#12 本性剥き出しじゃん
「……胡夏さん、何してるの……?」
へっ!?!?
私は横目で後ろを恐る恐る見てみると、そこには確かに起き上がった春江さんの姿があった。
待って。もう目覚めちゃったの!?やばいやばい、今の声輝羅ちゃんに聞こえてたら終わる……!いや、だいぶ小さい声だったから聞こえていないはず……
私は息を呑む。今ここで「誰?」とか耳に入ってきたら本当の終わり。お願い、聞こえないでいて……!私はまだ春江さんとそんなことしてないのに終わりたくない……!
「……」
少し黙って待っていたが何も言ってこない。よかった、ばれてな……
「ねぇ、今の声って誰の声?」
あ。終わった……?
私はこれで春江さんとの恋が終わってしまうという思いが脳内をずっと周回するせいで、目の前が真っ白になりそうだった。私はこのままじゃまずいと思い、今頭の中にある語彙をできるだけ多く使って言い訳を作ろうとしていた。そして出来上がった答えは。
「あ、えっと〜そう、私今日家に甥っ子来てるんだ〜あはは……ごめんね、あとで言っておくから」
自分でも痛いほどわかる、完全に怪しいカタコト日本語だった。
「え?俺甥っ子なの?そんなの言ってたか?」
「わぁぁ〜〜〜!!!」
ブツッ
「……あれ、切れちゃった。どうしたんだろう幻夢。まーいっか、キリいいところまで進んだし。でもせめてあと2レベ上げたかったなぁ」
私はイヤホンを外して顔を下に向ける。どうにもさっきの男の人の声が気になる。このままじゃ夜も眠れない。
さっきディスコードの通話越しに聞こえたあの声。今まで聞いたことのないとてもイケボな感じのボイスだった。
「……幻夢は甥っ子だって言ってたけど、あんな低音混じりのイケボが甥っ子な訳ないよね……」
それに幻夢のことを本名、しかも「さん」付け。知り合いは確実、そして声と話し方から、絶対に幻夢の年齢の一つ下か二つ下。もしくは高校生か……?
もしかして幻夢、いや胡夏は……
「いやいやいや、そんな訳ないよね…!この前恋愛には全く興味ないって言ってたし……!まさかそんなはずあるまいよね」
何かを感じた私だったが、考える事がめんどくさくなり、自分の中だけでこのことは留めておくことにした。
「いや、でも今度会った時に一応聞こう、そんなわけないんだけど一応、ね?」
「胡夏さん……!?」
この光景、数十分前にも見たような気がする。またもや胡夏さんが自分の体の上に乗ってくる。モノもしっかり当たってくる。
「どうしたっていうんだよ」
「……助けてよぉ」
えっ、
なんか急に見たことのない胡夏さんが現れた。
「私が晃司くんという彼氏がいることバレたかもしれない〜!」
「えっ!?マジで言ってる?」
その後俺はことの経緯を説明してもらった。同じ企業Vの人にバレたらそりゃあまずいよな……
「大丈夫だと思いたいよね。けどその話だとバレてそうじゃないかな……」
「いやだぁ!!大好きな晃司くんの体手放したくないっ、私のもののままでいてほしいのに……やだ、離れないで。愛させて!!」
おいおいおい……なんかさっきから凄いこと言ってるな?
俺は言動とキャラの変わりっぷりに動揺が隠せなかった。ていうかなんかさりげなく呼び方「春江さん」から「晃司くん」に変わってるし。
「い、一旦落ち着こうか?」
「無理っ」
「ちょっ!?」
体のど真ん中に顔ごと飛び込んでくる。さっきよりもさらに距離が近い。こんな感
じじゃなかったぞさっき。え、もしかして俺が気絶してる間に中身別の人に入れ替わった……?知らん人とぶつかった?
「もう怖くて。晃司くんを手放す恐怖感で半端ないの。私から落ち着くなんてもう無理。だから晃司くんで落ち着かせて」
「俺で……?」
そう言って間もなく、胡夏さんは俺の服に手をかける。
「ちょ、胡夏さん!!」
流石に恥ずかしすぎて俺は胡夏さんを振り払ってしまった。俺は咄嗟に謝るが、ショックだったのかベットから降りて行った。
「……急にごめんね。私ったら先走りすぎだよね。こんな夕方からじゃダメだよね。また後でしよっか」
いや、夕方だ夜だ朝だとか、そういう問題じゃなくてね……?
あと、「しよう」とは。意味深な発言すぎる。「しよう」って絶対そういうことだよな。……え?待って。俺「される」んですか?あの登録者150万人超えの企業Vtuberと???
俺にとってはバズーカみたいな衝撃なのにも関わらず、胡夏さんは涼しい顔でいる。なんで平然としていられるんですか?俺今心臓バックバクなんですが。
そのまま胡夏さんは晩御飯を作るからと言って部屋を出て行こうとする。じゃあそろそろ帰った方がいいかもしれないかな?後普通にもう理性が限界だし。あ、そういえば今日結構お金使っちゃったけど残ってるかな?
そうして俺は帰るためのお金があるかどうかを確かめるために、財布の中身をチェックする。
「ねぇ胡夏さん。晩飯作るなら俺そろそろ邪魔だろうし、帰ろうと思うんだけどさ、このお金で名倉駅から俺の最寄りまで足りるのかな?」
「えっ、帰るの?…………足りないと思うよ。確か上木町のほうだよね。そこだったらだいたい2000円くらいだよ」
「マジ……!?やばい、帰れない。どうしよう」
胡夏さん曰くガチでお金が足りないらしい。今財布には1000円ちょっとしか入っていない。えっ、本当にどうしよう?これ以上今日はお金をどこにも入れていない。行きは会わせてくれるお礼で奢ってもらったけど。前に名倉に来た時は10000円くら
いICカードにチャージしてたから気にしてなかったけど。
晃司が絶望の顔でオロオロしていると、胡夏が足を止めてまたベットの手前まで戻ってきた。
「……お金あげてもいいよ。足りない分。2000円くらいあればいいよね。心配しなくてもご存知の通りお金は幻夢の方でありがたいことに稼がせていただいているので」
なんと。胡夏さん優しすぎるだろ。マザテレかよ。
「マジ?ありがとう。これで帰れ————」
「1つだけ!!……条件がある」
「え?」
「今日私の家に泊まってくれるなら明日渡してあげます」
………………あんだって???
「なっ……泊まるって。流石にダメだろ。さっきのこと忘れたのか?」
「覚えてるけどっ……私もう晃司くんと2人きりでこの空間にいる事が幸せすぎてっ……うわぁぁぁぁ」
胡夏さんが壊れた。全然理由になってないって。
「とにかく泊まって欲しい……!絶対明日渡すから……!」
もうこれただの胡夏さんの願望なんですが。お願いしていたのは一体どっちなんだ?
俺はこの条件を飲まないと自分の家に帰れないので、結局胡夏さんの家に泊まることになった。そして胡夏さんはご飯を作るからと言って部屋を出て行った。1人の「女の子」の家に泊まることになったしかり、さっきの散々密着された時の「また後でしよう」しかり……
俺、この後どうなるの?
童貞だった俺は今日、なぜか企業Vtuberの月草 幻夢と一線を越えそうです。
理由は知りません。




