おじいちゃんの教え
その日の夜僕はベッドに寝そべり、天井を見上げながら今後の事をいろいろと考えた。
どうしよう・・・
そうつぶやいたとき、温かい風がふっと吹き出した。
「だっさいなぁ。りょうちゃん・・・・」
あきれたような表情をしたミーサーが現れ、そうつぶやいた。
「うるさいなぁ。ミーサーを呼ぶとバカにされそうで嫌だったんだ。呼んでもないのに、会いに来ないでよ。さよなら!!」
僕はふてくされるように言ったが、ミーサーは帰る気配がなかった。
しばらく沈黙が続いたが、根負けした僕はミーサーに話しかけた。
「どうすればいいと思う? 頭では“学校に行かないと”って思っているんだけど体が動かないんだ・・・」
「知ってるよ。だってずっと見ていたもん」
「もう、僕一人の力ではどうすることもできないよう」
「そうかぁ・・・・。じゃあ、おじいちゃんにアドバイスを貰いに行ってみる?」
僕は意地っ張りだ。おじいちゃんにいい報告ならできるけど、今の現状を話すのには気が引ける。一瞬ミーサーの申し出を断ろうと思ったが、何とか今の状況から抜け出したいとの思いからその提案を受けた。
この頃になると、時空の行き来は慣れたものだ。あっという間に、おじいちゃんに会うことが出来るようになっていた。
突然現れた僕に、驚いたおじいちゃんだったが嬉しそうに“よく来た”と歓迎してくれたことは本当にうれしかった。
「おじいちゃん、僕は友達と喧嘩をしたことが原因で陰口を言われたりバカにされたりして、学校に行けなくなっているんだ。本当は “何をされてもどうってことない”って顔をして過ごすことが出来るといいのだけど、悪く言われる恐怖と仲間外れにされてみっともないという気持ちが入り混じり、家から外に出られないんだ。おじいちゃん、どうしたらいいと思う?」
僕は、プライドが高く意地っ張りの所がある。こんな話を人にするのも嫌で、自分の心の中に閉じ込めておきたいという気持ちはあったが、現状を打開するため、ワラをもすがる思いで、一番信頼のおける自分自身なら素直に相談できると思いこの話を打ち出した。
何とかしてあげたいと思ったのか、いつもおどけてばかりいるミーサーも、この時ばかりは真剣な表情でおじいちゃんが話始めるのを待った。
しばらくすると、おじいちゃんはこう言った。
「りょうちゃん、本当にお友達は君の事を嫌っているのかい?もしかしたら、みんなが自分の事を嫌っているって思い込んでいるだけじゃないのかな?」
「そんなことはないよ。だって浩二君と宏君は確実に僕の噂話をしていたし、あいつ達はクラスの人気者だからきっとみんなをまとめ上げて僕をのけ者にしようとしているはずだもん」
「ハハハ、りょうちゃん、今おもしろい事言ったよ!!」
「えっ? どこがおもしろいの?」
「今言ったりょうちゃんの話の中に、浩二君と宏君は、君を“のけ者にしようとしているはず”って言ったね。“のけ者にしようとしているはず”っていうことはのけ者にされた事実はなく、りょうちゃんの想像の話じゃないのかい?」
おじいちゃんは、ニコニコしている。
そして、しばらく間を開けたのち、こう聞いてきた。
「よく考えてごらん。本当に君は学校に行くといじめられるのかい?」
・・・・・・
・・・・・・
「それはどうか分からないよ。だってまだ僕はなにもされていないしね。でも学校に行くと、きっと僕はいじめられるんだよ」
思いもよらない質問を受けたじろぐ僕を、おじいちゃんは落ち着いた表情で見つめている。
「おじいちゃん、そんな目で見ないでよ。そりゃ僕だって学校に行きたいに決まっているよ。でも、僕が学校に行くと絶対みんな嫌な顔をすると思うよ」
「それで?」
「僕を教室に入れないために内側からカギをかけるまもしれないね」
「ふ~ん。その後はみんなどうするんじゃ?」
「僕の教科書や荷物を窓から投げ落とすんだ。先生も僕をはれ物に触るように恐る恐る対応するだろうな・・・」
