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カイン達Hazard候補生を乗せた船舶は、教官の手筈通り海浜に乗り上げた。
途中、彼らを乗せた船舶のルートの両脇でも戦闘が行われているのが見えた。当然敵も海路からの侵攻を考えただろうが、そこの守護も現職Hazardが担っていた。そしてその討ち漏らしは、教官達が対応するのだそうだ。
それほどまでに苛烈を極める戦場に、ついにカイン達は降り立つ。
「これよりB班は、所定地区『噴水前』まで進行する。道中にHazard共が狩り損ねた奴らがいるかもしれない。逃すなよ。」
これまでよりも真剣に、しかしあまりに粗暴で狂気的、それでいて現実的な指示を出すバイルに、カイン達は呆れつつも「了解」と返す。
そしてバイルの言葉通り、Hazard達の防衛網を抜けてきた数人の兵士と遭遇した。
「さぁ、楽しませてくれよ。」
そう呟いたバイルが右手を軽く握ると、強力な突風が右手に集中し、極小の嵐が巻き起こる。
その嵐が晴れると、バイルの右手に刀が握られていた。
そうしてバイルが先行すると、すれ違いざまに数人の兵士を斬り伏せていく。
素早く鮮やかな一閃は的確に兵士の急所を斬り裂き、瞬く間に数体の亡骸を築き上げていった。
そんな中、屋根から飛び降りてきた兵士がバイル目掛けて銃を乱射する。
パァァンッ!!
ーーしかしそれより早く、銃口と兵士の頭部が同時に撃ち抜かれた。
少し遅れていたロイドが、大型のハンドガンを構えてバイルの窮地を救っていた。
「勝手に突っ込んでおいて手間かけさせんな!!」
「要らん世話だ。」
そう言ったバイルは、反対の屋根に現れた兵士に向け刀を突き出す。
刀には風が纏われており、突き出し放たれた風刃は高速で飛来し兵士を撃退した。
「って、逃しすぎじゃねぇか?」
ロイドがそう漏らすように、侵攻してきている兵士の数は10を越えていた。そのうち三分の一は屋根を伝ってきており、地上からの迎撃が困難を極めていた。
「だが、練度はそこまで高くなさそうだぞ。」
そう言ってロイドの横を駆けていくカインは、パルクールの要領で屋根を登っていく。
突然現れたカインに足を止める兵士たち。しかし、それこそ最大の隙と捉えたカインは目にも止まらぬ速さで脚技を繰り出す。一人は足元を払い、一人は顎を掠め取り、一人は渾身の力で横っ腹に蹴りを叩き込んだ。
仕留めるには至らなかったが、皆一様にバランスを崩し地上に落下した。その兵士たちに、ロイドとバイルがトドメを刺していく。
それを見届けながらカインは、路地の反対側の屋根へと飛び移り、残りの兵士たちも同様に叩き落とした。そこをすかさずロイドとバイルが刈っていく。
そうして一難乗り越えたB班は、所定の噴水広場に到着した。
ここに来るまでそれなりの兵士を撃退していたためか、先ほどまでと打って変わって閑散としていた。
噴水を挟んで背中合わせに立つロイドとバイル。屋根から広域を見渡すカイン。
……しかし、それ以上の侵攻は一向に訪れないでいた。
「…………」
その場で待機していたバイルの表情が、徐々に怒りを帯びてきていた。
他者を斬り裂き、自身の強さを証明する事に何よりの愉悦を感じるバイルにとって、今の状況は耐え難い苦痛に違いない。
「……あんまカリカリすんなよ。オレたちのところに流れてこねぇって事は、戦線を維持できているって事だろ?」
ロイドの言う通り、この場に兵士が現れないのは、前線を現役Hazard達が支えている何よりの証拠。
試験として機能しているか些か怪しくなるが、こうした待機を行う上での忍耐力や、咄嗟の対応力と、命令遂行力も試されてるのだろうと、カインは考えていた。
……しかし
「……まるで残飯処理だな。こんな所を守るくらいなら、前線を叩き潰せばいいだろう。」
そう不満を吐くバイルの意見も一理あるだろう。
