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挫折ばかりだった僕が立て直した人生  作者: 桜影 はる(さくらかげ はる)
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最強のコンビ

体育館に着いた僕は、先生から選挙における注意事項を聞いた後、控室で自分の出番を待った。

高鳴る心臓音が緊張を高める。

足がガクガク震える僕は、平常心を保つことで必死だった。


そんな僕に、「りょうちゃん、絶対に負けないよ」と拓哉君がさわやかな笑顔で声をかけてきた。

「僕も負けないよ」そう言って、拓哉君に向かって右手を出した。

拓哉君はその手を力強く握った。


しばらくして、会場は選挙の準備も整い生徒会の役職順に立候補者が演説を始めた。

1人又1人と縁説を終わらせ控室から去っていく。

そんな状況が、どんどん僕を追い詰めていった。


クラスのみんな、頑張るね!!

パパ、絶対当選するからね!!

ママ、僕を見守っててね!!


そんなことを考えていると、控室には僕と拓哉君の2人となった。


「そろそろ俺の番だな!!」


拓哉君が僕の方を見て、一言つぶやいた。

会場は、ザワザワとしている。


「では、生徒会長立候補者、氷上拓哉君」


「よし!!行くか!!」


拓哉君は椅子から立ち上がり、舞台袖から勢い良く飛び出して行った。


会場は、拓哉ファンの黄色い声援が聞こえてくる。

拍手で迎えられた拓哉君は3つのマニュフェストを掲げ、とても堂々とした完璧な演説を行った。


そんな拓哉君は、悔しいけど同性の僕から見てもカッコよかった。


次は僕の番だ。

会場は相変わらずザワザワしているが、もうその音すら耳には入ってこなかった。


「続いて生徒会長立候補者、夏目りょう君どうぞ!!」


司会の先生の声が会場に響きわたる。


僕は舞台袖から、舞台中央までゆっくりと歩いた。


大きな拍手の音が僕を包む。


誰もが僕に注目していると思うと、緊張は最大限まで達し頭の中は真っ白だったが、パニックになったわけではなく落ち着いて会場を見渡すことができる余裕は十分にあった。


舞台からよく見ると、たくさんの仲間が僕を応援してくれている。

太一君や宏君は、大声で僕の名前を叫んでくれ、博美ちゃんは静かに僕を見守っている。

浩二君は立ち上がって手を振っているが、すぐに側にいる沙奈ちゃんに注意され大人しくその場に座り込んだ。

翔太君は、その姿を見て笑っていた。


僕は大きく息を吸い込んで、その息をゆっくりと吐きだし深い深呼吸をした。


そして、会場全体が僕の話を聞く準備が整ったところを見計らい静かに話し始めた。


みなさん、この度生徒会長に立候補した夏目りょうです。

今日は僕の思いをお話させていただこうと思います。


みなさんには親友と呼べる仲間がいますか?

僕にはたくさんいます。


その親友はいつも僕を守ってくれました。

1人で寂しく遊んでいると、一緒に遊ぼうと声をかけてくれたり、僕がいい気になって道を踏み外したときには、すぐに正しい道に引き戻してくれました。

僕がいじめられると、体を張って助けてくれたこともあったし、ママが亡くなって寂しい思いをしている時は一緒に泣いてくれました。


親友は宝です。

どんな困難に悩まされようが、自分を助けてくれました。


“人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり”

これは、僕の大好きな戦国武将の武田信玄の言葉です。


人を大切にすれば完璧な城以上に強い力で自分を助けてくれます。

強固な城はいらないのです。


僕が生徒会長になったら、人を大切にせず自分勝手に過ごすという考えは不幸に直結するという事をしっかりと認識した上で、この武田信玄の言葉のように全校生の皆さんが“人を大切にする”という信念を持って、学校内でのあらゆる問題を解決することができる人間関係を築いていく事が生徒会長となった後の僕の目標です。


まだまだ未熟な僕ですが、今お話をしたことが実現できるように頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。


ご清聴ありがとうございました。


演説が終わり僕が一礼してマイクを置くと、会場の生徒が大きな拍手で舞台袖まで見送ってくれた。

そして、大きな音で鼓動していた心臓は落ち着きを取り戻していた。


次の日学校に行くと、生徒会の当選者の名前が書いた紙が廊下に張り出されていた。

落ち着いていた心臓が昨日に引き続きまた早くなり、そのことがさらに緊張を高めた。


勇気を振り絞り、当選者が書いてある紙の前までゆっくりと歩み寄った僕は目を閉じた。


どんな結果が出ても大丈夫!!

