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#17 あの頃の鬱と暁

「はぁ…………」


 次の日。俺は何故か朝に出先から家に向かって帰っていた。駅までは一緒だから、胡夏さんも横にいた。

 なんか色々とVtuberというかなりの機密な存在と、また甘い夜を過ごしたような気がする。

 いや、嬉しいよ?嬉しいし、最高なんだけどね?それよりも陰キャな俺にこんな刺激の強い日常をぶつけられたら混乱するし、困惑するし、心配するし(炎上を)……そっちの感情の方が大きく出るんだよな。


「大丈夫?」


ため息を大きく吐く俺を胡夏さんが心配そうに見つめてくる。

いや、あんた達のせいなんだけどね。


「昨日はやりすぎちゃったよね……本当にごめんなさい。……汐ちゃんのこと怒ってる?」


 そう胡夏さんは語りかけてくる。流石に街を歩きながら話すことではないと思った俺は胡夏さんの手を優しく引っ張ってベンチまで連れていく。


「ふふっ、そういえば晃司くん陰キャだとか言ってたのに女の子扱い慣れてるよね」


「実はインターネットで色々調べていたんだ……俺自らの行動じゃないんだよ」


「それでもだよ、一緒にいてて本当に楽しい」


 俺はまた頬を赤らめる。あんなこと色々しといて今更こんなことに照れるなって思われてるのかなぁ。でも俺はようやく今までのことを経て冷静さが戻ってきたんだよな……だからこのことであろうと照れてしまう。普通の人間に戻ったんだ。



「……それで、汐ちゃんのことやっぱり怒ってるの?」


「……怒ってはないんだけど、なんというか、驚きの気持ちが一生湧いてくる。自分の初めての友達や彼女、同じバンドの女の子がみんな企業Vtuberだってことを知って……もう脳がパンクしてるんだよ」


 俺は自分の気持ちを正直に胡夏さんに伝える。あんなことが次々に襲ってきて正気でいれる男の人なんていない。だんだんと洗脳されていくんだ。


「ていうか本当にどういうことなんだよ?ずっと聞きたかったんだ」 


「?」


俺は今までの全ての疑問を胡夏さんにぶつける。


「Vtuberは胡夏さんだけだと思ってたのに、横にいた汐まで、さらに俺と同じバンドやってる千冬までもVtuberって。しかも知り合いだし、なにこのキセキ」


「……聞きたい? ちょっと長くなるけど」


 俺は何故かここで聞いてはいけないと思って首を横に振りかけていた。易々と胡夏さんたちの過去を聞いてもいいのだろうか。3人の世界に入り込んでしまってもいいのか。

 ……だけど胡夏さんと自分のためを思い、覚悟を決めて聞くことにした。そして首を縦に振る。世界の中心へと足を踏み入れた。そうすると胡夏はゆっくりと口を開く。


「あれは4年前で————」


◇◆◇◆◇



「……お父さん……?」


 ある日いつものように中学校から帰って来た私を待っていたのは変わり果てたお父さんの姿だった。もう手遅れだった。

 お母さんも、お父さんがそうなるような面影や出来事は全く無かったと言っていた。なのに何故。会社の人に聞いても誰もわからない。みんな「黒井さんは毎日元気に私達と仕事をしていた」と言う。

 この出来事の真相がわからないまま、その日から私はお母さんと2人きりで暮らすことになった。これが当時中学2年生後半のこと。


 それと同時期から、さらに追い討ちをかけるように、急に中学校で数人による私に対するいじめが始まった。その中心にいたのが、あの浦本 咲也だった。


「なんでそんな事するの————」

「やめてよ————」

「痛いよ————」


 そう言えるわけもない。私だって運動部だけれどもそこまで運動神経高くないし、私はクラスの空気の一部でしかない、言い換えれば超絶陰キャ。言葉だけだったら晃司くんと一緒だった。おまけに向こうは5人で、全員運動部。だから何も言い返せない、聞き出せないまま、やられるがままのサンドバックみたいに、エスカレートするいじめを黙って受けることしか私にはできなかった。

