25話ルナティクス・ドライブ
前方を突き進むユウマの《ノヴァ》が放つ白銀の推進光は、みるみるうちに小さくなっていく。
これ以上の加速は不可能とアルテミス・レイの計器はすべて限界値を指し、警告のアラームすら熱波で歪み始めていた。
「追いつけない……!」
俺は歯を食いしばり、絶望的な距離の差を前にして悟る。まともな手段では、あの天才の背中を捉えることすら叶わない。
ならば、選べる道は一つだけだった。
「これしか……ないッ!」
俺は操縦桿のセーフティを跳ね上げ、自機の武装であるはずの『エッジ・シャード』を展開させた。しかし、それを敵に向けるのではない。アルテミス・レイの両翼から放たれた極大の刃を、機体の背部スラスターへ自ら深く突き刺した。
自傷行為に等しい衝撃がコックピットを襲う。エッジ・シャードのスラスターで制御を失った爆発的な推進力が、アルテミス・レイを空間ごと前方へと狂暴に押し出した。機体のフレームが悲鳴を上げ、装甲が融解を始めながらも、その速度はユウマの《ノヴァ》すら凌駕する。
『なに……!? 機体を自壊させながらの強制加速!?』
バックミラーで異形の大加速を捉えたユウマの声に、初めて驚愕が混じる。
まばたきの一瞬の後、リーカスは《ノヴァ》の真横へと並び、そして肉薄していた。
「ユウマアアアッ!」
俺はは狂気的な加速の勢いのまま、近接大剣『ルナティクス』を起動し、斜め上から《ノヴァ》へと斬りかかる。ユウマも咄嗟に、機体に備えられた高出力レーザーソードを抜刀し、それを迎え撃った。
白炎のコロナの只中、互いの刃が激しくかち合い、凄まじいプラズマの火花が飛び散る。
二機は互いのブレードを噛み合わせたまま、火花を散らし、超高速で並走する。押し引きの刹那の攻防。電磁ノイズの嵐の中で、お互いのシステムが限界を超えて火花を吹く。
その時、二機の眼下に、求めていた「それ」が姿を現した。
狂暴にうねる太陽のプロミネンスの底、空間そのものがねじ曲がったかのような中心地に、それはあった。光をも吸い込むような、不気味に明滅する「赤黒い球体」。かつて宇宙飛行士が観測した、未知のエネルギーのコアだ。
『あのエネルギーは、世界を正しい軌道へ戻すために僕が回収する!』
ユウマのレーザーソードが鋭く押し込まれる。だが、俺ははここでさらに出力を逆噴射させ、あえてルナティクスを強引に滑らせた。機体の装甲を削られながらも、一瞬の隙を突いて《ノヴァ》の懐へと潜り込む。
「させるかよ……っ!」
激しい衝撃とGの中、アルテミス・レイの右腕が、白炎に抗うようにして伸ばされる。
刹那の攻防。ユウマのブレードが迫るよりも早く、アルテミス・レイのマニピュレーターが、その赤黒い球体を力任せに鷲掴みにした。
掴んだ瞬間、俺の脳内に、言葉ではない「何か」が直接流れ込んできた。
凄まじい情報の奔流。まるで取り憑かれたかのように、俺はそのエネルギーをどう扱えばいいのか、その肉体と感覚が完全に理解していた。
「……これを開く。俺たちの、未来のために!」
俺は掴んだ赤黒い球体を、躊躇なくアルテミス・レイの胸部へと強引に押し込んだ。装甲が内側から弾け飛び、機体の心臓部である『アルテミシウム炉』の内部へと、その未知のエネルギーが完全に融合していく。
その頃、遥か後方に位置する特務艦バヤールのブリッジ。
激しい電磁嵐によって、リーカスたちのホログラムモニターは完全にブラックアウトしていた。
「リーカスおじさん……!」
アイは、祈るように両手を胸の前で握りしめ、ただ太陽の白炎を見つめていた。
通信は途絶え、機体のバイタルデータも届かない。それでも、胸の奥が張り裂けそうなほどの不安と、何かが動き出そうとしている不穏な予感が、彼女の全身を支配していた。
「お願い、無事でいて……。リーカスおじさん……!」
アイの悲痛な祈りは、荒れ狂う太陽のノイズの中へと、静かに吸い込まれていった。




