#20
その放送事故(?)から数日、ネットの民は収まること知らず。まだ言い争っている。あれから4日、昨日の時点で連絡が途絶えている。また何かあったのかと思うと夜も眠れなかった。結局その日も何も音沙汰なく、また俺はベットに、深い眠りについた。
ピンポーン————
……ん?インターホンの音……?誰だろうか。
慌てて体を起こして玄関に向かい、ドアを開けると、千冬ともう1人の女の人が家の前で待っていた。
「千冬……!?どうしたんだよこんな時間に」
スマホの画面を見ると深夜0時を回っていた。
「ちょっと、こなっちゃんのことで話が聞きたいんだけど」
「え?あ、ああ……わかった。上がっていいよ」
口を開いた千冬の表情は青ざめていた。
そのまま2人を自分の家のリビングに通す。千冬は何回か家に来たことがあるから、慣れたものだったが、もう1人の女の人はあまりの自分の家のスケールに驚愕していた。
「ねぇちょっと、いくらなんでも豪華すぎない……?」
「言ったじゃん。晃司はお金持ちなんだよって」
「私たちより普通に裕福……」
「さっちゃんもこれくらいじゃない?」
「比にならない比にならない」
2人で喋っているが、俺はしれっと知らない女の人がいるのが、すごく気になった。
「千冬」
「はい?」
「失礼だったらごめんだけど、さっきからしれっといるその人は誰なの?」
そう言うと千冬は女の人とお互いゴニョゴニョと耳打ちをする。そして2人とも頷く。
「晃司、実はね、この人は私とおんなじ5期生の闇喰リリスちゃんの中の人なんだ」
えっ、
「はじめまして。『5期生、魔界の暗黒魔女、闇喰リリスだ』で、おなじみの闇喰リリス改め金丸かねまる 彩月さつきです。一度コラボさせていただきましたよね。それ以来ですね」
……マジで言ってるの!? もう身内がVtuberだった系はもう疲れたのに……!
「本物じゃん……なんで……?」
俺は胡夏さんの時や千冬の時と同じ反応をかます。彩月さんはあんな配信のスタイルと違い、とても清楚系な感じの女の人だった。いつも配信を見ているが、到底中身がこんな感じの人だとは想像もできなかった。
「それは私から話すよ」
千冬が俺と彩月さんの間に割って入る。
「こなっちゃん、実はVtuber引退しちゃってから、音信不通なんだよね。だから、付き合ってる晃司なら何か知ってるかなって思って」
「え……それ、彩月さんの前で言って大丈夫なの……?」
「大丈夫だよ。話はしてあるから。しっかり誰にも言わないでとも言ったし」
「……ならいいか」
「ゲムちゃんやっぱり彼氏いたんだね。その相手が個人勢の人。しかも私が気に入っていたVtuberの中身でびっくりしたよ」
彩月さんはリビングに置いてあった、ソファに千冬の腕を掴んで座る。
「よくコラボさせてもらった身としてはすごく心配なんだよね。だからゲムちゃんと付き合ってる晃司さん?だっけ? なら何か連絡とってるのかなと思って」
「……」
彩月さんの顔は必死だった。そりゃそうだよね、いつも気軽にコラボをして、いつも一緒に活動してきた後輩がいきなり「辞めます」って言って消息不明になるなんて。
そして2人に聞いたところ胡夏さんにLINEをしても、返信はおろか、既読さえつかないらしい。
……それは自分自身も同じだった。本当にどうしたんだろう胡夏さん。この前旅立ってしまうのを引き止めたはずなのに。もしかしてまた……
……いいや!そんなはずない。胡夏さんは胡夏さんなりに頑張ってるんだ。変な妄想は良くない!
