第四話 襲撃者 E-07
ブレインフリーズ
第四話 襲撃者 E-07
警報音が施設中に鳴り響く。
赤い回転灯が廊下を血のような色に染めていた。
「地下三層、隔壁閉鎖!」
「医療班は退避!」
「能力者は各自シェルターへ!」
館内放送が次々と指示を飛ばす。
白瀬涼は何が起きているのか分からないまま、廊下へ飛び出した。
「こっちだ!」
案内しようとした職員が突然吹き飛ぶ。
壁に激突し、そのまま気を失った。
誰も触れていない。
見えない力だった。
廊下の向こうから、コツ、コツ、と靴音が響く。
白いパーカー。
赤いアイスキャンディー。
昨日の少年だった。
「見つけた。」
少年はまるで友達を探していたかのような口調だった。
「やっぱりここにいた。」
「どうして俺を狙う!」
少年は首をかしげる。
「狙う?」
そして笑う。
「違うよ。」
「迎えに来たんだ。」
次の瞬間。
床が爆発したようにめくれ上がる。
コンクリート片が弾丸のように飛び散る。
「伏せろ!」
職員が涼を押し倒す。
破片が頭上をかすめた。
少年はアイスを一口かじる。
「もう時間ないな。」
その一言と同時に、床の破壊が止まった。
アイスキャンディーの棒だけが残る。
「今日はここまで。」
少年は残念そうに肩をすくめた。
しかし、その時だった。
「逃がしません。」
女性職員が前へ出る。
昨日の無表情な女性だ。
彼女はポケットからレモン味のキャンディーを取り出し、口へ放り込んだ。
「……?」
飴で能力?
女性は静かに目を閉じる。
「発動。」
その瞬間。
少年の足元の床一面が白く凍りついた。
「え?」
氷は一瞬で広がり、少年の両足を固定する。
「あなたも能力者だったのか!」
涼が叫ぶ。
「はい。」
女性は短く答えた。
「私は酸っぱい物を口に含んでいる間だけ、周囲の熱を奪えます。」
少年は初めて焦った顔を見せた。
「へぇ……。」
パキッ。
氷にひびが入る。
「でも。」
バリン!!
氷は粉々に砕け散った。
「僕の方が強い。」
女性が息をのむ。
その隙に少年は跳び上がる。
天井近くの配管を蹴り、換気ダクトへ飛び込んだ。
「逃げた!」
職員たちが追いかける。
静寂が戻る。
涼は女性を見た。
「さっき言ってた『迎えに来た』って……。」
女性は首を横に振る。
「分かりません。」
「ですが。」
男がゆっくり近付いてくる。
「E-07は初めて言葉を交わしました。」
「今までは?」
「発見次第、暴れて逃げるだけでした。」
男は真っ直ぐ涼を見る。
「彼は、あなたを知っています。」
その夜。
施設の修復作業が続いていた。
涼は眠れず、廊下を歩く。
ふと、一番奥の部屋の扉が半開きになっていることに気付いた。
『資料保管室』
中から誰かの声が聞こえた。
「……例の高校生は?」
「間違いありません。」
「コードは一致しています。」
「やはり十三人目でしたか。」
十三人目?
涼は思わず息を止めた。
「ですが、おかしいのです。」
「何が?」
「本来、十三人目は二十年前に死亡しているはずです。」
涼の鼓動が速くなる。
その瞬間。
床がミシッと鳴った。
「誰だ!」
部屋の中から鋭い声が飛ぶ。
涼は反射的に走り出した。
しかし、頭の中では一つの言葉だけが何度も繰り返されていた。
──十三人目。
それは、自分のことなのだろうか。
第五話 十三人目の記録へ続く。




