第五話 十三人目の記録
ブレインフリーズ
第五話 十三人目の記録
翌朝。
施設『零度』の食堂には、昨夜の襲撃が嘘だったかのように静かな時間が流れていた。
能力者たちはいつも通り朝食をとり、新聞を読み、談笑している。
しかし、白瀬涼だけは箸が進まなかった。
──十三人目。
あの言葉が頭から離れない。
「眠れなかったみたいですね。」
昨日の男性職員がトレーを持って向かいへ座る。
「名前、まだ聞いてませんでした。」
「失礼しました。」
男は軽く頭を下げた。
「私は神崎です。」
「神崎さん。」
「昨夜のことは忘れてください。」
「無理ですよ。」
涼は即答した。
「俺のことですよね?」
神崎は少しだけ困ったような笑みを浮かべた。
「……見られていましたか。」
三十分後。
地下最深部。
分厚い鉄の扉が何重にも開いていく。
「ここは?」
「第一資料庫です。」
室内には古い紙のファイルが天井まで並んでいた。
研究所というより図書館に近い。
神崎は一冊の黒いファイルを取り出す。
表紙には銀色の文字。
Project Frost
「英語?」
「二十年前の資料です。」
ファイルを開く。
一枚目には十三人の子供の集合写真が貼られていた。
全員、小学生くらい。
笑顔でカメラを見ている。
「これが?」
「最初に確認された能力者です。」
「十三人?」
「ええ。」
神崎は写真を指差す。
「一番右の子が一号。」
「こちらが二号。」
順番に指が動く。
そして。
最後の一人。
神崎の指が止まった。
「十三号。」
そこには。
顔だけが黒く塗りつぶされていた。
「なんで?」
「記録がありません。」
「え?」
「写真だけ残っている。」
「名前も。」
「性別も。」
「能力も。」
「全部消えているんです。」
涼は写真を見つめる。
なぜか。
その黒く塗られた部分から目が離せない。
その時だった。
ズキッ。
頭が痛む。
「え?」
かき氷は食べていない。
それなのに。
一瞬だけ頭がキーンとした。
世界が白く霞む。
写真の黒い部分が、ほんの一秒だけ見えた。
笑っている。
制服姿の少年。
そして。
次の瞬間には、また真っ黒に戻っていた。
「今……。」
「どうしました?」
神崎は気付いていない。
「いや……。」
涼は何も言えなかった。
資料庫を出ようとした時だった。
館内放送が鳴る。
『E-07を発見。』
『第三演習場。』
『戦闘班は直ちに出動してください。』
神崎が顔をしかめる。
「また来たか。」
「演習場?」
「来ますか。」
「え?」
「あなた自身の目で見た方が早い。」
地下三層。
巨大なドーム状の空間。
そこでは十数人の職員が少年を包囲していた。
白いパーカー。
赤いアイスキャンディー。
昨日と同じ姿。
「囲まれてる。」
だが少年は余裕だった。
「今日は違うよ。」
ニヤリと笑う。
「僕、一人じゃない。」
その言葉と同時に。
ドームの照明が一斉に消えた。
真っ暗になる。
「停電?」
誰かが叫ぶ。
そして暗闇の中で、
カツン。
と靴音がもう一つ響いた。
「……誰だ。」
照明が復旧する。
そこには。
白いパーカーが、
二人いた。
瓜二つの少年が並んで立っている。
「紹介するね。」
E-07が笑う。
「兄弟だよ。」
二人は同時にアイスキャンディーを口にくわえた。
第六話 二人のEナンバーへ続く。




