第七話
前日にそんなごたごたがあり始業式の朝は気怠かった。
気怠かったといっても、精神的に疲れていただけなので、朝から辻堂の愛犬ミミと遊べば吹っ切れた。
辻堂の愛犬ミミと、うちの愛犬瀬奈は案外アホの子らしく、私たちが入れ替わっていることには気づいていない。
ミミには今日も「おにいたんおにいたんあそぼ~!」って感じで絡まれたのでわしゃわしゃしておいた。可愛い。やはり、シーズーしか勝たん。
さて、夏休みと言う非日常が終わったわけだが、私たちの状況は変わることなく私は辻堂の身体に、辻堂は私の身体に入ったままだった。
「いつ入れ替わり終わるんだろ。……麗奈に会いたい。麗奈と話したい」
麗奈は私の幼馴染で、大切な親友だ。
夏休み遊ぼうと言いながら、向こうも部活があったしそんな機会はなかった。
辻堂が上手く麗奈と連絡とってくれているらしいけど、私は、あの子に会いたいし、話したい。
私は、きっと。
きっと、純粋に男になりたかったのかもしれない。
男になれば、あの子に気持ちを伝えられるから。
結局は、私もそういう恋愛事で男になりたかった。
麗奈が辻堂を好きだから、私はあいつと入れ替わりたかったんだ。
私と辻堂が入れ替われば、私は麗奈と付き合えるし、辻堂は立花君に愛してもらえる。
「名案、だったのにな」
唯一の誤算は、朝海さんだ。
いや、断らなかった私は悪い。
しかし、彼女は日に日にめんどくさい女と化してきている。
暇さえあれば通話しろって言うし、ラインなんか途切れたら鬼ライン来るし。
「女って、めんどくさ」
いや、私も女だし、本当に好きな人も女だが、麗奈はあっさりした奴だし、一緒にいて心地いい。
あーあ。夏休みの馬鹿野郎。非日常の馬鹿野郎。
でも、全部、私が悪い。
「あ」
学校に着いて、下駄箱に向かうと、噂のカップルがいた。
なんだいなんだい。一緒に登校したのかい。
こちとらグロッキーですが、何か。
「あ、辻堂」
「おはよ~」
「お~。熱いねぇお二人さん」
おいおい、こいつらまだこんな茶化しに赤面すんの?ピュアすぎん?
顔見合わせて、「えへへ、」じゃないんだわ。
「今時の男子高校生はピュアじゃのう」
私が腰を摩りながらそんな事を呟くと、立花君も辻堂も何か勘ぐったのか、「「え!」」とさっきよりもさらに真っ赤になった。
いや、待て待て。辻堂の童貞は守ってるから安心しろよ、って言いかけて慌てて辞めた。
「え、お前、朝海さんと、や、や、や、」
「ご想像にお任せ~」
「あ~~~~~~~~!」
悔しそうにするなら辻堂抱いたれよ、立花君。
まあ、身体は辻村サチだけど。
「つ~かさ、最近辻堂おかしくない?そんな軟派な奴だっけ?」
「ひと夏のアバンチュールが俺を変えたんだよ」
「あ~~~~~~~~!コイツやっぱり!」
やっぱりってなんだよ。
やってねーよ。
「ってか、辻村もなんか変じゃね?」
私が冗談で矛先を辻堂に向けてみたら、辻堂は、私の身体でかわい子ぶった。
「え~、私~?」
いや待て、辻堂。
辻村サチはそんな話し方しないぞ?
あくまでさっぱりポン酢系女子高生だからな、私。
なんだよポン酢系女子高生って。馬鹿じゃねーか。サバサバ系女子高生だろうよ。
そんな私たちの異変を、不思議に思ったクラスメイトは多いが、まあ、夏休み明けだしなって殆どが納得してくれた。
しかし、それを納得できない女子に私は放課後、人気のない教室に呼び出された。
「ねぇ、あんたがおかしいのは百歩譲って見逃してあげるけど、うちのサチまでおかしいのなんか知らない?」
麗奈だ。
いや、私(辻堂)の変化も百歩譲って見逃さないでくれよ。
でもよかった。
あんたも気づいてくれたんだ。
「夏休みボケじゃない?」
「そんなんで私が納得すると思った?」
そして、麗奈は私(辻堂)も見逃してはくれない。
「……私、そんなに魅力ない?」
嗚呼、そうだった。
麗奈は辻堂に惚れているんだった。
そして、「恋愛に興味ないから」って振られてたんだ。
魅力ならあるよ。
あんたは可愛い、私の親友。……いや、想い人。
涙は見たくないよ。
私は辻堂の身体より頭一つ分小さな麗奈の手を引き、腕の中に引き込んだ。
麗奈は、腕の中でひたすら泣いていた。
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