 しまいには、暴力だって平然とするようになった。そんななのに、私は先生とかクラブの子に「何かあったのか」と聞かれるたび、「大丈夫です」「何でもないです」と返していた。自分の中で完全に蓋をしていたんだ。


 そんな生活に耐えること数ヶ月。卒業まで耐えれるはずもなく限界を迎える。朝起きた途端急に学校に行きたくなくなって、家にもいたくなくなった。何故か体が全てを拒む。そこから、家の外に出て行きたいという一心で急いで制服に着替えて、家を飛び出す。


「……もう嫌だっ」


 街中なのに大きな声で叫んだのだと思うと精神が狂っていたのが自分でも痛いほどわかった。

 

 その後私は公園のベンチにうずくまった。誰もこんな気持ちに同情してくれる人なんていないと、ずっと涙を流していた……だけど。


「えっ、ちょっと、大丈夫?あんた」


「えっ……」


 そこに現れたのが、まさに現蒼芽海莉である、当時クラスメイトだった青海千冬ちゃんだった。

 

「どうしたのこんなところで泣いて」


 私はいつも通り、いや、いつも通りじゃダメだけど「何にもない」と言ってやり過ごそうとした。だけど千冬ちゃんは私の下半身に目を向ける。


「……嘘でしょ? だったらその太ももの傷はなんなの?」


 千冬ちゃんは当時から広かった視野で、私があの人たちに蹴られたときについた傷跡に目をつけた。私が返事に戸惑っていると、千冬ちゃんは何か悩みがあるのなら私に話してほしい、と唆してくる。

 こういう時の千冬ちゃんは全てを知るまで引かないことを知っていた。だから私はその場で全てを千冬ちゃんに話し尽くした。


「任せて。学校でもし何かあったらすぐに助けるよ。だから学校、来てね」


それだけ言って、千冬ちゃんは中学校へと向かっていった。

 その言葉の意味がそこまで理解しきれないまま学校へと向かうと、本当に千冬ちゃんは私がいじめられているのを見かける度に止めにくる。そして卒業まで、千冬ちゃんは毎日話しかけてくれた。

 何というか、千冬ちゃんがこんなに人思いの人だったんだなって。


 私は色んな意味で大好きだった千冬ちゃん、それと憎きいじめっ子たちと別れ、高校という次なるステップに踏み出していった。

 

 その次なるステップという名の高校。そこでは運命的な出会いが待っていた。その存在が、そう。同級生である金沢汐ちゃんだった。その人と知り合ってからは、私の高校生活にギアがかかった。そこからはもう、色々うまく行き、最終的には第一志望の大学にもあっさり合格してしまい、本当にドッキリレベルで都合が良かった。


 大学に入学してから1年たったある日、汐ちゃんがあるblogを私に見せてきた。それは『○○Vtuber事務所、6期生募集中』というものだった。


「…何これ?」


「そのまんまだよ〜 私さ、どうしてもこなっちゃんと一緒にこれ受けたいんだ〜」


 一緒に同じ企業Vtuberを目指す……か。

そして私はこの判断で人生が360°変わる事を知っておきながら、首を縦に振った。

 後日、そういえば、と思い中学校で仲の良かった千冬ちゃんも誘ってみた……けど。


「あ、ごめん。実は私もう5期生としてメンバーになってるから受ける意味ないんだよね」


「へぇっ!?」


◇◆◇◆◇


「……とまぁこんなミラクル展開もあって、私と汐ちゃんは見事両方とも合格。Vtuberデビューを果たしたんだ」


「2人とも、胡夏さんの人生を支えてくれた大事な友達だったんだな、感動したよ…………あ、そうだ、聞きたいんだけど」


「どうしたの?」


「……何で千冬はスカートがあるのに太ももの傷に気付いたんだ?」


「ちょっと、ねぇそれ聞く〜!?」



 


 つい数ヶ月前、こんなバカな話、楽しい話を一緒にできるような大好きな推しであり彼氏である人もできました。

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