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第七話 雪原の記憶

ブレインフリーズ

第七話 雪原の記憶

 翌朝。

 施設『零度』は、昨夜の騒ぎが嘘のように静まり返っていた。

 だが、その静けさがかえって不気味だった。

 白瀬涼は食堂へ向かう途中、昨日見た雪原の光景を何度も思い返していた。

 ――十三人の子供。

 ――「迎えに来るから」という声。

 あれは夢ではない。

 夢にしては、あまりにも鮮明だった。

「おはよう。」

 雪村つむぎがトーストをかじりながら手を振る。

「顔色悪いよ。」

「眠れなかった。」

「そりゃそうだよね。」

 彼女はジャムを塗りながら言った。

「ここへ来た人って、みんな最初は夢を見るんだ。」

「夢?」

「昔の夢とか、知らない景色とか。」

 涼は思わず顔を上げた。

「それ、本当?」

「私は海だった。」

「海?」

「泳げないのに、ずっと海の底に立ってる夢。」

 つむぎは肩をすくめた。

「意味は分からないけど。」

 その日の午後。

 神崎に呼び出され、再び地下の資料室へ向かう。

 しかし今回は、さらに奥だった。

 分厚い金属製の扉には、

 「関係者以外立入禁止 第零資料室」

 と書かれている。

「第零?」

「正式な記録に残さない資料を保管しています。」

 部屋の中央には、一台の古い映写機が置かれていた。

「映像があります。」

 神崎がフィルムをセットする。

 カタカタと音を立て、白いスクリーンに映像が映し出された。

 二十年前。

 雪山の研究施設。

 カメラが子供たちを映している。

 十三人。

 皆、防寒着を着て笑っていた。

『これより第十三実験を開始します。』

 映像の向こうから声がする。

『成功すれば、人類は能力を自在に制御できます。』

 子供たちは意味も分からず拍手していた。

 突然、映像が乱れる。

 ザーッ……

 ザーッ……

 そして。

 真っ白な光。

 悲鳴。

 誰かが叫ぶ。

『止めろ!』

『能力が暴走する!』

『十三番が――』

 そこで映像は途切れた。

「これだけ?」

 神崎はうなずいた。

「残っていた映像はここまでです。」

「十三番って……。」

「分かりません。」

 神崎も苦い顔をする。

「記録が消されているんです。」

 その時だった。

 ブツン。

 施設全体の照明が消えた。

「停電?」

 非常灯だけが赤く点灯する。

 館内放送も止まっている。

「おかしい……。」

 神崎が通信機を取る。

「中央管制、応答してください。」

 返事はない。

 カツン。

 暗い廊下から靴音が聞こえた。

「誰だ!」

 神崎がライトを向ける。

 そこには白いパーカーではなく、

 黒いコートを着た少女が立っていた。

 年齢は十五歳くらい。

 長い黒髪。

 手には何も持っていない。

「初めまして。」

 少女は静かに頭を下げた。

「私はE-00。」

 神崎の顔色が一瞬で変わる。

「そんな番号は……存在しない。」

 少女は少しだけ笑った。

「存在しないことになっています。」

 彼女は涼を見つめた。

「やっと会えたね。」

「俺を知ってるのか?」

「もちろん。」

 少女は懐かしそうに微笑む。

「だって、あなたは約束したでしょう?」

「約束?」

「雪の日に。」

 涼の頭に、また雪原の景色がよぎる。

 しかし、思い出せない。

 少女は背を向け、歩き出した。

「思い出したら迎えに来て。」

「どこへ!」

「本当の零度へ。」

 そう言い残し、少女の姿は廊下の闇へ溶けるように消えていった。

 数秒後。

 施設の照明が一斉に復旧する。

 神崎は慌てて廊下へ飛び出した。

 誰もいない。

 監視カメラを確認しても、

 その時間帯の映像だけが真っ白になっていた。

 神崎は小さくつぶやく。

「E-00……。」

「まさか、本当にいたのか。」

 そして涼は、自分の胸の奥で何かが少しずつ目覚め始めていることを感じていた。

第八話 零度の扉へ続く。

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