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#15 何もかもが快速列車

まもなく——今橋です。お乗り換えのご案内です。地下鉄千宮線は——


なんかこのアナウンスを聞くのがつい1週間前のように感じる。いっても数ヶ月くらい前なのに。緊張と不安を抱えながら聞いたあのアナウンス。今でももちろん覚えている。

 数ヶ月前とは変わった、1人の気持ちと身体を運ぶ快速電車は快速電車らしからぬ、ゆったりとしたスピードで目的の駅まで向かっていた。俺の心身の変化とはまるで真逆。


「懐かしいな……」


ほんの数ヶ月じゃ変わるはずないのにふと景色を見るために窓の外を見る。

 自分が配信している場所から遠く離れてまるで地元とは違う、そんな景色を眺めながら電車に揺られたあの日。その日から、窓の外の景色が少し変わっていたような気がしたけど、ただの願望だった。


「胡夏さ〜ん」


「あ、来た!」


 集合場所もあの時と全く同じ。あの日のように、駅前のベンチに座った美女2人が、俺を待っていた。その時、なぜか自然と涙が出そうだった。それが何かわからないまま、2人の元に駆け寄る。


「久しぶり、晃司」


もう1人の人は汐。メンツも全く同じだ。


「ミミたんも来てたんだ、久しぶり〜」


「ちょ、IDの方で呼ばないでよ!恥ずかしいって」


「汐ちゃんのことは私が呼んだんだ」




「じゃあ行こっか。私、もう部屋予約してるし」


「え、ありがとう。仕事早いね」


 そう言って歩き出す背中は、今までの胡夏さんで1番大きく見えた。あの時と同じ黒髪ロングの髪を風に吹きさらしながら。


 大きく見えるなんて当たり前か。だって相手が超有名企業Vtuberって事が分かっているからな。


「……ちょっと、何で私だけで歩いてるの!? 2人とも早く来てよ〜!」


「ははっ、ごめんごめん」

「ごめんね〜」


そして俺たちはゆかりの地へと向かっていった。



「ねぇねぇ何歌う!?」


「まずはやっぱあれじゃない?」


 部屋に入るや否や2人とも機械をいじり出す。やっぱり胡夏さん、生き生きしてんなぁ。めっちゃ楽しそうだし。汐も相変わらずの陽気ぶり。

 保護者のような視点で俺は2人を見守っていた。


「晃司くん、私たちに何歌って欲しい?」


「え〜そうだな、正直何歌っても上手いから何でもいいんだけどね」


「え、もう大好き」


 人が変わったな。ほんの数ヶ月前まではあんなオドオドしてたっていうのに。えらい陽気になったなぁ。なんか取り残された感あるな。

 そんな変わり果てた胡夏さんに驚いていた人がもう1人。


「ちょっとトイレ行ってきますね」


そう言って部屋を出ていった胡夏さんを見届けた汐は真先に自分に縋り付いてきた。


「ねぇこなっちゃんから色々聞いたよ」


「色々……!?」


 色々って、何まで聞いたんだ……?流石にあの事は……聞いてないはず。そもそも胡夏さん、口滑らせるようなタイプじゃないような気がする。でも仮に言っていた場合……俺、殺されるんじゃないか?

 俺はあることを胡夏さんから聞いてないか恐れ、心配しながら聞き返す。


「何を聞いたんだ……?」


「晃司のおかげで自分に自信を持ったってこなっちゃんから聞いたんだよ。しかも今まで私に見せたことない晴れた表情でね。晃司はこなっちゃんに何してあげたの?」


 まずはあのことを言っていないことに安堵し、同時に焦りが滲み出る。「何してあげたの」って。ライン超えまくっただけ何だけど、そんなの言えるはずない。胡夏さんはそれで垢抜けたって感じかな。


「まぁ、一緒に居ただけだけど」


「え〜 一緒にいただけでこなっちゃんの性格を根っから変えるだなんて無理でしょ」


「……一緒にデート行ったりしたよ。胡夏さんの地元で遊んだり、こっちの方まで出てきて遊園地行ったり」


 思い返せば色々なところに行ったな。胡夏さんの地元で駅の近くにある博物館にいったり、ゲーセンいったり、極め付けは滝を見に行ったり。

 しかし、滝を見に行くデートって今考えるとすごいな。

 あと忘れてはいけないのが胡夏さんの家。また行きたいような行きたくないような。そんな複雑な感情が入り乱れている。またぐちゃぐちゃにされそうだね。……嬉しいけど、ね。だって男だし。


「まぁ、ああなるくらいこなっちゃんのことを愛してくれてるって事だよね。私もビックリしたよ。数日前までいつものこなっちゃんだったのに、ある日急に人が変わったもん」


「そ、そうなんだ」


 ちょっと怪しいような口調になったが、汐は何も言わなかった。本当に冷や汗が止まらない。緊張に負けてうっかり口を滑らせないように気をつける。だって、自分から「しました」だなんて言う奴キショいだろ。

 色々な感情を抱いて俯いていると、汐が何か言いたげに近寄ってくる。ていうか肩にひっついてきたんだが。

 待って、今そういう展開になると頭が死ぬ。


「……ど、どうした?」


「……あのさ昨日の配信見たよ。5万人記念のやつ」


「……あぁ〜ありがとうね。それに関しては、マジで汐やその他のメンシプリスナーとか、胡夏、リリス、などの有名Vtuberたちのおかげでここまで来れたんだよ。本当にありがとう」


「ふふっ。私はほぼ初期から見てるからね」


 毎回1万円スパチャを送ってくれるメンシプリスナーは太客の域を超えている。しかも1年以上続けて。もしかして親がやり手だったりとか?気になって仕方なく、聞いてみる。


「汐って金持ちなの?毎回赤スパ投げてくれるけど。別に嫌ってわけじゃないけど。大丈夫なのかなって。推しにお金を捧げすぎて人生詰む人も少なくないみたいだし」


「まぁそうだね。親もやり手だし」


やっぱりか。そう言うオーラが漂ってますもんね。


「ていうか、昨日ヤバかったんだよ。これまでそんな予兆もなかったのに急に鴉舞陽毬がうちの配信に来るからさ。幻夢とリリスが来た時以来の驚愕」


「うん……すごいね」


 あれ。なんか反応が悪い……?というか不機嫌そう……なんか俺、変なこと言ったのかな?


「どうしたの汐」


呼びかけても俯いていた。もしかして俺なんかとんでもない地雷発言した!?だとしたら謝らないと……!


「あ、その〜 なんか、ごめん……」


「いいよ、謝らなくて。急に反応悪くしてごめんね。……ちょっとお腹いたいなぁって思って」


なるほど、大丈夫なのかな……?まぁ今の反応から見るに大丈夫そうか。

……あ、ドリンクバー忘れてた。


「ちょっとドリンクバー取りに行ってくるわ。なんかいるものある?」


「えっ……じゃあカルピスソーダで」


「オッケー」


 そのまま俺はそさくさと部屋を出る。危なかった。また女の人に色々と悩殺されるところだった。




 私はただじっと晃司が出ていった扉を見つめていた。そしてつい、愚痴がこぼれる。


「…………バカ」

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