8話剥ぎ取られた執念
タルタロス・ゲインの放つ猛烈な弾幕が、漆黒の宇宙を絶え間なく引き裂く。四丁のガトリングガンから放たれる光の嵐と、追尾するミサイルの群れは、アイを背負った俺のアルテミス・レイを容赦なく追い詰めていった。
「くそっ……! なんて手数の多さだ!」
回避に専念するだけで精一杯だった。激しい衝撃が機体を揺らすたび、シートの後ろでアイが必死に耐えている気配が伝わってくる。その温もりが、俺の焦りを辛うじて踏みとどまらせていた。
『ハハハ! 逃げられると思うなリーカス! お前は私の、私だけの最高傑作なのだからなァ!!』
バロウズの通信は、もはや狂気とも言える「執念」に完全に支配されていた。地位や名誉への執着、そして自分の所有物である兵器を絶対に手放さないという執念。その歪んだ熱量に呼応するように、タルタロス・ゲインの大型スラスターが不気味に輝き、重装甲機とは思えない速度でさらに肉薄してくる。
ガトリングの砲身が真っ赤に焼け付きながらも、バロウズはトリガーを離さない。至近距離からの容赦のない一斉掃射。盾代わりに掲げたレイの大剣が激しく火花を散らし、ついに外部装甲の一部が限界を迎えて弾け飛んだ。
(しまっ――!?)
機体のバランスが大きく崩れる。そこへ、容赦なくタルタロス・ゲインの巨大な鋼鉄の腕が迫る。掴まれれば、文字通り部品として引きちぎられる。
絶体絶命のその瞬間、暗黒の宇宙の彼方から、一条の鋭い閃光が走り抜けた。
ドゴォォォンッ!!
激しい爆発が、タルタロス・ゲインの右肩のミサイルポッドを吹き飛ばす。
『な、何だと!? どこからの攻撃だ!』
バロウズが驚愕の声を上げる。
レイの索敵モニターが捉えたのは、先ほどの激戦地から漂流してきた、大破したはずのソ連軍「セーラス」部隊の残存艦だった。艦橋は潰れ、瀕死の状態でありながらも、その主砲は明確な意思を持ってタルタロス・ゲインへと向けられていた。
カザコフ大佐を失いながらも、彼らが遺した「ヒノモトへの反撃」の執念。それが、期せずしてバロウズの「支配への執念」と激突したのだ。
「……チャンスは、今しかない!」
ソ連軍の残光が作り出してくれた、最初で最後の隙。俺は狂ったように鳴り響く警告音をねじ伏せ、アルテミス・レイの全出力を残された推進器へと注ぎ込んだ。
「あの子との未来を、お前のエゴで縛らせるかァァッ!!これで、すべてを振り切る……!」
レイの全推進力を爆発させ、俺は一筋の白い閃光となってタルタロス・ゲインの懐へと肉薄した。大剣の刃が宇宙の闇を鋭く切り裂く。
四丁のガトリングガンを構える肉厚の両腕、そして容赦なくミサイルを放ち続けていた両肩のコンテナを、目にも留まらぬ連続一閃で正確に切り落とす。さらに返す刃で機体のバランスを支える両脚部を断ち切り、だるま状になったタルタロス・ゲインの戦闘能力を完全に奪い去った。
『な、何だと……!? 私の、私の傑作がぁぁぁッ!!』
バロウズの驚愕と絶望の悲鳴が通信回線に響き渡る。爆発とともに推進力を完全に失い、あらゆる武装と手足を失ったタルタロス・ゲインの無残なコックピットブロックだけが、宇宙の闇へと静かに漂流していく。
追撃の手は、今度こそ完全に止まったのだった。




