第四話
日野君は辻村サチ(中身は辻堂)が到着すると、「か、か、か、か、か、」と『か』しか言えなくなった。「可愛い」って言いたいんだろうけど、いや、なんでなん?うちの高校の男子の間でそれ流行ってんの?ってか、うちの高校の男子(というかこの二人)がシャイボーイなだけ?
「辻村、立花が可愛いって」
「ば、辻堂、ばっ!」
いや、日本語話せよ~?へ~い、言葉のキャッチボールへ~い!
あ、無理だ。シャイボーイの二人は黙り込んじゃった……。
ってか、辻村さんやい。イン私の時にそんな乙女な顔したことないぞ?
顔真っ赤やん。
私は自分の見たことない乙女な顔にげっそりしてしまい、なんだか最早めんどくさくなってきた感あるぞ。
私、高一の時元カレと付き合ってた時にもそんな顔はしたことないぞ♡
ちなみに元カレに交際二か月で浮気されたので恋愛はもうよくわかんないぞ!
ってか、まだ赤面キャッチボールしてるわ。言葉のキャッチボールしろし。
私は早く可愛い女の子たちと戯れたいのだが?
「あ~、とりあえず更衣室行こうか」
シャイボーイを二人引き連れて(見た目は青春してる初心な男女)、入場券を買い、更衣室へ急ぐ。
「立花!しっかりしろ!」
「ダメだ辻堂、辻村が可愛すぎる!」
辻堂大丈夫かなぁと思ったが、今の私が女子更衣室に入ると問題になるので、私は顔を真っ赤に染めたシャイボーイ一号こと立花君と男子更衣室にいる。のだが、キャパオーバー気味な彼はもう爆発している。
いや、立花君やい。
今あの身体の中に入ってるのお前の親友だからな?
で、目の前にいるのが愛しの辻村さんだからな?
何度も言うが、私はあんな顔しないので解釈違いです!
後で、辻堂には立花君がいない時に指導です!
まあ、とりあえずシャイボーイ一号くんを落ち着かせて、着替えさせて更衣室から出ると丁度女子更衣室の扉が開き、顔を真っ赤にした辻村サチが出てきた。
あ。
まあ、中身健全な男子高校生だからな。
そして、隣ではシャイボーイ一号くんがまた顔を真っ赤に染めていた。
天を仰ぎ、彼は呟いた。
「可愛い……」
何度も言うけど、中身はお前の親友だからな?
しかし、そんなやり取りも最初の三十分くらいで落ち着き、それからは二人で水遊びを始めたので、私はこれ幸いと静かに二人の傍から離れた。
しかし、腹減ったなぁ。なんか食べるか。
と、私はプールサイドの屋台に向かった。一品目は焼きそばにしたい。
「ね~ね~」
「?」
「お兄さん、私たちと遊ぼ~!」
うっひょ~‼可愛い三人組から声かけられた‼
やはり、辻堂のポテンシャルは高い。
私は、その三人組の申し出に即時にオーケーをして、とりあえず何か食わないか、と提案した。
「その前に、お兄さんいくつ?」
「十七~」
「「「わか~い!」」」
お姉さま方は二十五歳の三人組らしい。
正直、軽く犯罪的な匂いもするが、まあ、美人なお姉さんときゃいきゃいしたい欲が強すぎて、欲望に負けた。
しかも、好きなの奢ってあげる~!ってご飯も与えてくれる!女神!
一応、「俺払うよ」と言ったけど、お姉さんたちは譲ってくれなかった。
かっこよすぎる。こんなお姉さんになりたい。
いや、元に戻れるか分かんないけど。
「キミ、一人で来たの?」
「ううん、くっつきそうな奴らのキューピットしに来て、お役御免食らったから」
「え~、優し~!」
「いい子だねぇ」
「お姉さんがよしよししてあげる~!」
これだよ、これ!
美人なお姉様に囲まれて至福の時♡
私はこれをしたかった!
辻村ハーレムはキャッキャウフフと盛り上がりながら、飯を食らい、少ししてからプール内ではしゃいだ。
暫くして、お姉さんたちとプールサイドを歩いていると、前方に通路の端に蹲る女の人を見つけた。
お姉さんたちとその女の人の元に駆け付けると、どうやら具合が悪いらしい。
「俺、医務室連れてくよ」
「でも……」
女の人は困惑したような表情で私を見上げる。
お姉さんたちは「宏樹君やさし~!」「いい子だから甘えときな、お姉さん」「じゃあ、またね、宏樹君!」と口々に一言言ってくれた。
あっさりした三人組との別れだったが、それもいい経験だ。
「お姉さん、立てる?」
「……ちょっと、難しいかも……」
「熱中症かな?ちょっとごめんね」
「……え⁉」
私は辻堂の筋肉を信じて、女の人をお姫様抱っこした。
お、流石、辻堂の身体。出来るじゃん!
