勇気を出して誘ったクワガタ取り
「ただいまー」
「こんなに遅くまでどこに行ってたの?」
家に帰ると、ママが心配していたようで玄関まで迎えに出てきた。
「ママ、クワガタの飼育容器を出してよ。太一君と翔太君と一緒に裏山にクワガタを取りに行ってたんだ!!」
初めてマー君と遊びに行った時のように、今日もママはうれしかったようで、涙を僕に見せないようにしながら押し入れにしまってあったクワガタの飼育容器を出してくれた。
「心配かけてごねんね・・・」
ママの近くに行き小さな声でつぶやくと、ママは僕を強く抱きしめた。
夜の8時になるとパパは仕事から帰ってきた。
僕は、クワガタの住み家を一緒に作ってほしいと伝えると、パパは飼育容器におがくずを詰め、最高級の住み家を作ってくれた。
この日以降、僕は太一君・翔太君と一緒に学校に行くようになった。
そして1日の大半はこの3人で過ごし、つらかった学生生活に明かりが見え始めた。
そんなある日、そのメンバーでたわいのない雑談をしていると、美月ちゃんが僕の教室にやってきた。
美月ちゃんは、マー君と鬼ごっこをした時に知り合った2つ年上の女の子だ。
とてもサバサバしている性格で、あの日以来、僕を見つけると駆け寄ってくれて、いつも声をかけてくれる頼もしいお姉ちゃんだ。
「りょうちゃん!!今日私の家でホットケーキを作るんだ!!よかったら食べにおいでよ!!もちろん、君たちもね」そう言い残し、僕たちの返事も聞かず教室から飛び出して行った。
「どうする? 太一君、翔太君??」との僕の問いかけに、「そりゃ、太一君は食いしん坊だから行きたいに決まっているだろ!!」とからかう翔太君に対して「うるさいなぁ。りょうちゃん、翔太君は今回不参加にして2人で行こうよ!!」と太一君が答えた。
「ダメだよ。僕も絶対行くから!!りょうちゃん、僕も行っていいよね」と必死の表情で訴えてくる翔太君に思わず笑ってしまった3人はいつしか固い絆で結ばれた仲間となっていた。
「私たちも美月ちゃんの家に連れて行ってもらえない?」
盛り上がる僕たちの会話を聞いていた、クラスメートの女子が話しかけてきた。
「うん!!じゃあ学校が終わるまでに美月ちゃんに聞いとくよ!!」
「りょうちゃん、ありがとう♪ 」
そう言って、自分たちの席に戻る女の子は、この前マー君と鬼ごっこをした時に参加したいと言ってきた沙奈ちゃんと博美ちゃんだ。
「あいつら、この前はマー君にあこがれているって言っていたけど、今度は美月ちゃんか。ミーハーだな」とあきれたように言う太一君は、沙奈ちゃんと博美ちゃんが来るって聞いた時、とても嬉しそうな顔をしていたのを僕と翔太君は見逃さなかった。
その日の、下校時もう一度美月ちゃんが僕の所にやってきた。
集合時間を知らせるためだ。僕は、沙奈ちゃんと博美ちゃんの事を尋ねると、「いいよ!!大勢の方が楽しいから!!」と快く承諾してくれた。そして、教えてもらった時間に2年生男女5人で美月ちゃんの家を訪ねると、そこにはマー君を含めた4年生がたくさん集まっていた。
美月ちゃんはホームパーティの挨拶をしたのち、たくさんのホットケーキをテーブルに出してくれた。
「わー、おいしそう!!食べていいの?」という太一君に、「行儀が悪いよ。美月ちゃんが食べていいって言うまで待つことが常識だからね」と沙奈ちゃんが注意していたが、その横でマー君はバクバクとホットケーキを頬張っていた。
「ど、どうぞ。みなさん、いっぱい食べてね」
「い、いただきます・・・」
マー君を見てとまどう美月ちゃんの声を待ってから、僕たちはホットケーキに手を伸ばした。
「おいしい!!」
沙奈ちゃんは、小さく切り分けたホットケーキを上品に食べていた。
「パパが、洋菓子屋さんのパテシエなんだ。いつも作り方を教えてもらっているの」
そんな美月ちゃんが作ったホットケーキは、お店で売っているものよりもはるかにおいしかった。
お姉ちゃん的存在の美月ちゃんは、「まだ食べれるでしょ!! 」と僕たち2年生に焼き立てのホットケーキをたくさん持ってきてくれた。沙奈ちゃんと博美ちゃんは、料理上手な美月ちゃんに更にあこがれたようで、僕たちの事はほっぽり出して、「私たちもホットケーキを焼くのを手伝ってくる」と言いながらキッチンの方に走っていった。
テーブルでは、学年をこえていろいろな雑談をしながらとても楽しい時間を過ごした。
そしておなか一杯になった僕たちは、マー君がリーダーを名乗り出てその指示に従い片づけを始めた。
夕方になり、家に帰る頃になるとマー君の親友の雄二君が、「りょうちゃん次の日曜日、俺の家でテレビゲームをしよう!! 1人でおいで」と、僕をこっそりと遊びに誘ってくれた。
なぜ僕1人だけ誘われたのかは分からなかったが、ここでも“誘われたら必ず参加する”というおじいちゃんからの教えを守り、特に深く考えずに約束した日曜日に雄二君のおうちを訪ねた。
雄二君は、僕をリビングに案内してくれた。
