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第十話 ブレインフリーズ

ブレインフリーズ

第十話 ブレインフリーズ

 「最初から……十三番。」

 白瀬涼は雪原に膝をついたまま、震える声を漏らした。

 頭の奥から次々と記憶が溢れ出してくる。

 白い研究施設。

 十三人の子供。

 笑い声。

 泣き声。

 そして、自分。

 高校生の白瀬涼ではない。

 もっと幼い、一人の少年。

「実験を始めます。」

 白衣の研究員が言う。

 十三人の子供は円になって座っていた。

 中央には大きなガラスの器。

 その中には、透き通るような青い氷が浮かんでいる。

「これは……。」

 老人が隣で答えた。

「能力の核。」

「君たちは、あの日それに触れた。」

 記憶の中の少年――十三番は笑っていた。

「みんな、怖い?」

 誰も返事をしない。

 そこで十三番は、自分から青い氷に手を伸ばした。

 その瞬間。

 世界が真っ白に染まる。

 十三人全員の頭に、同時に激しい痛みが走った。

 キーン――。

 それは、かき氷を一気に食べた時とまったく同じ痛みだった。

 「そうか……。」

 涼はゆっくり立ち上がる。

「だから俺は。」

「そう。」

 老人はうなずいた。

「君の能力は、かき氷で発動するわけではない。」

「え?」

「あの痛みを再現しているだけだ。」

 涼は言葉を失った。

「ブレインフリーズ。」

「脳があの日の状態を思い出し、一時的に能力が解放される。」

「じゃあ……。」

「痛みさえあれば。」

 老人は静かに答えた。

「理論上は。」

「いつでも能力は使える。」

 一方、施設『零度』。

 E-07と神崎たちの戦いは続いていた。

 見えない衝撃が壁を砕き、

 警備員たちが次々と吹き飛ばされる。

 E-08は黙ったまま立っている。

 そしてE-00だけが、静かに空を見上げていた。

「もうすぐ。」

 少女はつぶやく。

「十三番が帰ってくる。」

 その瞬間。

 施設全体が激しく揺れた。

 誰も能力を使っていない。

 なのに空間そのものが軋んでいる。

 天井に白い亀裂が走る。

 まるでガラスが割れるように。

「何だこれは!」

 神崎が叫ぶ。

 雪原。

 老人は最後に一枚の写真を差し出した。

 十三人の集合写真。

 今度は、十三番の顔が黒く塗られていなかった。

 そこには、

 幼い頃の白瀬涼が笑っていた。

「俺……。」

「記録は消された。」

「だが存在は消えなかった。」

 老人は穏やかに笑う。

「だから君は、もう一度生まれた。」

 「あなたは誰なんです。」

 涼は初めて老人へ尋ねた。

 老人は少しだけ考え、

 優しく答えた。

「私は。」

「一番最初に能力を作ろうとした人間だ。」

「……。」

「そして、一番最初に後悔した人間でもある。」

 老人の身体が光になり始める。

「時間だ。」

「待って!」

「最後に一つだけ。」

 老人は微笑んだ。

「能力は、人を強くするためのものではない。」

「人を選ぶためのものでもない。」

「思い出すためのものだ。」

「何を?」

「君自身を。」

 老人は雪とともに消えた。

 雪原全体が崩れ始める。

 巨大な記憶樹がゆっくり倒れる。

 世界が砕け散る。

 涼の頭に、これまでで最も強烈な痛みが走った。

 キィィィン――――!!

 かき氷を食べていない。

 それでも痛みは消えない。

 いや。

 痛みそのものが能力になっていた。

 施設『零度』。

 神崎たちの目の前に、何もない空間が裂ける。

 白い光の中から、一人の少年がゆっくりと歩いてくる。

 白瀬涼だった。

 しかし、その瞳は以前とは違っていた。

 静かで、どこか懐かしい光を宿している。

 E-07は初めて深く頭を下げた。

「おかえり。」

 E-08も同じように頭を下げる。

 E-00は、ほっとしたように微笑んだ。

「やっと思い出したね。」

 涼は三人を見つめ、小さくうなずいた。

 そして静かに口を開く。

「全部、思い出した。」

 その一言で、施設の照明が一斉に消えた。

第十一話 零度の約束へ続く。

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