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死神機兵の太陽戦争ー煉獄のプロミネンスー  作者: 小説書こう


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5話不朽の死神と穢食の神

漆黒の宇宙空間へ飛び出した俺の視界に、異常なアラートが走り、コックピットのホロ・モニターが激しく乱れた。

キィィィィィン――――……!!

格納庫の比ではない、鼓膜の奥を引き裂くような高音が、装甲を透過して俺の脳髄に直接響き渡る。

その視線の先。暗黒の宇宙から、太陽光を遮るほどの巨大な質量が姿を現した。

ソ連軍遊撃部隊「セーラス」の旗機、「レグナ」。

その胸部には、装甲の隙間からどす黒い漆黒の光を放つ、巨大なアルテミシウムの炉が剥き出しで鎮座していた。炉が脈動するたびに周囲の空間が歪む。


『……連邦のひよっこどもが。不朽の死神と穢食の神か』


通信回線に割り込んできたのは、地底から響くような冷徹な男の声。幾多の戦場を文字通りの地獄に変えてきたソ連の怪物、カザコフ大佐だった。


『英雄達よ聞こえるだろう? この炉の音が。これは死の秒読みではない!我らを生へと駆り立てる、宇宙(そら)の咆哮だ!』


激しいプレッシャーが俺の全身を押し潰し、警告灯が血のように赤く点滅する。死への恐怖が首筋を締め上げる。


『未来を切り開くぞ、リーカス……!』


ユウマの通信が入る。その声はどこまでも澄み渡り、寸分の乱れもない。ホロ・モニターに映るあいつの瞳には、病的だが新時代を確信する「純粋な希望の光」が満ちていた。


『俺たちはもう、ただ怯えて生き残るだけの存在じゃない。この力で、世界の混迷を終わらせる先駆者になるんだ!!』


アルテミス・ノヴァの全身のスラスターが、眩いばかりの希望の輝きを放ちながら完璧に同調する。


『行くぞ大佐! その闇をすべて、俺たちの輝きで照らし尽くしてみせる!!』


ユウマのノヴァが、一筋の流星となって黒鉄の巨躯へと突撃していく。

その二つの圧倒的な熱量の狭間で、俺は自分の胸に渦巻く強い意志と、何としても生き抜くという未来への執着を爆発させた。

カザコフの「レグナ」から放たれた重粒子砲の濁流が、漆黒の宇宙を切り裂く。

俺とユウマは左右へ散ったが、熱線が掠めただけで俺たちの機体の外部装甲が激しく融解した。


『直撃すれば、装甲ごと消し飛ぶな……!』


俺の焦りとは裏腹に、ユウマのノヴァは加速を止めない。恐怖を完全な勝利の確信へと変換した「穢食の神」は、その限界領域で神業に近い精度で機体を制御していた。


『恐れることはない、すべて見えている! いくぞ、リーカス!』


ユウマが操縦桿のトリガーを引くと、ノヴァの背部コンテナが開放され、複数の鋭利な発光体が宇宙へ解き放たれた。

脳波誘導型の遠隔機動兵器――その名は「シャード(破片)」。

あいつの澄み切った精神を反映したかのように、美しく輝くクリスタルの破片のような光を放ちながら、カザコフの巨躯を包囲するように展開していく。


『未来の道を切り開け、シャード!!』


ユウマの気迫とともに、十数基の「シャード」からレーザービームが交差するように放たれた。レグナの極厚の装甲を焼き、その巨体を完全に足止めする。


『小賢しい蝿どもが……!』


カザコフの機体が咆哮をあげるように、その巨躯から無数の対空ミサイルが散布された。

だが、その爆煙を切り裂き、今度は俺のアルテミス・レイが突撃する。ユウマがシャードで作り出した完璧な一瞬の隙。俺は大剣の内蔵マシンガンを構え、チェルノボグの右主推進器へと照準を合わせた。


(生き残る。あの子に約束したんだ。そのために!目の前の敵をすべて破壊する……!)


「落ちろッ!!」


俺の放った弾幕が、チェルノボグの推進器を捉え、漆黒の宇宙空間に鮮烈な大爆発が巻き起こる。


だが、爆煙の向こうから現れた黒鉄の巨躯は、右側の推進器を激しく炎上させながらも、その圧倒的な威容を失っていなかった。むしろ、剥き出しのアルテミシウム炉がドクン、ドクンと赤黒い脈動を強め、周囲の空間をさらに歪めていく。


『小癪な……! だが、その程度の火力で我がレグナを屠れると思うな!』


カザコフの咆哮とともに、巨体の各部から漆黒のエネルギーを纏った大型ミサイルが次々と発射された。標的ターゲットは、一連の攻撃で硬直が生じた俺のアルテミス・レイだった。


(しまっ――!?)


あまりの至近距離。アルテミス・レイの超加速を以てしても、完全に回避するのは不可能だと脳が絶望の計算を弾き出す。死の恐怖が再び背筋を駆け上がったその瞬間、白銀の閃光が俺の視界を横切った。


「リーカス、怯むな! 前を見据えろ!」


ユウマの叫び。彼の操るアルテミス・ノヴァが展開した複数の「シャード」が、俺の機体の前面で結晶の盾を形成する。押し寄せるミサイルの群れが次々と盾に激突し、爆炎の嵐が俺たちの視界を覆い尽くした。

光と爆音の混沌のなか、ユウマの機体が通信モニターに映し出される。あいつの顔には一滴の冷や汗もなく、ただ新時代を切り開くという確信に満ちた笑みが満ちていた。


激しい爆炎が晴れ、視界が戻った瞬間、俺のコックピットのホロ・モニターが激しく明滅し、一斉に警告を発した。

チェルノボグの剥き出しの黒い炉から、空間そのものをドロドロに歪めるような未知のジャミングが放射されたのだ。


「ぐ、あ……っ!?」


キィィィィィン……!!

