第3話 勉強は何のためにするのか
3年生の冬くらいになると、
・誘いは断らない
・自分から誘う
・友達を大切にする
・やってから考える
・幸せは必ず人を通してやってくる
・人を大切にできない人は決して幸せにはなれない
という、おじいちゃんからの教えが確実に身についていたこともあり、今までの消極的な自分から完全に抜け出し、気が付けば多くの仲間に囲まれて、楽しい学校生活を送れるようになっていた・・・・
と言いたい所だが、実は新たな問題に悩まされていた。
***********************************
その日は、15時から先生とママと僕とで3者面談を行う予定だった。
僕は一度家に帰りお昼ご飯を食べた後、約束の時間まで友達と遊ぶために、ママより一足先に集合場所である小学校に向かった。
学校に到着すると、たくさんの同級生がグランドを駆け回っている。
「りょうちゃん、遅いよ!!」
冬だというのに額に汗を浮かべた宏君が、息を切らしながら僕の所に走ってきた。
「宏君、3者面談どうだったの?」
「僕はパパの跡を継いでコックさんになるから成績についてうるさく言われないんだ。だから特に問題なかったよ」
「いいなぁ、僕は成績が悪かったら怒られるよ・・・」
「とりあえずそのことは忘れて遊ぼうよ、りょうちゃん!!」
そう言って、同級生が集まっている所に全速力で戻る宏君の後を追って僕も走り出した。
2時間くらい遊んだだろうか。遠くから僕の姿を見守ってくれている涼やかな女性の姿が見える。
「ママだ!!」
僕は面談の時間が近づいたことに気付き、迎えに来てくれたママの所に駆け寄ると一緒に遊んでいた友達もついてきた。
うわ・・・・
いつもより気合の入ったお化粧と衣装・・・・・
少し圧倒されたが、自慢のママをその場に集まった友達に紹介すると、決して家では見ることのできないような上品な雰囲気でママはバックの中からチョコレートを取り出し友達1人1人に声をかけながら優しく手渡した。
「素敵なママだね」と宏美ちゃんが僕に耳打ちをした。なんだか誇らしい気持ちになった僕は少し胸を張り「ありがとう!!」と答えた。しばらくママを交えて友達とチョコレートを食べながら雑談をして過ごしたが、「そろそろ行こうか」とママが僕に面談に行く時間が近づいてきたことを知らせてくれると、同級生は「りょうちゃん、頑張ってね」と手を振り僕を見送ってくれた。
面談会場である教室にたどり着くと、沙奈ちゃん親子が面談を行っている。僕は廊下に2つ並べて準備してある椅子に腰を掛け自分の順番を待ったが、ママは廊下に飾ってある僕が作った工作や習字を一生懸命スマートフォンで撮影していた。
5分ぐらい待っただろうか。沙奈ちゃん親子がなごやかな雰囲気で部屋を出てきた。
成績よかったんだな・・・
うらやましい・・・・
沙奈ちゃんはママに会釈をし、“頑張って”と僕に向かってポーズを取ったがそれに答える余裕はなかった。
「夏目さんどうぞ」と教室の中から先生が僕たちを呼んだ。
いよいよだ・・・
覚悟を決め教室に入ると、先生が丁寧に椅子を差し出してくれた。
僕の担任の先生は、生徒の気持ちを一番に考えてくれるとても頼りがいのある20代の若い男性だ。ママと軽い挨拶を交わした後、先生は僕の学校での様子を話し始めた。
「りょうちゃんはクラスの中心となって同級生をまとめるくらいの男の子に育っています。率先して雑用をしたり、困っている子の手助けをしてくれたりして、本当に助かっています。昼休みなどの長い休み時間なんて、他のクラスの子がこの子の席まで会いに来るくらいですから!!」
「それを聞いて安心しました。去年までは本当に大変だったものですから」
ママは女神のようにやさしい表情で微笑み、ほのぼのとした温かい時間が流れた。
このまま成績の話をしないで面談が終わらないかな・・・・
心の底からそう思っていた僕だったが、会話が途切れた瞬間を見計らって先生が僕たちの前に通知表を置くと僕とママはその結果について唖然とした。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
「テスト結果って成績に反映されないのでしょうか?いつもこの子が私に見せてくれるテストの結果はとても良かったように思うのですが・・・・」
ママは通知表を食い入るように見つめ質問をしたが、少しでも穏便に済ますことが出来るように願う先生は、言葉を選んでいるのか黙っている。
「どうなんですか?」
2度目のママの質問に、先生は「お母さんに隠していることはないかい?」と僕に話をふった。
やばい・・・
黙ったままうつむいてこの話題が大きくそれるのを待ったが、そんなことで許されるわけもなく、ママの力強い圧力に「返ってきたテストはきちんと見せてるよ」と小声で答えたが、先生は僕のうそを見破り“真実を話しなさい”と目で訴えた。
観念した僕はすべてを話す決意をした。
「全部見せてないかも・・・」
「えっ どういうこと?」
「ママに見せるのを忘れていたというか・・・・。どこにやったか分からないテストがあるというか・・・」
凍り付いた空気が3者面談の会場を包み込み、少し前まで女神のようだったママは女神の表情は崩さず微笑んではいるものの、明らかに目の奥は怒っていた。




