34話襲撃のプロローグ
レン・カンザキの部下、カインがアルテミス・レイの次なる襲撃地点を予測するその中、カインの予測を裏切るように漆黒の宇宙を裂くように、《アルテミス・レイ》は地球へと降下していた。
大気圏へ突入した瞬間、本来であれば超高速との摩擦熱で機体は灼熱の火球へと変わるはずだった。しかし、純白の装甲は赤く焼けることも、溶けることもない。機体を包む禍々しいヘリオスフィアの輝きが熱そのものを喰らっているのか、それとも機体に眠るリーカスの微かな意志が、なおもその身を守り続けているのか。その真実を知る者は、誰一人として存在しなかった。
《アルテミス・レイ》が目指す先——それは、プロイセン王国。
とてつもない陸軍力を誇る、鉄と規律の軍事国家である。
かつて「軍隊を持つ国家ではなく、国家そのものが軍隊である」とまで称されたその気風は、現代に至るまで色濃く受け継がれていた。国民は幼い頃から規律と責任を叩き込まれ、街は寸分の乱れもなく整備され、王都の至る所には要塞化された軍事施設がそびえ立つ。兵士は王国最高の名誉職とされ、世界最高峰の士官学校からは、幾多の名将と優秀なパイロットが送り出されてきた。
ヒノモトが《アルテミシウム・ノヴァ》によって技術革新を遂げ世界覇権を握った今なお、プロイセンは決してその牙を失ってはいない。
最新鋭の人型兵器、堅牢な要塞都市、そして世界最強と謳われる機甲軍団。その圧倒的な陸戦能力から、各国はプロイセンを「鋼鉄の王国」と畏怖を込めて呼んでいた。
だが、その誇り高き王国にも、決して表には語られぬ深い亀裂が走っていた。
ヒノモトへ屈した以降、国王を中心とする王政派と、「このままでは国は滅ぶ」と主張する軍部改革派との対立は年々激化していたのである。表向きには強固な軍事国家を装いながら、その内側ではいつ内戦が勃発してもおかしくないほどの緊張が渦巻いていた。
そして今、その均衡を打ち砕くかのように、一筋の漆黒の流星が王国へと迫っていた。
それこそが《アルテミス・レイ》。
世界を恐怖へ陥れた純白の死神が、今まさに鋼鉄の王国へ降り立とうとしていた。