扉を開いて、ソファーに腰を掛けようとして視線をそちらに向けると、僕は驚くべく光景を目の当たりにしてしまい固まってしまった。その理由は、僕が学校に行けなくなった原因を作った浩二君と宏君がいたからだ。
2人は、僕が来るのを知っていたようで不機嫌そうにゲームをしていた。
雄二君は、「りょうちゃんが来たぞ。格闘ゲームの相手をしてやれ!! 」と浩二君に命令した。
「なんで、りょうちゃんを誘ったんだよ兄貴」と言った瞬間、雄二君はゴツンと浩二君の頭をげんこつで殴った。
「えっ? 雄二君と浩二君は兄弟だったの?」
僕の驚いた表情が面白かったのか、雄二君は笑った。
「痛ってぇなぁ、兄貴。分かったよ、りょうちゃん、俺このゲーム得意だから手加減しないよ」と言いながら、浩二君は僕が選んだキャラクターを一瞬で倒してしまった。
僕は負けず嫌いだ。
「浩二君、もう一回勝負して」と再チャレンジしたけど、またしてもあっさりと負けてしまった。
悔しがる僕を見つめ勝ち誇った浩二君は余裕の表情で僕の方を見ている。
「宏君なら浩二君を倒せる?」と聞きコントローラーを渡した。「ま、まかせろ」と言いながら宏君は浩二君に挑んだが、宏君もあっさりと負けた。
「もう一度だ!!」
僕も宏君も、意地になり何回も浩二君に戦いを挑んだが、何度対戦しても結果は同じだった。
「宏君、どうしたら浩二君に勝てると思う?」
「浩二に勝つのは無理だぜ。なぜなら、浩二は勉強もせずに毎日こればっかりやっているからな」
「宏君なにか、方法はないの?」
浩二君の方を見ると、ニヤニヤしながら僕たちの方を見ているが、その顔の表情が僕たちの感情を逆なでる。なんとしてでも勝ちたいと思った僕は、必死で勝てる方法を考えたが何も浮かばない。
すると、宏君が何かを閃いた表情をした。
そして、僕の耳元で「いい方法を思いついたぜ。浩二の兄貴にやっつけてもらおう!!」と小声で浩二君討伐の作戦を伝えてくれた。
勝ちを確信した僕は、「ナイスアイディア」と宏君に告げ「僕たちの仇を取ってください!! 」と雄二君にコントローラーを渡した。
兄弟対決は、前半はほぼ互角だった。
僕と宏君は、大きな声で兄の雄二君を応援した。後半になり、あと一撃を当てた方が勝ちというところで、兄の雄二君は弟の浩二君の一瞬のスキをついて大技を放った。雄二君が浩二君のキャラクターを倒した瞬間、僕は宏君と手を取って喜んだ。
「なんだよぉ。おまえら・・・ 」
そう言ってふてくされる浩二君に、なぜか面白く感じた僕は大声で笑ってしまった。
それにつられたのか、宏君も浩二君も一緒に笑った。
そして、雄二君は「あとはお前ら適当に遊んどけ!!」と言いながら安心した表情で部屋から出て行った。
僕と宏君は、浩二君に攻略本を見せてもらいながら大技の繰り出し方のレクチャーを受けた。当然、浩二君を倒すレベルまでには到達しなかったけど、少しずつ上達する僕たちを教える浩二君はとても楽しそうだった。
その日の夕方、僕は親友の太一君、翔太君とクワガタを取りに行く約束をしていた。
・・・・・
・・・・・
う~ん。悩むけどこの2人も誘ってみるか。
そう思った僕は、勇気を出して「今からクワガタ取りに行かない? 」と声をかけてみた。以前から、僕たちがクワガタ取りの話をしているのを聞いていたのか、2人は一瞬興味を示したがなぜかモジモジしている。
小学校2年生と言っても2人は男の子だ。簡単に、喧嘩していた相手と仲良くはできないという意地があるのだろう。宏君と浩二君は、黙り込んでしまった。
「もういいじゃん。仲直りしようよ!!」
僕は、自分から出たこの言葉に驚いた。
宏君も浩二君もハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。
「・・・・・・」
「うん。行く」
宏君が重い口を開いた。
浩二君も「俺も・・・」と小声で答えた。
僕たちは家を出て、太一君、公太君が待つ裏山近くの集合場所に向かった。
待ち合わせ場所まで、10分ほどかかる。3人で歩く道のりは、少し気まずさもあったが、なるべく意識しないようにたわいのない会話を続けながら歩いた。
待ち合わせ場所には、太一君と翔太君が先に着いていた。
遠くから、違和感のある僕たち3人が歩いてきたので戸惑っていた2人だったが合流すると、何も細かい事は聞かず5人で山の中に入っていった。
いつもの、ポイントに着くと早速それぞれでクワガタを探した。
僕は、クワガタ取りの名人だ。その日、のこぎりクワガタのオスを2匹見つけてしまった。
「おー すごいな。りょうちゃん。俺、自然から取れたクワガタを見るのは初めてだよ。しかもノコギリクワガタだぜ!!」
興奮した浩二君は、目を輝かせながらずっと僕がクワガタを見つけた時の話をしている。
「この2匹は、今日僕と遊んでくれたお礼に君たちにあげるよ」と宏君と浩二君の虫かごに1匹ずつクワガタを入れてあげた。
「いいのか、りょうちゃん。ありがとう!! 」
浩二君は大喜びをしてくれた。
宏君は何も言わなかったが、虫かごの中のクワガタをうれしそうにいつまでも眺めていた。




