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死神機兵の太陽戦争-煉獄のプロミネンス-  作者: 小説書こう


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37話二つの視点

「チッ……ここまでか。だが、我がプロイセンの鉄の意志は折れん……!」


 捨て台詞を残し、機能停止した機体からハインツの緊急脱出ポッドが夜空へと鋭く射出されていく。それを見送りながら、私はふぅと大きく息を吐き、ニルヴァーナの刀をゆっくりと鞘へと収めた。

 戦場には、一瞬の静寂が訪れる。

 火を吹く基地の残骸。立ち込める硝煙の向こうで、限界を迎えて膝をつくエース機と、それを肩で支える副官らしい機体が、じっとこちらを睨みつけていた。


「ハァ……ハァ……。ソ連の、骨董機……」


 通信回線から聞こえるエースの声は、怒りと疲弊で激しく震えている。機体各部からパチパチと火花を散らしながらも、エースの単眼状のメインカメラは、まだその奥で執念の光を失っていなかった。


「お前たちが……アルテミス・レイを操り、この世界を弄んでいるんだな……! 答えろ!」


「だからー、それは違うって言ってるでしょ。人の話を聞かないのは、さっきの狂犬だけで十分!」


 私はコックピット内でため息混じりに肩をすくめる。けれど、アザレアのエースの耳には届かない。彼は残された右腕の拳を固く握りしめ、強行軍とハインツの猛攻で焼き切れかけた駆動系を、その凄まじい意志の力だけで強引に再起動させた。


「問答無用だ……! 10年前の真実も、お前たちの企みも、その機体をねじ伏せてすべて吐き出させてやる!」


「レン、無茶です! 出力がもうレッドゾーンを越えている!」


 カインの制止を振り切り、センコクが地を蹴った。ボロボロの巨体が、執念だけで私へと突進してくる。同時に副官も、相棒を一人で死なせるわけにはいかないとばかりに、レイピアを構えて追従してきた。


「しつこい男は嫌われるよ!」


 操縦桿を軽く傾け、ニルヴァーナの推進器を最小限に吹かした。正面から突っ込んでくるセンコクは前のめりになり、拳を私に突きつける。それを滑るようなステップでその懐へと潜り込む。

 すれ違いざま、私は刀を抜かず、ニルヴァーナの「鞘」の重厚な側面で、センコクの側頭部、メインセンサーの周辺を正確に、決定的に強打した。

 鈍い金属音が響き、センコクの視界映像が激しく乱れる。


「が、は……っ!?」


「はい、おやすみなさい」


 バランスを崩したエースの背後に回り込み、その膝裏の駆動節を軽く蹴り抜く。すでに限界を迎えていた赤き機体は、今度こそ完全に動きを止め、その場に崩れ落ちた。メインシステムが沈黙し、コックピットの強制ロックがかかる。


「 貴様……っ!」


 副官がが必死の形相でレイピアを突き出してくるが、私はその鋭い刺突をニルヴァーナのビーム鞘で軽くいなし、その勢いを利用してスクナビの機体を後方へと押し流した。


「あんたたち、状況を冷静に見なさいよ。これ以上やっても、お互い無駄に機体の駆動系を消耗するだけでしょ?」


 私がそう言い放ち、次の一手をどうするか考えた、その瞬間だった。

 遠くの山道から、無数の激しいライトの光が夜霧を割って近づいてくるのが見えた。

 地響きのようなエンジン音。それは、ハインツの暴走を聞きつけて急行してきた、プロイセン王国軍の「本隊」だった。

 大型の装甲車、サイドカー付きの軍用バイク、そしてプロイセンの制式人型機兵群が、瞬く間にこの荒れ果てた戦場を包囲していく。その数、数十機。いくら私のニルヴァーナが万能機だとしても、ハインツとの戦闘直後にこれだけの正規軍を相手にするのは分が悪い。


「はあー、お迎えが随分と早いじゃん」


 私は即座に上空のバヤールへと通信を入れた。


「タチアナちゃん! プロイセンの本隊が来ちゃった。予定変更、すぐにここから離脱するわ! フックを降ろして!」


『了解しました、アイ。バヤール、目標ポイント上空へ静粛移動。回収用ワイヤーランチャー、射出します!』


 直後、厚い雲を割って、巨鯨のような戦艦バヤールの船体が姿を現した。バヤールの底部から、激しい勢いで数本の頑強な回収用高張力ワイヤーと、機体を固定するための大型フックが撃ち降ろされる。

