一番の収穫は、“やってみて考える”ってこと
次の日の朝、大きな声で「いってきます」とは言えなかったけど、とりあえず家を出ることが出来た。
校門を通過すると、何人かの同級生にすれ違った。
僕は、おじいちゃんと約束した通り「おはよう」とあいさつをするつもりだったが、やっぱりそれはできなかった。
なんてダメな奴だ・・・。そう思うと、足が重くなる。
それでも何とか下駄箱の前までたどり着いた僕は、上履きを手に取り靴を履き替えようとした。すると、いつものように足が震え出したけど、“気にするな。震えていない”と自分に言い聞かせ、無事に上履きに履き替え重い足取りで教室に向かった。
教室に入るには覚悟がいる。
大きく息を吸い込んで“どうとでもなれ”と、思い切って教室に飛び込んだ。
不意に現れた僕を見た同級生は、驚いたのか教室が一気に静まり返った。
みんなの注目が集まった僕は一瞬固まったが、勇気を振り絞ってあいさつをした。
「お おはよう!!」
・・・・・
・・・・・
「りょうちゃんだ!!」
「おー、りょうちゃん!!」
「おはよう!!」
「おはよう!!」
僕は、信じられなかった。
誰もあいさつすらしてくれないと思い込んでいたクラスメートが、挨拶を返してくれる。“やっぱりおじいちゃんが言ったように、学校に来てよかった。”そう思った瞬間、教室の後ろのドアから浩二君と宏君がつまらなそうな顔をして出て行った。
「りょうちゃん、気にするなよ!!」
「あ、ありがとう」
僕は、平気な顔をするように心がけたが、動揺したことはそこにいる全員には分かったと思う。
やっぱり、あの2人は僕の事をよくは思ってはいないみたいだ・・・。
もう家に帰りたい・・・・・。
そう思うと急に悲しくなり目に涙が浮かび、僕は教室を飛び出しトイレに駆け込んだ。
すると、“ふわっ”と温かい風が吹いた。
「ミ―サー、やっぱりだめだったよ・・・」
「ばっかだなぁ、りょうちゃん。悪い所ばかり見たらだめだよ。うまくいった所、予想通りの所、悪かった所など、しっかりと分析するんだ」
「分かったよ。ミーサー」
僕は、今の状況を考え始めた。
「えっと・・・良かった所は、ほとんどの同級生が僕を温かく迎えてくれた所だな。予想通りの所は、浩二君と宏君がやっぱり僕を避けている所で悪かった所は・・・・」
ん??
悪かった所・・・・
ん??
ないかも。
という事は、ここに来る前に考えていた状況よりよっぽどいいんじゃないか!!
そう考えると、なんだか元気が出てきた。
「りょうちゃん、どうだい。やってみて分かったことがいっぱいあったんじゃない?」
「そうだね、ミーサ―」
「“分からないときはやってみて考える”そんな方法もあることをおじいちゃんが君に教えようとしていたんじゃないかなぁ!!」
「そういうことか!!ありがとう、ミ―サー。勉強になったよ」
僕は、ミ―サーに向かってお礼を言ったが、せっかちなミーサーはもうそこにはいなかった。
・・・・・・・・
きっと、神様は忙しいんだね・・・。
僕は、1人でつぶやいた後、もう一度勇気を振り絞って教室に戻った。
それ以降の学校生活は、浩二君と宏君の件を除けばすべてうまくいき、あっという間に1日が終わった。家に帰るとママが、すかさず「学校どうだった?」と聞いてきた。僕は、「何とか明日も学校に行けそう」とだけ答えたが、それを聞いたママはホッとした表情をしていた。
その日の晩御飯を食べた後、パパが僕をお風呂に誘ってきた。そして、男同士のミーティングが始まった。
「りょう、まずはおめでとう。勇気を出して学校に行ったという事実は本当にすごいよ。今日のこの感覚をよく覚えておくんだ!!」
「分かったよ。パパ ありがとう!!」
「どうだった? 何か学んだことはあったかい?」
「一番の収穫は、“やってみて考える”ってことかな。僕はありもしないことを考えそれに怯え、家から一歩も出ることが出来なくなったんだ。でも、実際に学校に行ってみると、ほとんどが勘違いで、何の問題もないことに対して恐怖を感じていたんだ。これからは、どうしようか見当のつかない場面にぶつかったら、思い切って飛び込んでみてその状況からいろいろなデーターを集めて対応していくっていう方法もありだという事に気付いたよ!!」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「りょう・・・。小学2年生なのにすごいことに気付いたね。 その言葉、パパも参考にするよ・・・・」
大人の想像をはるかに超えた答えに焦ったパパだったが、しばらくして落ち着きを取り戻すとこう話し始めた。
「もうパパが何も言わなくても大丈夫そうだな。きっとお前なら何とか乗り越えることができるよ。困ったことが起きたらパパが持っているすべての力を使ってお前を守ってやるから、自信をもって明日も学校に行くんだぞ。分かったか、りょう!!」
「うん!!僕頑張ってみるね。だからパパもお仕事頑張ってね!!」
そう言ってパパより先にお風呂からあがると、僕の体を拭くためママが待機していた。
「りょうちゃん、パパと何を話していたの?」
ママは興味津々に聞いてきたが、男同士の秘密だと答えこの日はすぐに子供部屋に戻り布団の中に入り込みぐっすりと眠った。




