第六話 二人のEナンバー
ブレインフリーズ
第六話 二人のEナンバー
「……兄弟?」
白瀬涼は思わず声を漏らした。
演習場の中央。
二人の少年は鏡写しのように並んで立っていた。
同じ白いパーカー。
同じ背丈。
同じ赤いアイスキャンディー。
違うのは髪の分け目だけだった。
「E-07が……二人?」
職員たちにも動揺が走る。
「違います。」
神崎が低く言った。
「あちらは記録にありません。」
「名前は?」
神崎が問いかける。
新しく現れた少年は首を傾げた。
「名前?」
「ないよ。」
「番号ならある。」
少年はアイスをくるりと回した。
「E-08。」
その瞬間、職員たちがざわめく。
「E-08だと?」
「存在しないはずだ!」
「記録では欠番だ!」
E-07は笑った。
「みんな数字ばっかり気にする。」
「僕たちは別に番号なんてどうでもいい。」
「ね?」
E-08は黙ってうなずいた。
そしてアイスを一口かじる。
パキン。
その音と同時に、演習場の天井から無数の水滴が落ち始めた。
「雨?」
いや違う。
天井に結露が発生している。
それが一斉に落ちてきたのだ。
室温が急激に下がる。
白い息が見え始める。
「凍結能力か!」
職員が叫ぶ。
「違います!」
女性職員が否定する。
「温度低下じゃない!」
落ちてきた水滴が途中で止まる。
空中に静止した。
まるで時間が止まったように。
「時間停止……?」
涼がつぶやく。
しかし次の瞬間。
水滴は一斉に床へ落ちた。
何事もなかったかのように。
E-08は無表情のままアイスの棒を捨てた。
「終わり。」
神崎は険しい顔をしていた。
「能力が違う……。」
「E-07は見えない力。」
「E-08は時間……?」
「いや。」
女性職員が首を振る。
「解析できません。」
その時だった。
涼の視線とE-07の視線がぶつかる。
E-07は少しだけ笑った。
「まだ思い出さない?」
「何を!」
「君は忘れてるだけ。」
E-08も初めて口を開く。
「十三番。」
その一言だけだった。
突然、涼の頭に激しい痛みが走る。
「ぐっ……!」
「かき氷を食べてないのに!」
世界が揺れる。
演習場が消える。
目の前に知らない景色が広がった。
雪だった。
一面の銀世界。
白衣を着た大人たち。
泣いている子供。
十三人。
円になって立っている。
その中心にいる少年が振り返る。
「涼。」
知らない顔なのに。
なぜか懐かしい。
「迎えに来るから。」
その声だけが耳に残る。
「涼!」
神崎に肩を揺さぶられ、意識が戻る。
演習場は元のままだ。
しかしE-07とE-08の姿は消えていた。
「逃げられた……。」
職員たちが周囲を捜索している。
涼は荒い息をついた。
「今……昔の記憶みたいなのが……。」
「記憶?」
神崎の表情が凍りつく。
「それを誰にも話さないでください。」
「え?」
「もし本当に記憶なら……。」
神崎は言葉を切った。
そして、小さくつぶやく。
「二十年前の実験は、まだ終わっていなかったのか……。」
その日の夜。
施設『零度』の地下最深部。
誰もいないはずの監視室で、一台の古いブラウン管モニターが突然映り始めた。
砂嵐の向こうに、一人の老人が映る。
老人はゆっくりとカメラを見つめ、微笑んだ。
「ようやく目覚め始めたか。」
その映像は、誰にも見られることなく静かに流れ続けていた。
第七話 雪原の記憶へ続く。




