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死神機兵の太陽戦争-煉獄のプロミネンス-  作者: 小説書こう


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39話混迷のドック防衛戦

 熱によって歪んだホテルの扉を蹴破った瞬間、肌を焼く熱気と不快な硝煙の臭いが俺たちを襲った。

 眼下に広がる帝都は、数時間前までの整然とした軍事国家の姿から完全に変貌していた。

 炎上する装甲車、道路を急造のバリケードで封鎖する兵士たち。そして、同じプロイセン軍の制服を着た者同士が、至近距離で激しい銃撃戦を繰り広げている。

 王政派の白い腕章と、改革派の黒い腕章が、夜の街のあちこちで入り乱れていた。


「同じ国の軍隊が……内の中から喰らい合っているのか……」


 思わず漏れた俺の声に、カインがいつもより一段低い、苦い声を重ねる。


「内戦ですよ、レン。しかも、かなり前から綿密に準備されていたのでしょう。通信網の遮断、同時多発爆破、各主要拠点への迅速な部隊配置……ハインツ一人の思いつきにしては出来が良すぎます」


 その時、遠方の第一ドック周辺で一際巨大な爆発が起きた。

 夜空へ不吉な黒煙が立ち昇ると同時に、カインの端末から耳を劈く緊急警告音が鳴り響く。画面をタップすると、ノイズ混じりの銃撃音に包まれたエルザ部隊長の姿が映し出された。


『アザレアの諸君! ドック前の防衛線が突破されるわ! 今、キリアン少佐が単機で敵の猛攻を食い止めてるの! 急いで! あなたたちの機体が過激派に奪われたら、本当にすべてが終わるわ!』


「行くぞ!」


 俺たちはアザレアの部下たちを率い、炎に包まれた市街地を全速力で駆け抜けた。

 道中、市民を必死に避難させようとする王政派の兵士と、それを冷酷に銃撃する改革派の部隊が至る所で衝突していた。世界最強の一角と謳われたプロイセンの規律は、今や見る影もなく真っ二つに割れていた。

 やがて、目的地の第一ドック前に広がる巨大な広場へ飛び出した瞬間、俺は激しい駆動音に思わず目を見張った。

 そこでは、一機の青灰色の人型兵器が、十数機もの敵機に包囲されながらも、圧倒的な練度で暴れ回っていた。

 キリアン・クラウゼ部隊長の機体、ヴィルトファング

 流れるようなステップで敵の包囲網を嘲笑うようにすり抜け、至近距離でビームブレードを閃かせて敵機の腕を斬り飛ばす。直後、振り向きざまに汎用マシンガンを正確無比に掃射し、背部スラスターの機動力を活かして肩部ミサイルポッドをバラ撒き、瞬く間に複数の敵を無力化していく。

 その一挙手一投足は、まるで戦場というチェス盤を心から楽しんでいるかのようだった。


「これが……プロイセンの天才……!」


「噂以上ですね。特定の距離を持たない、純粋な操縦技術の怪物ですか」


 カインが目を細める。しかし、そのヴィルトファングも無傷ではなかっ

 た。左肩の装甲は大きく抉れ、背部スラスターの一基からは激しく火花が散っている。

 そしてヴィルトファングの正面、瓦礫の影から音もなく姿を現したのは、漆黒の隠密機ナハト・イェーガー。ディートリヒ・バウアーの機体だった。その長大なレールガンの砲身が、正確にキリアンのコックピットを捉える。


「キリアン。お前は強い。持たざる者たちの障害になるほどにな。……だからこそ、ここで排除する」


「ははっ。カタブツのシュミットに続いて、お前までそんな暗い顔で俺に愛の告白かい? 褒め言葉として受け取っておくよ、ディートリヒ!」


 次の瞬間、ナハト・イェーガーの輪郭が歪み、その姿が完全に空間へと消え失せた。


「光学迷彩……! レーダーも捕らえきれません!」


 カインが叫ぶのと同時に、俺の戦闘直感が過敏に反応した。


「右だ!」


 俺は反射的に広場脇に放棄されていた固定式の対空機関砲のシートへ飛び込み、強引に起動させた。砲塔を斜め右の「何もない空間」へと旋回させ、全力でトリガーを引く。

 激しい弾の嵐が夜空を切り裂いた。

 狙い通り、虚空で激しい火花が散り、強烈な打撃に耐えかねたナハト・イェーガーの輪郭が揺らぎ、その漆黒の姿が引き摺り出される。


「なっ……ヒノモトの、小僧か……!?」


 ディートリヒが一瞬だけ操作を鈍らせた。その刹那の隙を、戦場の天才が見逃すはずがなかった。


「助かったよ、アザレアのエースくん!」


 ヴィルトファングのアルテミシウム炉が最高出力を叩き出し、一気に加速する。

 夜霧を引き裂いて走った真紅のビームブレードが、ナハト・イェーガーの右肩のジョイントを正確に一閃した。金属の断裂音と共に、長大なレールガンを握ったままの右腕が根元から切断され、地面へと虚しく突き刺さる。