 私はニルヴァーナの腕を伸ばし、降下してきたフックを的確にキャッチして自機の胸部固定マウントへとロックした。


「待て……! 逃げる気か、ソ連の……骨董機!」


 地べたからセンコクのハッチを強引に開け、身を乗り出したレンが悔しそうに夜空を見上げて叫ぶ。カインが慌ててそれを引き止め、プロイセンの装甲車が彼らの元へと駆け寄っていくのが、上昇していくニルヴァーナのモニター越しに見えた。


「バイバイ、ヒノモトのエースさん。また近いうちに会うかもね」


 私は小さく手を振ると、ニルヴァーナの出力を上げてバヤールの格納庫へと一気に巻き上げられていった。重々しいハッチが閉まり、プロイセンの戦場が視界から消える。悔しいけれど、アルテミス・レイのGPS信号は確かにこの手で掴んだ。次のチャンスは必ずモノにしてみせる。




 激しい戦いが終わり、プロイセンの山岳基地には冷たい夜霧と、焦げ付いた硝煙の臭いだけが立ち込めていた。

 俺のセンコクは駆動系が完全に焼き切れ、白煙を上げながらその場に膝をついている。カインのスクナビに肩を支えられなければ、コックピットから這い出ることもままならなかった。地面に降り立ち、泥と煤にまみれた膝をつく。悔しさと、限界を迎えた身体の疲労で、視界が激しく歪んでいた。


「なんなんだ、あいつらは……!」


 脳裏に焼き付いているのは、宇宙へと消え去ったあの純白の魔機『アルテミス・レイ』と、俺たちをボロ雑巾のようにあしらっていったソ連の藍色の骨董機。

 その時、夜霧の向こうから無数の激しいライトの光が差し込み、重厚なエンジン音が近づいてきた。ハインツの暴走を聞きつけて急行してきた、プロイセン王国軍の本隊だ。装甲車から一人の将校が降り、規律正しい足取りで俺たちの元へと歩み寄ってきた。


「ヒノモト大連邦、特務部隊『アザレア』の諸君とお見受けする。私はプロイセン王国軍、部隊長が一人、シュミットだ。……災難だったな」


「シュミット、殿……」


 俺は痛む拳で地面の泥を強く叩いた。


「申し訳ありません……我々の力及ばず、アルテミス・レイを、そしてソ連の機体を取り逃がしました……!」


 日常を奪ったあの怪物に、あと一歩で手が届くところだったのに。またしても俺は何もできなかった。奥歯を噛み締める俺の代わりに、カインが一歩前に出て、冷静さを保ちながらシュミットを見据えた。


「シュミット殿。先ほど我々を急襲したハインツ・ケラー隊長についてですが。彼は我々をソ連の謀略者と断定し、問答無用で抹殺しようとしました。これはヒノモト大連邦に対する、明確な反逆行為と捉えてもよろしいのですか?」


 カインの声には、いつになく鋭い響きがあった。プロイセンの対応次第では、連邦との国際問題、ひいては軍事制裁にまで発展する。

 シュミット殿は帽子を深くかぶり直し、重いため息をついた。


「……弁明の余地もない。ハインツ・ケラー部隊長の暴走は、完全に我が軍の統制を逸脱したものだ。彼はかねてより、連邦との関係に対して過激な思想を抱いていた。今回の件は、我がプロイセン王国としても決して見過ごすことはできん」


 シュミット殿は、俺の肩に静かに手を置いた。


「安心されよ、アザレアの諸君。君たちの身の安全は、我が本隊が責任を持って保護する。機体の回収と整備も我が方のドックで行おう。そして、先ほど脱出したハインツ・ケラーについては、すでに我が方の憲兵隊が身柄を確保すべく動いている。彼は本国へと強制送還され、軍事法廷にて厳重な処罰を下すつもりだ。我が国は、決して連邦との盟約を(たが)えるつもりはない」


 隣でカインが安堵の息を漏らすのが分かった。だが、俺の胸の奥で燃え盛る炎は、そんな言葉では1ミリも消えはしなかった。俺はただ静かに、あの藍色の機体と白い悪魔が消え去った、暗い夜空を睨み続けていた。


「処罰など、どうでもいい……」


 喉の奥から、呪詛のような声が漏れ出す。


「ソ連のあの藍色の機体……。中心たるアルテミス・レイ。俺は、絶対に奴らを許さない。この命に代えても、必ず引き摺り下ろしてやる……!」


 再び立ち込める夜霧の中、俺は心に深く誓った。傷ついたこの身体が癒え、センコクが再び立ち上がるとき、それが奴らの最後だ。歪んだ運命の歯車がどれだけ狂おうと、俺の復讐の炎だけは決して消えない。

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