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#6 私だって

『お前、俺と付き合えよ』


『ごめんなさい、まだ付き合うとか考えたことなくて』


『はぁ? お前に否定する権利なんてないんだよ。いいから付き合えよ』


 自分の周りには浦本さんの味方しかいない。周りからの圧が凄すぎて、これ以上声が出ない。

 そこに追い打ちをかけるように、私の顔にはビンタが張られた。


『……お前、おもんないわ。見た目はいいのに中身最悪かよ』


私は恐怖で動くことさえできなかった。それどころか泣き出してしまったんだ。


『うわ、ダセェ。泣き虫じゃん』


『やっぱり浦本の力強いな』


『弱虫すぎるでしょ〜』


何も言い返せない。言い返せるような相手じゃない。


 そのあと、私は浦本らの隙を見て走って逃げた。走り去る背後ではずっと笑い声が聞こえていた。

私はそれだけで済んだと思った。だけど本当の地獄はここからだった。


 毎日何かを隠されたり、呼び出されては付き合うことをせびられる。そして断るたびにナイフのような尖った言葉が投げつけられる。殴られることだってあった。私はそのまま一度もokすることがなく中学を卒業している。それのせいで、地元か同じだから、いまだにずっといじられるし、せびられる。断れば殴られる。一体私はいつまでこのループをしないといけないのだろうか?


 そんな心の救いとなるのが高校で会った汐の存在。彼女は私と何か似たものを感じたんだ。そこからずっと大学まで一緒にいるんだ。何をする時も一緒。まるで幼馴染のようだった。浦本さんの事も色々と相談に乗ってもらった。


 高校生の最後の方から私は、汐にVtuberになるにはどうしたらいいかとかもたくさんアドバイスをもらったんだ。そのおかげで今こうしてほぼ不可のない生活を続けられている。


 彼女がいなければ今の私はなかったのかもしれない。


 私は汐だけでも十分だったのに。愛する人ができてしまうとは。それも同業者の超イケボの超イケメン。それに歌上手い。もう、いつ声を聴いても勝手に体温が上がる。性格も相待って汗も出てくる。いよいよ私は末期なのかもしれない。


「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 胡夏は嵐紫の抱き枕と自分の抱き枕の間に挟まって、1人で叫んでいた。これは確定で末期。


うぅっ、私の本来の姿はいつバレるんだろう……? できればバレたくない……だけど、早く明かしちゃって歌枠コラボしたいって言うのも事実……





「こんにちは〜今日も僕の配信に立ち寄ってくれてありがとうね」


 晃司はそのあといつも通りの自己紹介と挨拶を終わらせると、いつものパソコンに向かい、いつものリスナーたちと会話を交わす。


「今日は〜……サムネにもある通り、完全フリーの雑談枠なんで、色々話しましょうね。あと、後半は歌枠するんでそっちも見て欲しいです」


すると開始早々スパチャが飛んできた。


「あっ、10000円スパチャありがとうございます……!」


 今日は汐じゃないんだな。いつもはすぐ投げてくれるのに。今日は忙しいんだろうな。


 などと思いながら、感謝の気持ちを伝えるため名前とコメントを読み上げようとすると、そこには信じるにも一生信じられない内容が画面に表示されていた。


「えぇっ!?リリスさん!? え、なんで? 『今日もお疲れ〜歌枠楽しみ』だってぇ!?」


 いきなり俺の目に飛び込んできた『闇喰 リリス』の5文字。その文字列は胡夏さんに告白された時以上の驚きがボロに出た。


 当然、いきなり現れたあのアイドルVtuberグループの闇喰 リリスにチャット欄は騒然。画面越しの彼、彼女もまた俺と同じような驚きを味わっているのだろう。しかし、俺の驚きはまだ続きがある。