もう後悔はない。力は全部出し切った!!


そう心でつぶやいた後、静かに目を開いた。


生徒会長 夏目りょう


あった!! 僕の名前があったぞー!!

僕は当選したんだ!!


感動してうっすらと涙が浮かんだ僕の周りには、多くの仲間が取り囲み一緒に大騒ぎをしながら喜んでくれた。


こんなに嬉しいと思ったことは久しぶりだ。

僕は公衆電話に向かいパパの留守電に当選の報告を入れた後、教室に向かって歩き出した。

すると、前から拓哉君がやってきた。


「りょうちゃんは、思った通りの強敵だった。困ったことがあったら力を貸すよ!!何でも言って!!」


「拓哉君、ありがとう!!」


僕にまた新しい大切な親友ができた瞬間だった。


教室に入ると大きな拍手に迎えられ、黒板に生徒会長 夏目りょう おめでとう!!とのメッセージが書いてあった。 


「ありがとう!!こんなにたくさんの仲間が助けてくれると未熟者の僕でも、何かできそうな気がしてきたよ!!みんなでいい学校を作ろうね!!」


僕がそう言うと、もう一度大きな拍手が沸き起こった。


しばらくして、僕の所に沙奈ちゃんがこそっとやって来て僕に小声で話しかけた。


「昨日美月先輩と話すことがあったの。その時に聞いたんだけど、マー君が動いていたみたいだよ」


「どういうこと?」


「マー君が中学校でりょうちゃんの選挙活動をしていたってことだよ。兄弟が小学校にいる子にりょうちゃんの人柄を一生懸命に説明していたんだって!!」


「そうか!!だから選挙前日に僕の人気が一気に高まったっていう現象が起こったんだね。マー君のおかげだったんだ!!」


その日の放課後、僕はマー君と公園で会う約束をした。

予定時刻になると、マー君は軽やかに走ってきた。


「よっ 生徒会長!!」


「マー君、沙奈ちゃんから聞いたよ。僕が当選したのはマー君のおかげだって!!」


「違うよ、バッカだなー!!りょうちゃんに票を入れたのは誰だい?君の学校の生徒だろ!!票を入れるかどうかは本人次第で、りょうちゃんに魅力がないと、どれだけ俺たちが応援しても票は集まらないんだ。りょうちゃんはたくさんの人に愛されているってことだよ」


マー君、いつもありがとう・・・

本当に・・・ありがとう・・・


僕は、マー君のやさしさに触れ涙があふれ出した。


「泣くなよ、りょうちゃん。俺が下級生をいじめてるように見えるだろ。頼むからやめてくれ!!」


慌てるマー君に、僕はもう一度“ありがとう”と伝えた。




公園のすみにあるベンチに座り、マー君がおごってくれたジュースを飲みながら僕たちは公園を眺めた。


「マー君、鬼ごっこには誘わないんだね!!」


「俺はもう大人だからな!!」


そう言って、オレンジジュースをおいしそうに飲むマー君は、やはり愛嬌があった。


しばらく楽しい雑談をしたあと、僕はサプライズを用意していた。

おじいちゃんが言っていた“巻き込む”ということを意識した試みだ。


「マー君、僕が生徒会長になれたら密かに“やろう“と計画していたことがあったんだ!!」


「なに?」


「野球のクラブチームの現状と、どうすれば廃部にならないかの講演会をマー君が講師として開くという企画さ!!実はもうすでに校長先生には許可を貰っていて、会場となる教室も準備できているんだ。マー君、どうかな? この話引き受けてくれない?」


本音を言うと、マー君はこの話を断ると思っていた。

先日の選挙を体験して、人前で話すことの恐怖は僕が一番分かっているからだ。

校長先生も“巻き込んでいる”手前、マー君に断られたらどうしようと恐れていた僕は、内心ビクビクしながら聞いてみた。


「やる やる やる!!」


「えっ? やるの?」


思ったより軽いノリで引き受けてくれたマー君は、嬉しそうに“何を話そうか!!”と考え出した。


「マー君って緊張するとかないの?」


「えっ なんでこんなことで緊張するの??」


きょとんとしているマー君を見ていると、自分の繊細さに笑えて来た。

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