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挫折ばかりだった僕が立て直した人生  作者: 桜影 はる(さくらかげ はる)
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第5 人生はあっという間

その年の3月、僕の小学校は卒業式を行った。

マー君たち6年生が卒業するのだ。

多くの下級生たちに慕われ惜しまれて卒業するマー君に、涙して寂しがるものもたくさんいた。


こんなに愛される人など、他にはいない。


「りょうちゃん、中学校で待ってるよ!!」


そう言って近づいてきたマー君は、自分が使っていた帽子を僕の頭にポンとのせ、手を振り小学校から去って行った。


********************************


校庭の桜が満開になった4月、僕らは5年生になった。


クラス替えがあり、今までそんなに親しくすることが出来なかった同級生ともすぐに友達になれ、あっという間に雰囲気の良い明るいクラスのカラーができ上った。


「りょうちゃんがいると、先生助かるよ」


そう言って先生もニコニコしている。


さあ、5年生も成長するぞ!!

そう心に誓いつつ、何の問題もなく5年生がスタートした・・・・と思われたが、又大きな問題が僕を襲ってきた。


その日は、学校が終わりクラスメートと日が暮れるまで遊んだ僕は帰路についた。


「ただいまー!!」


そう言って、玄関を開けリビングに入るといつも僕を迎えてくれるママの声がない。

ママ、買い物に行ったのかな?


そう思ってキッチンに行くと、ママが倒れていた。


「ママー、ママー」


僕は大声を出しながらママを激しく揺さぶったが、びくともしない。

“救急車を呼ばなければ”と受話器を握り119番通報をした。

数分後に現れた、救急隊員の方は手早く処置をしてくれ、ママを病院に運んでくれた。

病院では先生が一生懸命手当をしてくれたようで、ママは何とか一命をとりとめた。


「よかった。本当に心配したんだからね!!」


そう言ってママの手を握った僕に、「ごめんね」とママは答えてくれた。

1時間ぐらい待っただろうか。

病院に到着したパパは額に大粒の汗をかき、あわてて病室に飛び込んできた。


「ママ、大丈夫か!! 」


その声に反応したのか、ママは目を開けてにこりと微笑んだ。

その後、パパは病院の先生に呼ばれ部屋から出て行った。


「先生、家内は大丈夫でしょうか?」


「大変、申しあげにくいのですがもう長くはないと思われます。持ってもあと半年という所でしょう・・・」


「嘘でしょ、先生。嘘だと言ってくれよ!! 」


パパは、何度も先生に詰め寄ったが、先生は嘘だとは言わなかった。


病室に着いたパパは、引きつった笑顔でママの頭をなでながら「早く良くなってくれよ」と声をかけた。

ママは、「分かってる」とだけ答え静かに眠りについた。

僕は、パパに連れられ家に戻った。

そして、静かに僕に話しかけた。


「りょうよく聞くんだ。ママはもう長くはないそうだ。」


「えっ、どういうこと?」


「病院の先生が言うには、持ってあと半年・・・・ うっ、うっ、うっ」


パパは、それ以上はしゃべれなくなっていた。


僕は、頭の中が真っ白になった。

そして、涙があふれ出し大声で泣いた。


パパも僕の肩を抱き、一緒に大声で泣いていた。

しばらくたった頃、パパはむくっと立ち上がり「俺たちは男だ。りょう、ママの前では決して涙を流すな」と僕の手を握りその場に立ち上がらせた。


僕は、まだ子供だ。

パパのようには強くはなれないけど、でもパパとの約束は守ろうと心に決めた。


次の日、学校が終わると給食に出たチーズをお土産にしてママの病室を訪ねた。


「お友達と遊びに行かなくてもよかったの?」


「学校で遊んでいるから大丈夫だよ!ママ」


そう言って僕はママにお土産のチーズを渡した。

ママはまだ体調が回復していないのか顔色が悪かったが、それでも僕が手渡したチーズをおいしそうに食べてくれた。


「今日学校でクラス委員を決めたんだ。学級委員長には僕がふさわしいってみんな推薦してくれて、僕は学級委員長になったんだ!!」


「すごいわね!!りょうちゃんは頑張り屋さんだものね。さすがママの息子だわ」


そう言って、僕の頭をなぜてくれた。

ママのいいにおいが“ふわっ”と僕を包み込み思わず涙がこぼれ落ちそうになったが、何とか我慢し今日あった出来事を全てママに報告した。


「ママ、面会の時間も終わりみたいだね。寂しいけど家に帰るね」


そう言って、自宅に帰る道のりはやっぱり泣いてしまった。


それから3か月がたった頃、ママの体重は大きく減っていた。

体力も落ち、もうすぐ一人で歩けないくらいまで弱っていた。

そんなママが、僕と子供の頃に登った神武山に登りたいと言い出した。


神武山は、標高49mの小高い山で、道も整備されており小さな子供でも充分登りきれる高さの山だ。

僕が保育所に通っている頃、ママは「寄り道をしようか」と、僕を自転車の後ろに乗せこの山の中腹にある公園に連れて行ってくれた。

その公園でママが準備してくれた、お手製のおやつを食べるのがその当時の僕の楽しみでもあった。


「ママ、本気かい? 今の君の体力であの山に登るのは危険だと思うけど本当にチャレンジするのかい?」


「うん。りょうちゃんと昔よく遊んだあの山頂から見えるこの街の風景をもう一度この目に焼き付けたいんだ。パパ、いつもわがままを言ってごめんね」


「分かった。とりあえず担当の先生に聞いてくる。ダメだと言われても俺が必ず説得してくるから安心して待っててくれ」


ママの強い思いを胸にパパは何としてもその夢を叶えると言い出し、先生に直談判に行った。


パパはきっと反対されるだろうと思っていたようで、気合を入れて先生と話に行ったのだが、あっさりと許可が下りたみたいで少し残念そうな表情でママと僕の所に帰ってきた。


「ママ、先生から許可が下りたぞ!!俺の営業での仕事で培った交渉話術が功を奏したよ!!」


「ほんとう?? うれしい!! ありがとうパパ!!」


ママの顔は、一気に晴天のような明るい表情に変わった。


その週の日曜日、パパは朝から一生懸命にお弁当を作っていた。

そして僕と一緒にママを病院まで車で迎えに行き、ママに少しでも負担をかけないようにと慎重に車を運転していた。


「パパ、コンビニでおやつ買ってよ!!」


「りょう、静かにしなさい。集中力が切れるだろ!!」


そんな繊細な一面を持つパパに、ママが“クスッ”と笑った。


「パパ、私のために気を使って運転をしてくれてありがとう。その気持ち本当にうれしいよ。でも、今日は久しぶりの家族でのお出かけだから楽しい方がいいな」


「そ、そうか・・・・」


そう言って、今度は車内の空気が良くなるようにとパパが一生懸命に雑談を始めた。


「りょうちゃんが素直ないい子に育ったのは、パパのこの性格が遺伝したんだろうね」


そう言って僕の耳元でママは“こそっと”つぶやいた。


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