「リリスさん……えぇ、マジか。実は海莉さんだけじゃなくてリリスさんも推しなんですよ僕」


もう、なんと言うか、最高。


『嵐紫のこんな幸せそうな顔初めて見たw』


『おめでとう』


『マジで尊敬、頑張った甲斐あったな』


 と、コメントが沸いている中、またリリス様からスパチャが飛んできて、また悶絶した。


『よかったら今度歌枠コラボしません?全部こっちが準備するんで』


「マジで!?」


 マジで、しか口に出せなくなった晃司はこれは夢かと頬をつねりながら、感謝の意を述べる。


「今度連絡よろしくお願いします」


ちょっと……大変なことになったな。


 そのまま俺は雑談配信を続けていたわけだが、途中で飲み物補給のために離脱した。……その裏でかなりチャット欄が動いているのには気付くまでもなかった。




 同時刻。今日も今日とて嵐紫の配信を見る幻夢(胡夏)は驚愕していた。


「リリス……!? 何勝手に歌枠コラボ申し込んでるの……!? ずるいぃ」


私が先にしたかったのにっ……! でもまだ今なら……!ー


配信上で仲が良い闇喰 リリスに勝手に抜け駆けされてしまった幻夢は、すかさず引き出しに隠してあったプリペイドカード(高級)を数枚取り出して……




「ごめんね〜今戻った、あと、んー、10分くらいかな?じゃあ今のうちに希望聞こうかな」


 そう言ってコメント欄を見ると、また何かリスナーのみんなが騒いでいる。よく見ると何やらまた赤スパが飛んできている。しかも3回で、同一人物。


「3回!?!?」


 10000円×3回という、このチャンネルを立ち上げて初の、スパチャ金額を打ち立てた。誰なんだよこんな赤スパする人。金持ちすぎな。


……月草 幻夢さん……?? えっ、150万人越えの……


「はっ!?幻夢さん……!?なんでうちに……!?!?」


晃司の脳じゃ当分追いつけない情報量だった。


『こんばんは、いきなりでごめんなんですけど、今度コラボしましょう』


合わせて2人。アイドルVtuberグループの精鋭が。うちの配信に……?


「ちょっとごめんなさい……」


 気持ちの整理をするべく、ミュートにして布団に転がり込んだ。


ありえない……! 推しが来るだけでなく、150万人越えの人まで来るとは……!!

え……もしかして、海莉の配信で言ってたリリスが好きな個人勢Vtuberは俺だったってことかよ……


 結局、幻夢のコラボも引き受けて、そのあとは、お待ちかねと言わんばかりの全力歌枠を披露した。


「お、おつありでした〜……」


 脳が疲れ切って配信を終えたが、配信を閉じるとすぐにもう一度YouTubeを起動した。やっぱりもう今日の配信の件でショートを出されていた。


「マジでやばい」


 晃司は推したちが現れた喜びと、急にこんなチャンネルにやってきた驚きと、これのせいで色んな人に知られてしまうという焦りで顔色が変になっていた。

 さらにそこに追い打ちをかけるようにスマホが鳴る。


『今日の配信の件なんだけど……』


胡夏さんだ。俺はもう今は泣きつくしかない。ダサいけどこのままじゃ脳が死ぬ。


『今日マジでびっくりしすぎて死にそう、人生でこんなびっくりしたことはない』


『すごいですね春江さんは。あのアイドルVtuberグループの人を推しにさせるって。しかも歌枠コラボを急にせびられるのも面白かったです』


『この1ヶ月間気を引き締めて頑張らないと』


『うん、頑張ろうね』


 その時は早くお風呂に入ってしまいたかったので、何気なく会話の最後の文を流していた。しかし、それは寝床に入った時に突然思い出す。


「……はーっ、なんか今日はすごい疲れた……明日大学行くのめんどくさくなってきた。……あのアイドルVtuberグループの2人と歌枠コラボか……胡夏さんも『頑張ろう』って言ってくれたしな」


ん……?『頑張ろう』。か。応援する時の言葉だよな。でも……なんか引っ掛かるし、なんか変な感じがするが…………


……まあいっか。早く寝ないと。


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