脳髄を直接針で刺されるような不快な高音が、装甲を透過して俺を襲う。一瞬の間、すべてのモニターが激しいノイズと共に完全に暗転し、レイの出力が急速に低下していく。空間の歪みによってセンサー類は完全に機能停止し、敵との正確な距離すら測れなくなった。


『我がレグナの領域において、あらゆる輝きは黒き深淵に呑まれるための贄に過ぎん』


カザコフの冷徹な声が響く。推進器を潰されたはずの巨躯が、歪んだ空間そのものを手繰り寄せるようにして、制御を失いかけたレイに向かって肉薄してくる。動きが鈍い。画面が見えない。死の恐怖が再び首筋を締め上げる。

だが、その画面の妨害は、ほんの短い時間だった。


『リーカス、合わせろ! 奴が領域を展開している間は、炉の防御隔壁が完全に開放されている! センサーがダメなら、あいつの放つ「黒い光」を直接目で見てブチ抜くぞ!』


ノイズが弾け飛び、ホロ・モニターに再びユウマの姿が映し出された。あいつは自らの出力をシャードへと回し、俺のレイの前面に強引にエネルギー経路を繋ぎ止めて、レグナのフィールドを相殺しようとしていた。

ユウマはアイの存在など知らない。ただ、かつての友として、新時代を目指す「穢喰の神」として、俺を信じて道をこじ開けようとしていた。

画面が激しく明滅する向こう側、歪んだ空間の中心で赤黒く輝くレグナの炉が、はっきりと視認できた。


(死ねるか……! 理由なんて死にたくないだけでいい。俺は、あの部屋に必ず帰るんだ……!)


「ユウマ、合わせる……! 飛べッ!!」


俺は狂ったように鳴り響く警告音を力づくで無視し、五感を研ぎ澄まして操縦桿を握り直した。


咆哮をあげるアルテミス・レイの駆動輪が、ユウマの繋いだ光の経路を駆け抜ける。空間の歪みを強引にねじ伏せ、俺の機体は一筋の青白い雷光と化してチェルノボグの懐へと潜り込んだ。


『馬鹿な……! 我が領域のエネルギーを、力づくで相殺したというのか!?』


カザコフの驚愕に満ちた声が通信回線を震わせる。だが、もう遅い。

俺の視界には、限界まで開放され、無防備に赤黒い輝きを放つレグナの炉が、大写しになって捉えられていた。


「死に晒せェェェッ!!」


俺は操縦桿を限界まで押し込み、アルテミス・レイの大剣を突き出した。

推進器の全出力を上乗せした一撃が、空間の抵抗を切り裂き、チェルノボグの胸部装甲の隙間へと正確に突き刺さる。

金属が激しく軋み、削れる狂気的な衝撃がコックピットを通じて俺の全身に伝わってきた。大剣の刃が、あの禍々しい黒き炉の(コア)へと到達する。次の瞬間、内蔵されたマシンガンが至近距離から一斉に火を噴いた。

装甲の内部で、連続する爆音と衝撃がカザコフの巨躯を内側から食い破っていく。


『おのれ……不朽の死神……! だが、我が命が潰えようとも、アルテミシウムによる火種は消えんぞ……!』


カザコフの呪詛のような断末魔とともに、チェルノボグ・レグナの巨体が内側から強烈な赤黒い光を放ち、膨れ上がった。


「リーカス、下がれ! 炉が暴走するぞ!」


ユウマの鋭い声が響くと同時に、俺はレイの反転スラスターを最大出力で点火した。大剣を引き抜き、急制動で後方へと退避する。

直後、漆黒の宇宙空間に、すべてを呑み込むような巨大な大爆発が巻き起こった。

チェルノボグだった鉄の塊が、赤黒い光の奔流とともに塵へと変わっていく。その爆風に煽られながらも、俺とユウマの機体は、なんとかその破壊の渦から離脱することに成功した。

息が荒い。心臓が痛いほどに脈打っている。

警告音は消え、静寂を取り戻したコックピットの中で、俺はゆっくりとシートに身体を預けた。


『……やったな、リーカス』


ホロ・モニターに映るユウマが、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。その表情には、戦場を支配する「穢喰の神」としての誇りと、生き残ったことへの確かな喜びが滲んでいた。


「ああ、お前のおかげだ、ユウマ」


『俺たちの歩む先に、きっと新しい時代が来る!また基地で会おう!相棒』


変に自信の満ちた通信が切れ、アルテミス・ノヴァがゆっくりと反転して基地への帰路につく。

俺もその後を追うように操縦桿を傾けた。


(生き残った……)


張り詰めていた緊張が解けると同時に、凄まじい疲労感が押し寄せてくる。だが、俺の胸の中にあるのは、これまでのような虚無感ではなかった。

待たせている。あの小さな部屋で、俺の帰りを。

操縦桿を握る手の震えが止み、俺はアルテミス・レイを月面基地へと加速させた。

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