「心配だよね。胡夏は元からメンタルがそんな強いわけじゃなかったから、ちょっとのことで真っ二つに折れ曲がっちゃう。それで昔から、リアルでの扱いも大変だったよ」
千冬が俯きながら言う。そんなこと俺が1番知っている。嫌と言うほど胡夏さんのそういう一面を見てきた。
「晃司、胡夏と何かあったの?」
「それは……」
俺は一連の流れと今の現状を1から10まで伝えた。
「えっ?それ大丈夫なの、放っておいて」
「そうだよ、ゲムちゃん1人で抱え込むと大変なことになっちゃう」
口々に俺に対して文句を言う。
「でも、なんとかしてあげたいけど、連絡がつかない」
なんでだろうか。スマホを無くしたとか?なら買ってるか、家電をかけてくれるはず。ああもう、わかんねぇよ。
そして、胡夏に対しての心配だけが募るだけで3人の時間が過ぎていく。今すぐ寝てこの心配を忘れてしまいたいくらいだった。
「ていうか帰りはどうするの2人とも。もう終電は終わってるんじゃない?」
「……私たち配信とか編集とかで忙しいから、全てが終わってフリーになるのが遅いんだよね。だから休みの日とかに行こうってさっちゃんに言ったんだけど、どうしてもこの日に行きたいって言われたから、仕方なく来たの」
彩月さんは聞いたところによると東京住み。最短でも2時間かかる。9時過ぎに出発したらそりゃこんな時間になるよな……
時刻は午前0時45分を過ぎていた。
「……仕方ない、今からホテルなんて取れないだろうし今日は俺の部屋を貸すよ。一部屋しかないけど」
そういうと2人は頷く。彩月さんは風呂を借りたいと言って、俺が場所を案内した後、風呂に向かって行った。逆に千冬は俺に詰め寄ってくる。
「な、なに……?」
「なんかしばらく会わないうちにすごい人柄変わったね」
「そう、なのかな。前よりは確かに人と話すのができるようになったと思うけど」
「やっぱり胡夏のお陰なんだろうね。そんな恩人がどうしちゃったんだろうね。私も辛いよ。あんなに数日前まで元気だったのに」
千冬は俺から目線を逸らす。1つ年下の後輩の前だからって強がっているのだろうか。千冬もだいぶ悲しいことが見てわかる。涙が襟元に染み付いていた。
「俺にはわからないよ。とにかく無事なことを祈るばかり。胡夏さんの家のスペアキーも置いてきちゃったし、だから祈る以外には何もできない」
「……もしっ」
「……?」
千冬が涙を堪えた顔をいきなり上げて、俺の腕を掴む。その掴む力から必死さがわかる。
「もし、胡夏が見つかったらすぐに教えてね、それがたとえ抜け殻だったとしても、ハリボテだったとしてもっ」
ついに千冬が今まで堪えていたダムが崩壊した。泣きじゃくる姿が胡夏さんに似ているような気がして、自分まで涙腺を刺激されてしまう。
「だ、大丈夫……?」
「う……ごめんっ……ちょっと、今は、何も考えれなくなった…………それじゃあ……部屋借りるね、あ、ちょっと起きるの遅くなるかも……」
そう言っておぼつかない足取りで俺の部屋がある3階に上がって行った。胡夏さんだけじゃなくて千冬まで心配になってきた。これでもし胡夏さんが最悪な事態になっていたら、千冬まで大変なことになりかねない。
「……俺は、どうしたら、いいのだろうか」
もう俺は途方に暮れるしかなかったんだ。
体の色々が全て疲れ切って、俺はソファに頭から倒れる。今すぐに寝てしまいたいけど寝れない。気になってしょうがない。
そして寝られずにぼーっとすること15分。時計の針はとっくに1時を回っていた。もうすぐで寝落ちしそうだったところに彩月さんが風呂から戻ってきた。
「晃司さん、お風呂、ありがとうございました。体調悪そうですけど大丈夫ですか?」
「辛いんですよ。千冬とか彩月さんの反応を見てると、こっちまでより悲しくなる」
「……」
彩月さんが黙ったかと思うと、寝転がっている俺の目の前にしゃがむ。
「近っ……!?」
「私もそろそろ精神がやばいんです。仲が良かった後輩が死んでしまってるかもしれないって毎日考えると。慰めてください」
そう言って彩月さんは俺の顔に急に自分自身の顔を近づけてきて。
「ちょっ……!?なにキスしてるんですか!?!?」
「忘れましたか?私も秋風嵐紫のファンだってことを。推しを目の前にして何もしないなんて私が許しません」
そういえば……!!あの時コラボしてくれたのはそういうことだったのか……!
「ちょっと、もう一回いい?」
「えっ…… えっ……!?」
………………
「ありがとう、晃司さんのお陰でちょっと心が落ち着きました。晃司さんもお大事にしてください。それではおやすみなさい」
……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?