戦闘を早く終わらせるなら、多少強引にでも前線へ攻め込み壊滅させるのが、案外一番早い方法とも言えた。
「……おい、そこから前線の状況を報告しろ。」
「見えるわけないだろ。」
バイルからの指示にそう答えるカイン。屋根の上とはいえ、その高さは一般的な二階建。前線との距離を考えると、とてもでないが視認する事はできない。
「見えて戦闘特有の黒煙くらいだろうな。」
「……使えないな。」
ロイドがそう補足するが、まるで聞こえてないかのようにバイルが吐き捨てた。
「…………」
そうした中、噴水広場に一人の兵士が静かに現れた。
「?!」
その姿を確認したロイドが動こうとするが、バイルがハンドサインで待てを命じる。
周囲を警戒している兵士は、死角に入っていたロイド達に気づかず、別の路地に入って行った。
(そういうところが、練度が高くない所以だぞ。)
敵ながら、警戒が雑である兵士に対して心の中で評するカイン。
そんな兵士を見送ると、カインは一度地上に降り口を開く。
「……流石に止めるべきだろう。」
「というか、そもそもなんで見逃させたんだよ。ここから誰一人敵を通すなってのが命令なんだぞ?」
ロイドも続いて、バイルを責め立てる。
しかし、バイルは聞く耳を持たず路地を眺め、おそらくその先に存在するだろう施設へ目を向けた。
坂道になっているその道は、小高い山に続いているようだ。
そして、そこに聳え立つ……
「……塔?」
遠目からでも相当な大きさが確認できる機械の塔を目に、思わずカインはそう呟く。
無骨な鉄色の塔は、灯台とするには陸に入りすぎている。モニュメントや観光名所とするにはあまりにも不恰好で、むしろ何人たりとも寄せ付けないほどに不気味で、禍々しかった。
「B班はこれより、あの塔へ向かったと思われる兵士の追跡を行う」
「はぁ?! お前バカかよ!! オレたちの任務はここの防衛だぞ!!」
そう宣言したバイルに、ロイドが怒りを露わにする。
「その防衛で取り逃したんだ。ちゃんと始末しないと、それこそ命令違反だろ?」
「それもお前が変な指示をしたからだろうが! 発見した時点で撃退してたら、そもそもこうなってねぇよ!!」
不敵な笑みを浮かべるバイルに、ロイドは尚も詰め寄る。
「ロイド、この場を任せて大丈夫か?」
そんな二人に、カインが割って入る。
「あの兵士を追うのも、ここを守るのも、どっちもやらなきゃならない。だったら、二手に分かれるしかない。」
「……まぁ、この状況ならそれが最適なのは分かるがよ。」
「それに……」
そこで言葉を切り、バイルを強く睨みつけるカイン。バイルもまた不敵な笑みを絶やさず、しかし光の感じられない瞳で睨み返していた。
「こんなバカの命令違反のせいでお前が落とされるなんて、あっちゃいけないからな。」
「だったらカインがここの防衛に回れ! コイツのカインに対する態度は前々から気にいらねぇ!」
カイン同様、ロイド自身も友の合格を何より願っていた。だからこそ、輪を乱そうとするバイルを認められないでいた。
「今の俺の武器は脚だけだ。とてもじゃないが一人でこの場を守りきれない。だからこそ、ここの守護にはロイドの攻撃力が必要だ。大丈夫、速攻で仕留めてくるよ。」
そう言ったカインは、改めてバイルに向き直ると、その不敵な笑みを蹴り飛ばすように振り抜く。
「…………」
……だが、寸前でそれを止めた。
バイルは不敵な笑みを絶やさなかったが、瞳の鋭さが数段跳ね上がる。
「これから先、これ以上の命令違反をするって言うなら、その頭を蹴り飛ばしてでも止めるからな。」
「やれるものならやってみろ、魔力枯渇で碌に動けない雑魚が。」
そういうとバイルは、兵士を追いかけるため路地に入っていった。
「じゃあ、頼むな。」
「……わかったよ。せめて班が失格にならないように守っといてやる。……早く戻れよ。」
そう言葉を交わし、カインはバイルを追いかけていった。




