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挫折ばかりだった僕が立て直した人生  作者: 桜影 はる(さくらかげ はる)
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マー君の講演会

僕はマー君の講演会実行員会を結成し、1週間後の金曜日の放課後にクラブチーム存続をかけて講演会を開催するプロジェクトを立ち上げた。


実行委員は、翔太君、太一君、浩二君、宏君、沙奈ちゃん、博美ちゃんのいつものメンバーだ。

その日から、僕たち実行委員会はポスターを作ったり、すれ違う生徒に声をかけたりしながら一人でも多くの参加者が集まるように全力で働いた。


しかし、神様は残酷だ。

実行委員会のメンバーの頑張りと裏腹に、講演会当日に集まってくれたのは、少数の小学生とクラブチームの監督さんや校長先生が声をかけてくれたその保護者のみだった。


「マー君ごめんね。頑張ったんだけどまだ僕の言葉の力が弱かった・・・」


僕は申し訳ない気持ちでマー君に会わす顔がなかった。


「アハハ! りょうちゃん小さいことを気にするな。俺は人数なんてどうでもいいんだ。りょうちゃんがこうやって俺のために動いてくれたというその気持ちで十分なんだよ。それに、ここに人が集まらなかったのはりょうちゃん達の力不足じゃなくて、俺の頑張りや人気が足りないからなんだ。だから気にするなよ!!」


マー君はそう言って僕の肩をポンポンと叩き、紹介されてから登場という打合せを忘れて、勢いよくみんなの前に飛び出していった。

初めて見るマー君の公演は本当に素晴らしかった。

たくさんの笑いを取り込み、そうかと思えばクラブチームの存続について真剣に話すという、とても中学生とは思えない人を引き付ける魅力的なスピーチだった。


40分で終わるという約束だった講演会だったが、絶好調のマー君は持ち時間を大幅にオーバーした。

会場は大きな拍手に包まれ、講演大成功を確信した僕が講演会終了の挨拶をしようとした瞬間、マー君は急に歌を歌うと言い出した。


あっけにとられた会場の人の事など気にも止めず、4曲を熱唱したマー君は、アンコールもされていないのに5曲目を歌って舞台から降りて行った。


「あー 楽しかったー!!すごく盛り上がったよな。満足 満足!!」


「マー君、もしかしてクラブチームの存続のこと忘れてない?」


「あっ、そういえば・・・」


ご満悦のマー君の魅力に、会場にいる多くの人が心をつかまれマー君の言葉の力が増した瞬間を目の当たりにした僕は、ここでおじいちゃんの教えの意味がはっきりと分かった。


講演会から数日がたったある日、僕の携帯にマー君から着信があった。


「りょうちゃん、なんか知らないけど最近よく声をかけられるんだ。俺地域の人気者だよ!!ワッハッハ!!」


まんざらでもなさそうなマー君はさらに話を続けた。


「この前の講演会に参加してくれていた大人の中に、PTA会長のおじさんがいたらしいんだ。そのおじさんは俺の公演を聞いてファンになったみたいで、今度小学校で盆踊り大会をやるからステージに立ってクラブチームの話しをしないかって提案をしてくれたんだ!!」


「すごい、マー君。それでどうするの?」


「もちろん引き受けたさ。こんなチャンスはもうこないだろ!!」


「本当に引き受けたの?すごいね。僕なんて人前に出ると心臓が爆発するくらいドキドキいうし、足なんかガクガク震えて大変なんだぞ。マー君は人前に出ると怖いっていう感情はないの?」


「そんなのあるわけないだろ、変な事言うな。あー、楽しみー!!」


そう言いながら、マー君は電話を切った。


マー君って、どう評価したらいいんだろう・・・・


複雑な心境におちいる僕だったが、やっぱり豪快なマー君が大好きだと思えた。



盆踊り当日は、僕は浴衣を着て出店で売られている焼きそばを買っていつものメンバーと雑談をしながら祭りを楽しんだ。


「よう、みんな!!楽しんでるか??」


マー君は、おいしそうにホットドックを食べながらワクワクとした表情で声をかけてきた。

美月ちゃんも雄二君も一緒に遊びに来ている。


「マー君は本当に、にぎやかな所が好きだね!!」


「りょうちゃん、今日の講演会も期待していてくれよ!!」


いつもながらに緊張している様子もないマー君に驚きながら、僕たちはたわいのない話をしつつ夏祭りを楽しんだ。

そして、祭りも終盤に差し掛かりたくさんの家族連れが会場に溢れかえるようになった所を見計らってPTA会長さんのアナウンスが流れた。


「会場の皆さん、ここで少しお時間をください。皆さんはこの地域で活躍している小学生の野球のクラブチームが廃部の危機を迎えている事をご存知ですか?そのことで地域の子供たちがクラブチームを残すために奮闘しています。今から、その子供たちの代表として中学生のまさし君がクラブチームの現状をお話します。どうぞ最後まで聞いてやってください!!では、まさし君どうぞー!!」


うお!!

急にマジかー

心の準備ができてないし!!


