#4 知らないでいてほしい
『わかった、そっちの最寄駅に集合するって胡夏さんに言っておいて欲しい』
晃司から返事が返ってくると汐は胡夏に後ろから抱きついた。
「こなっちゃん、いけたよ〜日曜日にこなっちゃんの家に近い駅で集合するって。最寄り駅がどこかだけ教えてってさ」
「ほんと……!?」
汐と胡夏は2人でアガっていた。
「いや〜よかったじゃん、付き合えて。大好きな推しのVtuberと2人きりのデート。夢のようだね。気合い入れて行きなよ? 」
「……あの告白の仕方は本当にやってて死にそうだったんだからね」
そう。あのノリは全て汐ちゃんが考えてくれた告白の仕方なんです。聞いてるだけでもインパクトすごい。さらにいざやってみると、恥ずかしくて爆発しそうだった。というかもう私のどこか一部分はもう爆散しているのだろう。脳みその一部とか。もう2度とやりたくない。
「こなっちゃん今日配信ある?」
「あ、うん。この後9時から。今日は久しぶりのマイクラ配信するんだ」
「めっちゃ久々じゃん。絶対見に行くから。楽しみにしとくよ〜」
そう言って2人は別れた。私くらいの人気になると毎日毎日配信配信……昼夜逆転も稀じゃない。日曜日はたまたま完全フリーだったのだ。
「Vtuber同士の恋。禁断の恋だね、こんなのリスナーに知られたら終了だよね。絶対バレないようにしないと」
日曜。禁断の恋がついに始まる日。胡夏はいつもより厚化粧をする。今までした事ないくらい力を入れて、フルメイクに仕上げた。何故か勝手に力が入るんだ。
「よし……これでいいんじゃないかな。胡夏、あなたしっかりやるんだよ」
メイクを終えた胡夏は、最後に鏡に向かって励ましの言葉を投げかける。
これでもうバッチリ! ……なはず。
そして足軽に家を飛び出し、未だかつてない気持ちで駅に向かう。
……早く着いて欲しいなぁ。待たせてないかな?
会いたい気持ちがすでに爆発していた胡夏だった。
まもなく——名倉——名倉です———
「名倉……ここだな。結構郊外にあるんだな」
胡夏から教えてもらった駅に行くと、晃司を待っていたのは、建物やビルが多く見えるが、周りを山に囲まれている自然豊かな場所。いつかはこういう場所に住んでみたい、としみじみ思う晃司であった。
しかし、それとは裏腹にある想いが晃司にはあった。
「やっぱりやめた方がいいのかな」
あの時、晃司が居合わせたのは、告白を断れないような空気だった。それにやられてOKしたが、よくよく考えてみると、あんな美人な胡夏さんが自分と付き合っていいわけがないような気がする。釣り合わない。
駅に着くと、とりあえず晃司はよくわからない銅像の前で、胡夏を待つことにした。
どれが胡夏さんだろうか……?
郊外の駅とはいえ、私鉄が乗り入れて、特急も止まる駅。晃司の最寄駅ほどではないが、利用客数も多い。そんな事を思っていると、晃司は急に胡夏に腕に絡みつかれた事を思い出す。今思い返すと恐ろしかった。
あんな美人な胡夏さんにあんな事されたのか……?俺、マジで今まで経験ないからいきなりあんな事されるのは気が引けるというか……何というか……
ピコン
スマホが鳴った。胡夏からだった。
『駅着きました、どこに居ますか?』
着いたみたいだ。晃司はすぐに自分の居場所を伝えると、胡夏はすぐ来てくれた。
「こんにちは春江さん、わざわざ来てくれてありがとうございます。私の格好どうですか? 変じゃないですか?」
俺の目に映ったのはこの前の胡夏さんとは違い、髪型をツインテにして、色も茶色に染めて、首元には高級そうなネックレス。まるで別人。多分フルメイク。
「あ、いや……、すごく、可愛い。似合ってるよ。……っていうか、本当に来てくれたんですね。自分に彼女ができると思ってなくてさ、さっきから自分の頬を抓ってたんだ」
「行かないわけないじゃないですか。あのVtuberやってる人とのデートなんですから」
自分のためにここまでしてくれているのに、付き合えないなんて言えない。多分言うと殴られてもおかしくない。
それでも自分の為に言わないと。……言わないといけないんだけど、やめろって思ってる自分がいて苦しい。
「あ…………」
「どうしたんですか?」
ついに言おうとしたが心の中の自分がやっぱり止めてくる。
「いや、何でもない。行こうか」
これは言うタイミングを見計らうしかないな。でもデート終わった後にいうのはな…… なんか気が引けるというか何というか。
「じゃあ、とりあえずご飯食べに行きませんか?」
そう言って彼女は駅から少し歩いたところにあるラーメン屋に行こうと誘ってきた。
胡夏さんって昼からラーメンいけるのか…… 猛者だな。
よっしゃぁぁぁ、ラーメン屋誘えたー!嬉しすぎて爆発しそう……!
私黒井 胡夏は心臓がはち切れそうです。今、推しである秋風 嵐紫の生の声を独り占めにしています。ガチリスナーとしてこれは夢のまた夢ですね……!
どうしよう。自分だけのものにしたい。そしてあんなことやそんなことも……
そう欲望に溺れていると晃司が急に話しかけてくる。
「あの、胡夏さんってどのVtuberが好きなんだ?」
「へっ?」
いきなりすぎる質問に困惑する胡夏。
「ほら昨日Vtuber好きだって言ってたから」
確かに言った。だけどそれの真実は私がVtuberそのものだし、好きなのは秋風 嵐紫ただ1人。春江さんしか勝たんのだ。
だけど、本人目の前にして……いや、一回告白してしまってるし、好きなのは絶対にバレてるはず。
「……秋風 嵐紫さんが好きなんです」
「え……」
ふたりの間には言葉がなく、宇宙空間のような空気が流れた。
「ガチ?」
「ガッチガチのガチリスナーです」
マジかよ……!? 汐だけじゃなくて胡夏さんもだと……!? どんな偶然だよ。
てっきり海莉とかその辺が推しなのかと思ってた。
「なんで……?」
「なんでって……純粋に声が好きだったから。歌声とか無限に聴いてられる。仕事をする上での目指したい存在なんだ」
……え?
「仕事をする上で……?」
その部分が引っ掛かり、聞き返すように突っ込むと、胡夏は何かあったかのように急に顔を下げた。
やばい、なんか変なこと言ったのかな?とりあえず謝らないとな……
「あ…その、いや、ごめん」
「……大丈夫です。急にすみません」
そう言うと胡夏は早く行こうと言わんばかりに足早になった。
あ、嫌な思いさせたなこれは。こういういらない発言してしまうから中学でも避けられたんだろうな……
晃司が1人で過去を思い出していると、胡夏は急に止まり、こっちを振り返った。
「春江さんって蒼芽 海莉さんと闇喰 リリスさん以外に見てるVtuberはいないんですか?」
「あ〜そうだな……」
晃司は考え込んでいた。
「あの、私もその2人と同じアイドルVtuberグループの人で推しがいるんですけど……」
胡夏がそう言った途端、晃司の後ろの方から誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。
「よぉ〜幻夢。久しぶりぃ、元気にやってるかぁ?」
え、幻夢……?




