第六話
夏休み最終日。
地元で夏祭りがあるとのことで、俺と朝海さん、立花君、辻堂で夏休み最終日の思い出を作りにダブルデートをすることとなった。
最寄りの駅前で集まり、面識ない三人が自己紹介をする。
「はじめまして。宏樹君の彼女の柊木朝海です」
日野君の「うわ、美人!」って言葉を、辻堂は逃さなかった。
少し不貞腐れたような顔をした辻堂に、朝海さんは勝ち誇ったようににこ、っと笑う。
うんうん、女の子怖いよね。私も怖いよ。
辻堂完全に萎れちゃったな。
それにしても、俺の彼女は可愛いなぁ。
紺の布地の朝顔柄の浴衣来て、髪の毛もアップにして、理想の彼女って感じだわ。
まあ、辻堂も浴衣来てるから可愛いけど、如何せん身体は辻村サチだから、この超絶美女には負けるよな。まあ、可愛いって言っても辻堂の今の身体は元々私の身体だけど。
駅前の通りから会場である河原への道のりにも屋台はいくつか出ていた。
カラフルな屋台、そそる香り、夏祭りの喧騒。
ああ、ザ、非日常って感じ。
じゃり、じゃり、と河原を歩いていくと、日野君がヨーヨー釣りをやりたいといい始めた。
子供だなぁ。と思っていると、どうやら辻堂もキラキラした目で見ている。
男とは子供のような生き物よな。
でも、意外に朝海さんも乗り気だったので、俺たちは、屋台一発目はヨーヨー釣りをすることになった。とはいっても、ヨーヨー釣り苦手なんだよなぁ。
じじじ、と電球に虫が集まっている。
四人揃って水槽の前にしゃがみこむ。
左から、朝海さん、俺、日野君、辻堂だ。
初っ端から日野君が盛大にヨーヨーを水面に落とし、俺のジーンズを濡らした。
俺が、男のノリで「立花く~ん」と言って立花君に絡むと、彼の隣の辻堂が微妙な顔をした。いや、俺と立花君はどうもならんて。
やっぱり男どもと俺は下手くそで、何も取れなかったけど、朝海さんが意外に上手くて、三個取ったので、俺たちにプレゼントしてくれた。
「朝海さんはいいの?」
「うん。私はみんなが楽しかったらいいよ」
そんな朝海さんが激重女子になるなんて思ってなかったけど、とりあえずその時は俺は朝海さんが彼女で良かったと心の底から思っていた。
でも、それは夏休みと言う非日常の産物だったんだ。
そして、夏祭りを楽しんでいる途中にある事件が起きた。
フランクフルトや焼きそばを買って、河原の端っこで食べようと移動しているときだった。
「わっ」
「おっと!」
河原の石で足を引っかけた辻堂が転びそうになっているところを日野君が助ける、と言う事件が起きたのだが、その時の反応が乙女すぎて、その辻村サチが『私』じゃなさすぎて、咄嗟に眉間に皺を寄せてしまった。
「ご、ごめん」
「うん、大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
頬を染めて、笑う辻堂。
いや、『辻村サチ』はそんな顔しないから。
解釈違いも甚だしいわ。
「どうしたの?」
「うん?何でもないよ」
朝海さんは、きっと俺が仲良さげにしている友人カップルの彼女の方に気があるから、眉間に皺を寄せたんだと思ったんだろう。少し、不機嫌になってしまう。
そして、彼らから少し離れた場所で彼らを見てると、花火が上がると同時に俺の唇には柔らかいものが当たった。
朝海さんの唇だ。
火薬の香りに包まれて、ドンドン、と腹に響く花火の音の隙間から朝海さんの独占欲は聞こえてきた。
「……私を見て」
なんだか俺はそれに辟易してしまった。
そして、『私に対して』じゃない感情に、吐き気がした。
嗚呼、この身体は、私のじゃない。
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