「ぐっ……機体出力低下、光学迷彩機能不全か。キリアン、今日のところはここまでにしてやろう」


 ディートリヒは即座にバックスラスターを点火し、駆動煙の向こう側、暗い夜霧の中へと姿を消した。


「今のうちです! 二人とも、早く機体へ!」


 駆けつけてきたエルザが、銃撃を交わしながら格納庫のハッチを指し示す。

 俺とカインはアザレアの部下たちを引き連れ、ドックの内部へと滑り込んだ。

 白煙が立ち込めるドックの最深部。そこには、完璧なフルスペックへと修復されたセンコクとスクナビそして、部下達の機体が、かつての威容を取り戻して鎮座していた。

 傷一つない深紅の装甲、完全にオーバーホールされたフレーム。コックピットのマルチモニターには、すべてのシステムが「ALL GREEN」を示して明滅している。


「本当に直したのか?……短時間で、これほどの精度で……」


「だから言ったでしょう?」


 背後から滑り込んできたエルザの機体が、ライフルを構え直しながら通信越しに不敵に笑う。


「プロイセンの技術を舐めないでってね!」


 しかし、その誇らしげな声は、次の瞬間にもたらされた奈落の轟音にかき消された。

 基地全体が天を仰ぐような大爆発。ドックの隔壁がひしゃげ、激しいサイレンが鼓膜を打つ。


『警告。上空より大型高出力兵装反応接近』


 直後、激しい破壊音と共にドックの頑強な天井が丸ごと吹き飛んだ。

 降り注ぐ鉄骨と瓦礫を突き破って、上空から質量兵器のように着地したのは、一機の巨大な重装機兵だった。


「ハハハハハ!! ぬくぬくと眠れたかぁ、ヒノモトのガキどもォ!!」


 コックピットのスピーカーから、鼓膜を狂気で震わせる笑い声が響く。ハインツ・ケラーだ。

 だが、その姿は先ほどまでのものとは根本から異なっていた。

 全身を覆う重厚な追加複合装甲。両肩にはそれぞれ数十発の弾頭を覗かせる超大型ロケットポッド、そして背部には戦艦の主砲クラスの巨大面制圧ランチャーが鎮座している。それはかつての機体としての面影を捨て去った、街一つを文字通り地図から消し去るための「異形の移動要塞」だった。


「地獄の祭りの時間だァ!! まずはその小綺麗なドックごと、自慢の機体ともども肉片に変えてやるよぉぉ!!」


 ハインツの機体から、容赦のない巨大なロケット弾頭群が一斉に放たれた。狙いは、まだ起動前であるはずのセンコクとスクナビ。


「――させるかぁぁぁ!!」


 俺はハッチの階段を跳び越え、センコクのコックピットへ滑り込むと同時に、メインコンソールの強制起動スイッチを拳で叩きつけた。


「回れ、アルテミシウム……!!」


 ドクン、と機体が脈打つ。

 新生したセンコクがドックの床を粉砕しながら立ち上がった。視界を埋め尽くす飛来する巨大な弾頭群。避ける猶予はない。

 俺は操縦桿を限界まで押し込み、センコクの頑強な右拳を、その最大質量をもって前方へと全力で振り抜いた。

 至近距離での大爆発。

 轟音、爆炎。すべての光が白く染まり、ドック全体を焼き尽くすほどの強烈な衝撃波が吹き荒れる。

 やがて、猛烈な爆煙がゆっくりと晴れていく。

 そこには、右腕の装甲を黒く焼け焦がし、内部フレームから火花を散らしながらも、一歩も退かずに大地を踏み締め続けるセンコクの姿があった。


「ほう……あれをまともに受け止めて、まだ動くか。やはりお前の機体、最高のおもちゃだなぁ、レンんん!!」


 ハインツの狂った笑みが再び響き渡る。

 俺は機体の焼け焦げた右拳を、軋む音を立てながら、ゆっくりと、しかし確実に握り締めた。冷徹な怒りが、全身の血を沸騰させる。


「今度は逃がさない」


 モニターの奥のハインツを見据え、俺は冷たく言い放った。


「ハインツ・ケラー……ここで、お前を潰す!」


 燃え盛るプロイセンの夜空の下、5人の部隊長たちの信念が交錯する、極限の死闘がここに幕を開けた。

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