時間は有限
葬儀も終わり、子供部屋で寝転ぶ僕にミーサーが声をかけてきた。
「今日は、温かい風は感じられなかったよ。ミーサー、ママが亡くなってしまったよ。まだ若いのに・・・・」
「りょうちゃんのママ、本当にやさしかったね。いつも元気いっぱいで明るいママだったよ。なんだか僕も悲しいや・・・・・」
そう言ってうつむくミーサーが、僕の手を取りおじいちゃんの所に連れて行ってくれた。
おじいちゃんは、もう自分の力で起き上がることが出来ないくらいに弱っていたが、僕が現れるとうれしそうな表情をした。
「わしももう長くはなさそうじゃ。今日はどうしたんじゃ?」
おじいちゃんは震える手でそばに置いてあるお茶を取って少し飲んだ後、僕の目を見つめた。
「おじいちゃんも知っているでしょ。おじいちゃんは僕なんだから。」
「おお、わしの母親が亡くなったってことだね。思い出したよ。確かあれは小学校5年生の時じゃった。とても悲しくて悲しくてたまらなかった。亡くなる数日前には、一緒に近くの山に登って親父が作った弁当を食べたんじゃ」
「その通りだよおじいちゃん。ママは何度も何度も転びながら、誰の手も借りず1人で山を登りきったんだ。本当に強いママだった・・・」
「そうじゃった。あの時の母親の教えはその後のわしの人生を大きく変えたんじゃ。会社を興して失敗した時も、親友に騙されて一文無しになった時も、いつもあの母親の頑張る姿がわしを奮い立たせたんじゃ。」
「いいかい、りょうちゃん。君のママは偉大な人だ。君にどう生きたらいいのか体を張って教えてくれた。その教えはしっかりと心に刻んでおくんじゃ」
おじいちゃんの目に、光る涙が浮かんだ。
「うん!!胆に銘じておくよ!!」
僕は病室の窓から空を見上げた。
その日は晴天で、ママと最後の山登りをした時の空の色と全く同じで、透き通るようなきれいな青空だった。
僕はその空を見上げながらママとの約束を思い出し、もう一度胸に刻んだ。
「君がママとした約束以外にもりょうちゃんに教えたかったことがあったと思うんじゃが、それには気付いたかい?」
「えっ、気づいてないよ・・・」
「なんだろう??」
おじいちゃんは、今日は本当に体調が悪そうだ。
少しせき込んだ後、ゆっくりと話を続けた。
「大丈夫? 今日は僕帰るよ!!」
「もうわしも長くはない。君と話ができるのもあとわずかじゃ。だから、今日は最後まで話をさせてくれ!!」
「おじいちゃん、そんな悲しいことを言わないでよ。でも、おじいちゃんさえ良ければお話を聞かせて!!」
おじいちゃんは、少し息をきらせながら僕に大切な教えを授けてくれた。
「りょうちゃん。人間は生きる時間が決まっているんじゃ。君のママがこの世からいなくなったのと同じで、いつか君自身にも必ず命の時間が尽きる時が来るんじゃ。その限られた時間の中で君は何もせずに時間の流れに身を任せながら生きていくのか、時間を大切にしながら命の限り精一杯生きていくのかどっちを選ぶんじゃい?」
「僕はもちろん精一杯生きたいよ!!」
「さすが、りょうちゃんじゃ!!そのためには、どうするんじゃい?」
「う~ん。どうしたらいいんだろう・・・」
「簡単じゃよ。時間が有限だという事をしっかりと意識した上で沢山のチャレンジをすることじゃ!!」
「チャレンジ??」
おじいちゃんは、自信のなさそうな僕を励ますかのように震えるこぶしを握り締めながら話を続けた。
「チャレンジは怖い物さ。人間は安定を一番求めるからね。でも命はいずれ尽きるんじゃ。その時に何もしなかったと後悔するよりも、すべてをやり尽くしたと言えた方が良くないかい?」
「僕にできるかな・・・」
「大丈夫じゃ。君ならできるよ、りょうちゃん!!」
そう言って、おじいちゃんは静かに眠りについた。
僕は、今までどれくらいの命と同じだと言える時間を無駄にしただろう。
罪悪感から、しばらくその場に立ち尽くす僕にミーサーは現実の世界に帰ろうと声をかけてくれた。
「ミーサー、僕は今まで無駄使いはしないように気を付けていたよ。でもそれはお小遣いの話しさ。少しでも節約しておいしいお菓子を買えるように考えていた。もしかしたら正しい時間の使い方もこれに似ているかもしれないね。時間に対して“もったいない”と言う意識を持ちながら隙間時間にできる事を詰め込んで、1秒でも節約してたくさんのチャレンジに使える時間を増やしていく事が大切だという事に気が付いたよ!!」
「りょうちゃん、いいことを言うね。僕も心がけるよ!!」
現実の世界に戻った僕は、その日から時間に対する考え方がガラッと変わった。
時間は有限。
今できる事は全部やってやる。人生は短いのだから。
これが、ママから教わった大切な教えだった。