「ハハハハハ。じゃあ聞くけど本当にりょうちゃんが言ったことが起こるのかい? やっぱりおじいちゃんが言った通り、今話したことは、りょうちゃんの想像の世界の話じゃないのかい? 」
何も答えることが出来ない僕の目を見つめ、おじいちゃんは子供の僕にも良く分かるように言葉を選びながら話を続けた。
「これは、りょうちゃんだけではなくすべての人が同じことを感じるのだけど、人間は自分の心の中で作り上げた架空の恐怖によって身動きが取れなくなってしまう事があるんだ。そしてその架空の恐怖は、どんどん人の心を虫食んでしまい人を壊していってしまうんじゃ。でもよく考えてごらん。本当にりょうちゃんの言っている通りの架空の恐怖が訪れるのかい?どうかな、りょうちゃん」
「分からないよ。でも、それなら僕はどうしたらいいの?」
「そうじゃな。本当にりょうちゃんが言っていることが起こるかどうか学校に行って試してみたらどうじゃい?」
「学校に行くのが怖いよ。だって僕が学校に行こうと思っても足が震えて動かないんだ」
「ふーん。そうなんだ」
「時間割も分からないし、宿題の範囲が分からないから先生に怒られてしまうよ」
「それで?」
「教科書もどこにしまったか分からなくなったし、制服にアイロンだってかかってないからみんなに笑われるよ」
僕が思っていることを全部話し終わった頃を見計らって、おじいちゃんはやさしい口調でこう話し始めた。
「りょうちゃん、君がおじいちゃんに話した内容を思い出してごらん。君はこう言ったんだよ。“僕が学校に行こうと思っても足が震えて動かないし、時間割も分からないから学校に行っても困ってしまうし、宿題の範囲が分からないから先生に怒られてしまうのが嫌だし、そもそも教科書もどこにしまったか分からなくなっていて、制服にアイロンだってかかってないからみんなに笑われる”ってね。」
「いいかい。りょうちゃん。君が話した内容はすべて学校に行かなくても済むように自分を納得させる内容の話をしていないかい?」
「・・・・」
「・・・・」
黙り込む僕を見つめ、おじいちゃんは話を続けた。
「よく考えてごらん。今のりょうちゃんの発言の中のどこに学校に行ける方法が隠れているんだい?本当は学校に行きたいんじゃろ。それなら今度は学校に行ける方法をおじいちゃんに話してくれないか?」
「・・・・・」
「・・・・・」
しばらく考え込む僕の言葉を、おじいちゃんは待ってくれた。
そして、自分の考えがまとまった僕は、ゆっくりと話し始めた。
「もし学校に行くならまずは担任の先生に明日の時間割と宿題について電話で聞かないといけないな。そしてママに制服のアイロンがけをしてもらって、その間に時間割を見て明日の準備をしよう。学校に着いたら、どんなことがあっても自分の席までは行ってみる事を心掛け、目があった友達には全員に挨拶してみるよ」
おじいちゃんは、もう少しで大切な事に気付きそうな僕にうれしそうな顔をしてこう話し始めた。
「りょうちゃん、気付いたかい?今のが学校に行く方法じゃ。明日試してみな。きっとうまくいくよ。だって、りょうちゃんの体の中にはご先祖様から頂いた“困難から逃げない”っていう血が流れているからね。もしうまくいかなければ、又ここにおいで。一緒にいい方法を考えてあげるから!!」
「ありがとう、おじいちゃん。確かに僕は逃げる事しか考えてなかった。でも、おじいちゃんが導いてくれた学校に行く方法を実際に試すとどうなるかが楽しみになってきた。ゲーム感覚でおじいちゃんの提案に乗ってみるよ。ダメならゲームオーバーでもう一度ここに戻って来るね!!」
おじいちゃんは、満足そうな顔をして僕の方を見ている。
こんなことでうまくいくとは思ってはなかったが、“ゲーム感覚で学校に行こう”という考えは少しワクワク感があり実際に試してみたいと思った。
現実の世界に戻った僕は、すぐに担任の先生に電話をして宿題の範囲を聞き、ママに制服のアイロンがけを頼んだ。先生もママも僕の変わりように驚いていたが、うれしそうにしている姿を見ると、誰もが心配していてくれたことが良く分かった。




