#3 ラブコメ上位互換
汐がトイレで部屋を出て行ったカラオケ部屋は緊迫した空気が流れていた。晃司は何か話す内容がないか積極的に脳内で探る。
『やばい……どうしよう……喋れねぇよ』
胡夏は人見知りだが、晃司もまた初対面の人には人見知りだった。
『『早く汐帰ってきてよ』』
思いっきり2人とも同じタイミングで同じことを考えた。
相手の好きなものや趣味を知らなければ性格や内面も知らない。お互い名前しか知らないから、お互い話をする事ができないのだ。
相手の心情や性格を読み取れるようなエスパー的な能力が欲しいなあ……
そんな馬鹿事を考えていると胡夏がいきなり口を開いた。
「、、、あのさ」
「ん?」
いきなり話しかけられると困るって……
晃司は平静さを装おうとしたが動揺が顔に出ていた。その動揺を加速させてトドメを刺すかのように胡夏は言葉を発した。
「あの、私のものになってくれませんか……?」
「は……?」
一瞬相手が日本語を喋っているか分からなくなった。私のもの……???え……?何を言って……え……?この状況に、理解が徒歩と特急列車のスピードの差くらい追いついていない。晃司の脳の中には?ばかり浮かぶ。
「どういう事……?それって付き合ってってことですか?」
そう言った瞬間、胡夏の顔が急に上がった。
「お願いします」
急に上がったかと思えば今度は改まった顔で付き合うよう要求してくる。
そんな付き合ってと言われても、、、会って初日ですが……? まだ胡夏さんのこと名前しか知らないんだけど……?
「なんで———」
「とにかくあなたが欲しいんです。私の事を意識して下さい」
そう言って晃司のすぐ横に座りお願いをする。胡夏の肩は肩の高い晃司の腕に寄り添っていた。さっきまでと違い、なんか積極的だった。
胡夏さんっておとなしいキャラじゃないのかよ……!? さっきまでの雰囲気はどこ行ったんだ……!
「………俺なんかでいいなら……」
「えっ、マジですか?私の事を好きになってくれたんですか??」
こんな雰囲気で、しかもこんな美人な人にここまでされたら誰だって断れないだろ。彼女がいる人は別として。逆に断ったら俺多分死ぬんじゃね?
でもそんな事こんな状況で言えるわけないので喉奥に呑み込んだ。
「……そうですね」
そう言った矢先、胡夏は晃司の腕に絡みついた。
「ちょ」
「大好き」
いくら何でも急展開すぎるぞ!?こんなの、どんなラブコメ小説の急展開よりも急すぎる。えーただいま状況が渋滞しています。誰かこの状況をどうにかして解消してください。
どんなラブコメ小説でも見たことのない急展開っぷりで胡夏はバズーカみたいな衝撃を放ってくる。そろそろパンクする。
「たっだいま〜!……って、えぇ———?」
トイレに行っていた汐が1番見られたらマズイ状況で鉢合わせした。
「あ、、、おかえり汐……」
汐が見た光景はさぞエグい状況だったんだろう。晃司はとにかくこの状況を掻い潜るべく、何か効果的な言い訳を考えるが、どう見ても言い逃れできない気しかしなかった。だってさっきまで大人しく引っ込み思案な感じだった子が急に腕に密着して絡みついてるから。
晃司は俺の人生終わったと思ったが、予想外の反応が返って来た。
「よかったじゃん」
はい……?俺に言ってるのかこれ。
その後、汐はなにもなかったかのようにまた曲を予約していた。さっきの反応は何だったのか。また一段とわからないことが増えてしまった。
ある時、今まで一度も曲を入れなかった胡夏が、汐に確認をとって、初めて曲を入れた。それもあの蒼芽 海莉の代表曲を。
「胡夏さんもVtuber好きなんだ?」
と、聞くが、胡夏は一瞬固まって、5秒ほど待ち口を開いた。
「……うん。ある意味そうです」
「……ある意味?」
さっきから訳わからない発言多すぎだろ。もう俺の脳への許容範囲超えてるって。
晃司は汐にどういうことか聞いても詳しくは答えてくれない。どうみてもおかしい展開しているのに、なにも答えてくれない汐。そして熱烈なファンかってくらい海莉の曲が上手くて歌声が透き通っている胡夏。もう本人かってくらいだ。
これなんか裏にあるんじゃないか? あまりに不自然。
そして胡夏とLINEを交換だけして、何も解決しないまま俺たちは解散した。
「結局何も分からなかったな」
晃司の中では裏に何かある、と確信しているけど、それ以外に関しては想像すらできない。今日あった事をもう一度思い返しながら、晃司は自宅のパソコンに向かう。
「あんなノリで付き合ったけど、本当に良かったのか?」
だめだ。考えすぎて編集に手がつかないや。
晃司は諦めて風呂に入り、ベッドに潜り込んだ。そんな時スマホに1件の通知が届いた。汐からのDMだ。
『今日はいきなりこなっちゃんが暴走してごめんね、でも付き合いたいという気持ちはガチだから、こなっちゃんをよろしく頼むね〜あ、あとデートとかにも積極的に行ってあげてね?』
この文を見るに、汐もこんな事を予想だにしていなかったのだろう。任されてしまった、、、と思っているともう一件通知が鳴った。
『こなっちゃんからなんだけど、今日のことを謝るついでに日曜日にデートしたいって』
デートか…デートねぇ…どうしたらいいんだろうか。
晃司は頭を悩ませていた。初めてのデート。相手はなぜか出会って初日で付き合った大学生の人。上手く喋れる自信ないんだけど。
しかし、デート自体が初めてなので、楽しみな気持ちもあった。
複雑な感情を抱きながら晃司は眠りにつく…はずだが、
当然眠れなかった。




