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#8 昔の私、どこかいけ


「どうしたんだよあんたら」


2人は固まったまま動かない。


「……あぁいや、なんでもないよ、晃司の彼女可愛い人だなぁって思って」


「……私も大した友達いないって言ってたのにこんな美人な人と友達なのがびっくりして」


怪しい。目が泳いでいる。特に胡夏さん。絶対なんか裏あるやつじゃん。

もしかして元々おんなじ中学校の人か。もしくは小学校……?


この前の配信といえ、胡夏さんの不審な言動といえ、今回の妙な反応といえ……この世界はどうなっているんだ。俺がおかしいのか……?


ああもう訳わかんねぇ。吐き気がしてきたよ……


「ごめんちょっと俺もトイレに……」


「いいよ、いってら」




「胡夏……マジで……?」


実はこの千冬ちゃんとはDMで知り合った女の子なのだ。しかももうすでに実際3回くらい会っている。お互いの顔も知りに知り尽くしている。


「まさか幻夢が嵐紫と付き合うとは思ってなかった。この事って誰かに言ったことあるの?」


「まだ……汐ちゃんににしか言ったことない」


「胡夏がVtuberってことは言ってないの?」


言ってもいい。言ってもいいんだけど。自分から言うのはなんか気が引けてくる。自慢しているみたいで。


「ううん、まだ言えてない。言ってもいいんだけど、Vtuberは存在がバレてはいけないから。向こうにバレるまでは言わない」


バレたら春江さんに何て言われるか。もしかしたらアイドルVtuberである私と付き合っていることに罪悪感を感じ、自然に距離を取られるかもしれない。


「言ってもいいと思うよ?」


「えっ」


「隠し事をしながら付き合うって胡夏も辛いでしょ?だから今日あんたの家まで行って、言ってあげなよ」


家……!?

バラすということよりも家に呼ぶということに衝撃を受けた。今は家は一人暮らしだけど、だからと言って家は流石に……


でも隠し事をしながらいるのがしんどいというのも本心だった。


でもやっぱり言うわけには……いや、ここで引き下がっちゃダメ。私は昔のような臆病のままの女の子で終わりたくない。汐ちゃんだってここまで私の我儘に付き合ってくれたんだ。将来は私の子……バカ。


「……うん。呼ぼう」



そしていよいよ春江さんが帰ってきた。


「ごめん、待たせたよな、それじゃどこ行く?」


私は千冬のアイコンタクトに頷く。


「私の家に行きましょう」


「おっけーじゃあ胡夏さんの家に…………へ?」


 春江さんが困惑していたのにも関わらず私は自分の家へと足を向けて歩き始めていた。それもそのはず、Vtuberとバレないため、私は今まで、住んでいる家に汐ちゃん以外の人を呼んだことがない。どう迎えればいいのか本当にわからなくて、いてもたっても入れなくなり、足早に自分の家に向かった。


「歩くの早っ……お前はいいのか?千冬」


「いいじゃん。晃司の彼女の家がどんなもんなのか気になるでしょ?」


「ま、まぁ」


「ほらいこいこっ」


「ちょ」


晃司は千冬に連れられるまま足早な胡夏の後ろをついて行った。



私の全てをさらけ出す——恐ろしすぎる。

色々考えながら歩いていた胡夏は、いつもは駅から近いはずの自分の家までの道が、今だけは永遠にも感じられた。


「ここです」


「おぉ、めっちゃ大きい。これ新築なのか?」


「そうだよ〜」


春江さんの言う通りだ。私は大学生になってから今の自宅がある場所の土地を買い、家を建てていたので、だいたい築四年。1人で住むには少し大きい二階建てなんだ。

 私は2人を家にあげて、自分の部屋がある2階に向けて、階段を登る。だけど、その途中で足が氷のように固まる。


……3年間、誰にも言わなかった秘密が今解き放たれるのか……やっぱりダメかも。


——ここまで来たのに。あと数歩のために足が動いてくれない。


「どうした胡夏さん」


春江さんも見てる。私はVtuberであることがバレることへの恐怖に苛まれていた。


どうしよう……私やっぱり無理かも。もう私は昔のような臆病なままでいよう。私にあたらしい世界なんてまだ早かったんだ。


春江さんには悪いけど……


「大丈夫だよ。私がいるから」


!!千冬ちゃん……そうだよね。千冬ちゃんが全部カバーしてくれる。


「え?私がいるからって何?」


胡夏は困惑している晃司を置いて階段を上がって行った。


 私は2階に上がり、部屋のドアノブに手をかける。少しは拒んだが、私は思い切ってドアを開けた。その瞬間私は何か今までとは違う感覚を胸に覚えた。後から2人も私のプライベート空間に足を踏み入れる。


「おぉ……めっちゃグッズだらけ。あれとか俺のやつだよね。あれ買ってくれる人いるんだ」


春江さんが指さしたのは秋風 嵐紫の等身大抱き枕。何か嫌なことや、恥ずかしいことがあると取り出して5分くらいくるまって気持ちを落ち着けている。でもそれは秘密にしておく。普通に恥ずかしい。


「なんかthe女の子って感じの部屋だね〜 初めて見た」


千冬ちゃんは変な演技をしていた。ここにも何回か来たことあるのに。


「これって配信機材?」


 ついに春江さんはいつも配信をしているデスクの上にある配信機材とパソコンに目をつけた。同業者だけあってすぐ気づいた。


「うん。親に配信活動するから買ってーって言ったら、その年の誕生日に買ってくれたんだ」


「……そうそう買ってくれるもんじゃないと思うんだけど。親は相当金持ちなんだね」


そしてついに。


「てか配信活動してるんだね。胡夏さんってなんのゲームの配信者なの?」


私にとっての運命の質問が私の元に届いた。今までの春江さんの言葉の中で1番私のことをこわばらせた。そして私は誰にも気づかれないように小さく、深い、深呼吸をして、喉奥から返答を吐き出した。




「私、実はあのアイドルVtuberグループで配信活動をしている、6期生の月草 幻夢なんだ」


もう私はこれからこの人とずっとそばにいるんだ。昔の私、どこかにいけ!

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