固い絆で結ばれた仲間
浩二君が学校に来るようになってから、僕たち4年生の結束はすごく強くなっていった。
だれもが、この件で反省したのか小さなトラブルがあるとすぐに解決するように心がけた。
その成果もあってか、もう誰も人間関係での悩みを抱える事はなくなった・・・・・と言いたいところだが現実はそう甘くなかった。
「りょうちゃん!!ドッヂボールするよ!!グランドに集合ねー!!」
僕たち4年生は、昼休みなどの長い休み時間はボール遊びをするというのが日課になっていた。
その日もいつものようにグランドでドッジボールをしていると、5年生のつとむ君が数名の同級生を引き連れて現れた。
「そこは俺たちが使うから、お前たちはどっかに行け」
つとむ君達は、ニヤニヤしながら僕たちに理不尽な要求をした。
それはおかしい。
こんな時は、逃げたらだめだ!!
僕は、つとむ君の前に立った。
「つとむ君、それはダメだよ。ここは僕たち4年生が先に取った場所なんだ。少し、右の方に避けるからそれでいい? 」
そう提案した僕をつとむ君は睨みつけた。
「お前がりょうだな。5年生でもお前の事は話題になってるぞ。俺は前からお前の事が気に食わなかったんだ。」
そう言ってつとむ君は、僕を突き飛ばしグランドのたくさんのスペースを使ってサッカーを始めた。
僕は立ち上がり勇気を持って注意しようとしたが、足が震えて動くこともできない。
クラスで人気者になったり、自分中心に物事が動くようになったりしていい気になっていた僕だったが、目の前に大きな壁が現れたら蛇に睨まれた蛙のように何もできない情けない存在であることに気付かされた。
その日から、つとむ君は僕とすれ違うたびにちょっかいをかけてきた。
ひどい時には、グランドにスペースがいっぱいあるにもかかわらず、わざわざ僕たちが遊んでいる所にやって来て、サッカーを始め僕たちを追い払うのだ。
そんな嫌がらせが何度も続いたある日、ついに僕はつとむ君に「いじわるはやめてよ」と声をかけた。
その瞬間、つとむ君の顔色は変わり僕の右の頬をグーで殴った。
目の前は火花が散ったように真っ白になり、鼻から血が流れ始めた。
「お前は生意気なんだ!!」
そう言ってつとむ君は、僕の前から去っていった。
何が、クラスの中心人物だ。
何が、僕を中心に物事が進んで行く存在だ。
何が、人気者の頼りになる人だ。
僕は、鼻血を拭き午後からの授業を受けたが、みんなの前で殴られ何もできなかった自分を責めた。
そして情けない気持になった僕は、気が付くと一筋の涙が頬を流れていた。
僕はいつもたくさんの友達と一緒に下校する。
でもその日は誰とも話したくないという気持ちが勝って、1人で家に帰ろうと急いで教室を出た。
「お~い!!りょうちゃん待てよ!! 」
浩二君が、なぜか嬉しそうに目を輝かせながら追いかけてきた。
「どうしたの?」
「りょうちゃん、仕返しに行こうぜ!! 」
「えっ 本気なの?」
「当り前さ!! もう僕は調べているんだよ。つとむ君はきっと放課後にグランドに現れるはずさ。そしてサッカーをやるのが日課なんだ。俺たちはそこに乗り込んでいって、今日の仕返しをしてやろうぜ!!」
「なんで、浩二君はそんなにうれしそうなの? 」
「うれしくないさ。僕も怖いんだ。でもこの前りょうちゃんが僕を助けてくれたお礼が出来ると思ったらワクワクするんだよ。今度は僕がりょうちゃんの力になる番だってね!!」
「ありがとう。でもつとむ君を目の前にしたら、僕は何もできないかもしれないよ」
「それが人間だからね。でも大丈夫さ!!その時はその時で考えようよ!! 前にりょうちゃんが言ってたことがあるだろ“やってみて考える”の教えだよ」
「うん!!」
僕は、家に帰って浩二君と合流して小学校のグランドに向かった。
2人とも緊張で顔が引きつり、何の会話もできなかった。
小学校の道のりは、15分ほどだ。
こんなに小学校に行くのが“怖い“と思ったことは“2年生の時に学校に行けなくなった時以来だな”なんて考えていると、その原因となった浩二君が隣を歩いているのがなんだか不思議に思え笑えて来た。
「りょうちゃん、余裕だな。最初に謝っておくよ。僕は、君を助ける事はできないかもしれない。でも逃げない事だけは約束しておくよ」
浩二君は僕の方を向いてニコッと微笑んだ。
「僕は男らしい侍が大好きなんだ。静かな心で戦い、潔く散る。かっこいいだろ!!今、僕は浩二君が侍に見えるよ」
「侍かぁ」
そう言って刀を振り回すふりをしおどける浩二君の隣にいると、不思議なことに僕も勇敢な気持ちになってきた。
「りょうちゃん、行くよ!!」
「うん!!」
小学校のグランドに着いた僕たちの目の前は、浩二君の情報通り5年生数人とつとむ君がサッカーをしている。
「おい つとむ!!よくもりょうちゃんを殴ってくれたな。あやまれよ!! 」
先陣を切って突っ込んでいく浩二君に、少し遅れて僕も叫んだ。
「つとむ、お前のすきにはさせないぞ!! 」
・・・・・・・
興奮して少しトンチンカンなセリフで戦いを挑んだ僕に一瞬ひるんだつとむ君だったが、そんなことはお構いなしと僕たちを押さえつけ何度も殴った。
浩二君は、何度も殴られ倒されても立ち上がり5年生に向かっていく。
その姿を見た僕も、必死で戦った。
しかし、僕たちは下級生。
どうしても体力で負けてしまい、5分後には僕と浩二君はグランドに押さえつけられた。
「下級生の癖に、俺たちに勝てると思ったのか。謝ったら許してやるよ」
と高笑いしているつとむ君の顔が引きつった。
「お前たち、何をしてるんだ?」
そこには、マー君が数人の6年生を引き連れて立っていた。
「ゔっ 」
後ずさりする、つとむ君の前に女の子が立った。
そして少し話を交わした後、“バチーン!!”と強烈な音があたりに響き渡った。
「ねえちゃん、ごめんなさい。もうしないから・・・」
「帰るよ!!」
あんなに威張っていたつとむ君は、美月ちゃんに耳を引っ張られながら泣きべそをかいて家に帰っていった。
つとむ君がいなくなって、学校の中心人物のマー君が現れてしまうと5年生もたまったものではない。
蜘蛛の子を散らすようにその場から去って行った。
「お前勇敢だったな、浩二。兄ちゃん見直したよ!!」
雄二君は、その場に座り込んでいる浩二君の頭をポンポンと叩いた。
そして、浩二君の手を引っ張って立ち上がらせた。
「りょうちゃん。また固い絆で結ばれた仲間が増えたね!!」
そう言って、マー君は僕の方を向いてニコッと笑った。
「助けてくれてありがとう。マー君、雄二君。」
僕は2人に深々と頭を下げた。
「りょうちゃん、帰るぞ!!」
浩二君が僕の肩に手をまわした。
僕もがっちりと浩二君と肩を組み帰路についた。