というか、女の人、軽すぎないか?
「ちゃんと食べてる?」
「……」
沈黙は、そういう事だ。
私は異常に軽い女の人をお姫様抱っこで医務室に連れていく。
道中、すれ違った人に揶揄いの雰囲気を出されたが、私は気にしていない。
医務室に着くと、職員さん(看護師さん?)が軽い熱中症だから暫くゆっくりしといて、と女の人をベッドに寝かせたので、私は彼氏面するわけではないが、飲み物を買ってきてあげてからベッド脇にあった椅子に座ってみる。
「大丈夫?」
「……うん、ごめんね、友達と来てたんでしょ?」
この女の人(朝海さんというらしい。大学生)は、シャイボーイの事なんか知らないはず。
私は、そこから一応説明して、お役御免食らったから暇してたらさっきの三人組に声かけられただけの関係だから気にしないで。と言うと朝海さんはほっと、息を吐いた。
そういえばシャイボーイたちは大丈夫なんだろうか?まあ、何とでもなるか。
「朝海さんさえよければ此処にいていい?」
「でも、」
「俺はどうせ暇人だから」
朝海さんも私と同じ立場だったらしい。
女友達が朝海さんの兄に恋心を抱いていて、プールデートをセッティングしたら、早々にお役御免になったらしい。
そして、あてもなくフラフラしてたら体調が悪くなり、今に至る。
「宏樹くんがいてくれてよかった」
その笑顔が弱弱しくて、私はなんだがこの女の人を守らなきゃって気持ちになった。
その気持ちは恋心か、単なる庇護欲か、それは分からない。
ただ、この人を守りたい。と思った。
丁度その時、辻堂のスマホが震えた。発信者は立花響。
『辻堂、今どこ?』
いつもの感じで聞いてくる立花君。
いや、なんか、ちょっと違う感じがする。
辻堂となんかあったかな?
私は一連の流れを説明して、朝海さんの体調が戻るまで此処にいる、と告げた。
朝海さんが頭だけをこちらに向けて、「え⁉」と言ったから、微笑んでやると頬を少し赤く染めて向こうを向いてしまった。可愛い。
立花君は、『え~、辻村、どうする?』と彼の近くにいる辻堂に何かを聞いているようだった。
どうやら、そろそろ此処から出てファミレスか何処かに行きたいらしい。
シャイボーイたちはもだもだしているので私はイライラしてきて、「じゃあ、二人で行っといで」と爆弾を投下してやった。
そして、私はシャイボーイたちにむかって「健闘を祈る!」とだけ言って、通話を切った。
「……友達、大丈夫なの?」
「シャイボーイとシャイガールだけどなんとかなるでしょ」
二人きりにした方が発展するかもしれないし!と私は朝海さんに笑顔を見せる。
朝海さんは眉をハの字にして「ごめんね」と言う。謝らなくていいのにな。
私は此処にいたいから、此処にいるのに。
「……宏樹くんはさ、」
「うん?」
「その女の子の事、どう思ってたの?」
女の子、つまりは私の身体の中身になっている辻堂の事か。
私は「う~ん」と少し唸って、思いついたままを答える。
「気にはなってた。ずっと。でもそれは恋とは違うかもしれない。正直わかんないな。今みたいな関係になったの今年の夏休みに入ってからだから」
嘘は言ってない。
正直に言うと、本当に辻堂に対する気持ちはよく分からない。
同じ変身願望を持っていたから気になっていたのか、それとも。
でも私は辻堂よりも好きだって思う人ならいる。恋愛かは分かんないけど。
朝海さんは天井を見上げて、「そっか……」と呟く。
「……ねぇ、」
「うん?」
「……私じゃ、その子の代わりには、なれない?」
泣きそうで、儚くて、切ない呟きに、私は頭が回らなかった。
そしてスマートなイケメンにあるまじき「それって、どういう意味?」というどストレートな質問をしてしまうのだった。
朝海さんはふふ、と笑い、起き上がる。私が大丈夫か、と支えようとすると、私の、いや、辻堂宏樹の頬に彼女は口づける。
「あの子の代わりでいいから、貴方の隣でいたい」
至近距離で見た朝海さんの瞳は、ギラギラ輝いて獣のような目をしていた。
私は、自分に向けられた熱情に、思わず恐れ慄いてしまう。
ひと夏のアバンチュール。思わぬ結果になりそうな予感?
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