そう言って、マー君はうれしそうに堂々と客席から舞台の中央に現れ、前回の公演会同様に会場を盛り上げ、今のクラブチームの状況とその解決策を熱く話し始めた。

そしてそろそろ時間だとうながすPTA会長のおじさんを横目に、予定されていない恒例のライブもしっかりとやり切り、短めにと言われていた時間を大幅にオーバーしてアンコールを入れた前回より1曲少ない4曲を歌い切り、満足した表情でマー君は僕たちのところに戻って来た。


「あー楽しかった!!」


マー君は、たくさんの汗をかいたのか僕の持っていたペットボトルのお茶を奪い一気に飲み干した。


マー君は本当にすごい先輩だ。

この瞬間、たくさんの会場の人々の心をワシ掴みにしている。

スピーチが終わった後、マー君が歩くたびにいろいろな人が“応援するよ!!と話しかけていた。


おじいちゃんの言っていた、“人気者の言葉の力は強い”という教えの意味が良く分かった瞬間だった。


夏まつりの1週間後、僕は校長先生に呼ばれた。

挨拶をして校長室に入ると、もうすでに到着しているマー君がリラックスして校長先生と雑談をしている。

僕はマー君に促されて、ソファーに腰を掛けた。


「マー君は本当に人懐っこいなぁ・・・」


「そうかな?普通だよ!!」


そんなたわいのない会話をしている僕らを微笑ましく思ったのか、校長先生はやさしい眼差しでこちらを見ていた。


「そうだりょうちゃん!!小学校のグランドが使えるようになったよ!!」


「えっ、どうして??」


「小学校の夏祭りの会場に来ていた市長さんが、俺の話を聞いて動いてくれたんだって!!校長先生も力を貸してくれたんだ!!」


「本当ですか?校長先生!!」


「本当だよ!!君たち2人はお互いにすごい力を持った子供達だ。大人たちを動かして出来なかったことを可能にしたんだからね!!これからも力を合わせて頑張るんだ!!きっと最強のコンビとして活躍するだろうからね!!わしも市長さんも2人のファンになったよ」


「校長先生。俺たちは親友ですからいつまでも仲良く頑張れます!!」


マー君は僕とガッツリと握手しながら、校長先生の言葉をありがたく受け取った。

そして、「校長先生、電話借りてもいいですか? 市長さんにお礼を言いたいんです!!」との僕の言葉に「おお、そうだね!! ちょっと待ってくれ!!」と校長先生は快く市長さんに電話を繋いでくれた。


市長さんは電話で「君たちの気持ちは無駄にすることはできなかった。これからも、今回のようにチャレンジ精神を忘れず素晴らしい大人になるんだよ」と言ってくれた。


「はい!!」と答える僕とマー君は、この出来事は大きな自信となった。


家に帰り、夕食を食べながら今日あった出来事をパパに報告した。


パパは僕の話を嬉しそうに聞きながら「りょうちゃんの話を聞いていると、今日仕事で嫌なことがあったけど、一気に頭の中から消え去ったよ。だから、これからももっともっとりょうちゃんの活躍した話を聞かせてくれよ!!」と言ってくれた。


僕が風呂から上がると、パパはママの仏壇の前で晩酌をしていた。


「そんな所でどうしたの?」そう声をかけると、「りょう、子供部屋で勉強しなさい!!」というパパの目に一筋の涙が流れていた。


「飲みすぎだよ。でも僕頑張ったんだ。ママにしっかりと報告しといてね!!」


ママへの報告をパパに託し僕は2階の子供部屋に戻りドアを開けるとそこにはミーサーが立っていた。


「どうしたの? 今日は呼んでいないよ」


「今日、おじいちゃん亡くなったよ」


・・・・・・

・・・・・・


「そう。なんとなくそんな気がしてた。おじいちゃん何か言ってた?」


「言っていたよ。今からその言葉を君に伝えるね」



ミーサーは、一言一句漏らさずにおじいちゃんの最後の言葉を伝えようと僕の隣に座った。

そして、ゆっくりと話始めた。


いいかい、りょうちゃん。今回君に教えたことは人気者になって言葉の力を増した上で沢山の人を巻き込んで動かない物事を一気に動かすという方法だったね。


りょうちゃんは、その教えの通り生徒会長に当選し全校生徒に注目される存在となり言葉の力を増した上で校長先生とマー君と応援してくれる大人を巻き込み一気にクラブチームの存続という難しい問題を解決したんだ。


君が仲間とやり遂げたこの出来事は、本当に素晴らしい。

今までいろいろな教えを君に授けてきたわしも、本当に嬉しく思うよ。

でも、これだけはよく覚えていて気を付けてほしいことがあるんじゃ。

それは、上がりきった言葉の力は使い方によっては恐ろしい結果をもたらすこともあるっていうことをね。


例えば、今回のように君が人の喜ぶことをするために増した言葉の力を使ったのなら、その結果は必ず多くの人が喜ぶ方に進んでいくだろうからよいのじゃが、もし間違った方向にその力を使ったのなら、その結果は多くの人が不幸になる方向に進んでいくことじゃ。


この事はとても恐ろしいことで、自分の周りにいる人を全て不幸にしていってしまう。

だからこそ、人気者になって言葉の力が増したときこそ、いい気にならずに思いやりを持って人が喜ぶことだけにその力を使うことを肝に銘じておくんじゃ。


これが最後のわしからの教えじゃ。


そう言って、おじいちゃんは静かに息を引き取ったとのことだった。


僕は、ベランダに出てひときわ輝く星を見つけた。

そして、その星に向かって手を合わせた。


おじいちゃん、今までたくさんの貴重な教えをありがとう!!

僕は、おじいちゃんが言うように人を大切にして、人の喜ぶことをいっぱいして、絶対に間違った道を進まないように心がけながら生きていく事を約束するよ!!


大丈夫。僕にはたくさんの仲間がいるんだ!!

安心してよ。おじいちゃん!!


そう伝えた僕は、ベッドの中に戻り深い眠りについた。

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