健やかに生きてくれるだけでいい。いずれ他家に行ってしまうのだから、頑張らないで今できることをたくさんしなさい。


 それは両親や兄たちの優しさだってことは分かっている、わかっているけれど、僕は貴族の男として生まれたのだ。

 兄たちのように父を手伝いたかった、父のように母を守りたかった。

 けれど、僕はいつも守られる側でしかなかった。

 ひとたびヒートが来れば捕食される側だ。嫌で嫌で仕方がなかった。


 だから、半ばあきらめていたのだ、自分が誰かを守れる日が来ることを。

 自分が誰かを教え導けることを。


 それを叶えてくれた彼女をどうして愛さないでいられるのだろうか?


「ハンナ」

「はい?」

「僕といて楽しい?」

「はい、もちろん!」


 それが友情であれ、なんであれどうでもいい。

 必ず、僕は君を手に入れる。

 君こそが僕の初恋で、初めて自ら求めたαなのだから……。


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