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第三話 保護施設『零度』

ブレインフリーズ

第三話 保護施設『零度』

 「急いでください!」

 黒いワゴン車へ押し込まれるように乗せられた白瀬涼は、まだ状況を飲み込めずにいた。

 車はサイレンも鳴らさず、街を抜けて高速道路へ入る。

「さっきの子は……?」

 助手席の男が短く答えた。

「能力者です。」

「やっぱり。」

「ですが登録されていません。」

「登録?」

「能力者には二種類います。」

 男は指を二本立てた。

「保護された者。」

「そして、発見できなかった者。」

 車内の空気が少し重くなる。

「発見できなかった能力者は、自分の力を好きなように使います。」

「犯罪者も?」

「います。」

 それ以上、男は話さなかった。

 二時間後。

 山奥。

 カーナビにも載っていない細い道を進む。

 やがて巨大なトンネルが現れた。

 入口には何も書かれていない。

 車が近付くと、岩壁の一部が静かに開いた。

「……秘密基地だ。」

 思わず涼は呟いた。

 女性が初めて少しだけ笑った。

「みんな最初はそう言います。」

 施設内部は想像以上に広かった。

 病院のようでもあり、研究所のようでもある。

 白い壁。

 白い床。

 窓は一つもない。

「ここが保護施設『零度』です。」

 男が説明する。

「現在、二十三名の能力者が生活しています。」

「百二十七人じゃなかったんですか?」

「全国で、です。」

「ここは東日本支部になります。」

 エレベーターが地下へ降りる。

 扉が開くと、そこは体育館ほどの広い部屋だった。

 人がいる。

 小学生くらいの少女。

 杖をついた老人。

 サラリーマン風の男性。

 みな普通の人にしか見えない。

「新入り?」

 少女が近付いてきた。

 棒付きキャンディーをくるくる回している。

「高校生じゃん。」

「えっと……」

「私は雪村つむぎ。」

 少女は飴をくわえた。

「甘い物を食べてる間だけ、未来が三秒見える。」

「え?」

「もうすぐ君、びっくりするよ。」

 その瞬間。

 天井のスピーカーから突然、大音量のチャイムが鳴った。

「うわっ!」

 涼が飛び上がる。

 少女は笑った。

「ほらね。」

「能力って、本当に人それぞれなんだ……。」

 すると今度は奥から老人が歩いてきた。

「若いの。」

「はい。」

「将棋はやるか?」

「少しなら。」

「わしは将棋を指している間だけ、相手の考えている一手先が読める。」

「限定的すぎません?」

「だからプロにも勝てん。」

 老人は豪快に笑った。

 食堂。

 夕食はカレーだった。

 能力者たちが談笑している。

 思ったより普通だ。

 誰も世界征服など考えていない。

 誰も空を飛んでいない。

 能力には皆、不便な条件が付いている。

「少し安心した。」

 涼は思わず笑った。

 その夜。

 部屋へ案内される。

 ベッドが一つ。

 机。

 本棚。

 まるで学生寮だ。

 コンコン。

 ノックが鳴る。

 昼間の男性だった。

「失礼します。」

 男は封筒を机へ置いた。

「これは?」

「あなたの資料です。」

 開く。

 そこには一枚だけ紙が入っていた。

能力名:未確定

発動条件:ブレインフリーズ発生中

危険度:測定不能

「測定不能?」

 男は真剣な表情で言った。

「普通は能力の種類が一つに固定されます。」

「ですが、あなたは違います。」

「毎回、能力が変化しています。」

 涼は息をのむ。

「つまり……。」

「まだ、あなた自身も自分の能力を把握できていません。」

 そのとき。

 施設全体に赤い警報灯が点滅した。

 ビーッ!

 ビーッ!

 ビーッ!

 館内放送が響く。

『レベル4警報。』

『保護対象E-07が施設外壁を突破。』

『全職員、迎撃態勢。』

 男の顔色が変わる。

「まさか……。」

「E-07?」

「昨日、あなたを襲った白いパーカーの少年です。」

 次の瞬間。

 地下施設全体が激しく揺れた。

 コンクリートの天井に、大きな亀裂が走る。

 施設のどこかで、誰かが叫んだ。

「侵入された!」

 涼は立ち上がる。

 昨日まで普通の高校生だった自分が、今度は「守られる側」ではなく、この異常な世界の渦中へ足を踏み入れようとしていた。

第四話 襲撃者E-07へ続く。

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