26話神域の残光
未知のエネルギーコア『赤黒い球体』をアルテミシウム炉に融合させたアルテミス・レイ――俺の愛機の姿はすでに、人知を超えた異形のものへと変貌していた。
装甲の隙間から溢れ出るのは、太陽の白炎すら圧倒する、禍々しくも神々しい漆黒と深紅のエネルギーの波動。
『そんな……馬鹿な!?』
ユウマの《ノヴァ》のコックピットに、あり得ない数値の警告サインが乱舞しているのが、通信越しでも容易に想像できた。
驚愕するユウマの目の前で、俺はただ、自機の右腕を静かに一振りした。
ただそれだけの動作だった。
しかし、アルテミス・レイの手のひらから放たれたのは、空間そのものを消滅させるかのような、圧倒的な炎の奔流だった。
「な……ッ!?」
ノヴァの装甲も、この一撃の前には紙切れ同然だった。
まともに直撃を受けたノヴァは、一瞬にして四肢の装甲を吹き飛ばされ、主推進器の半分を喪失。機体システムは一気にレッドゾーンへと叩き落とされる。手を振るう、ただそれだけの質量を持たない攻撃で、ヒノモト最高峰の機体が瞬く間に大破へと追い込まれたのだ。
爆煙の向こう、深紅の光をまとう俺の愛機が静かに佇む。
『……くっ、これは、神の領域の力なのか……!?』
ユウマの、操縦桿を握る手の震えが伝わってくるようだった。圧倒的な力の差。天才と称された彼でさえ、今の俺には逆立ちしても敵わないと、本能が理解したのだろう。
「ここまでだ、ユウマ。これ以上やるなら、次でお前の機体は塵になる」
俺の静かな声が通信を満たす。
ユウマは屈辱に唇を噛み締めながらも、ボロボロになった《ノヴァ》の残された推力を絞り出し、反転した。もはや、作戦続行は不可能。彼は自らの敗北を認め、命からがら『アマノトリフネ』へと撤退していった。
俺はその背中を追わなかった。これ以上の無意味な破壊は、俺の望む未来には必要ないからだ。
「……終わったよ、みんな」
アルテミス・レイをバヤールの方角へと向け、俺は静かにスロットルを傾けた。
特務艦バヤールの格納庫に、満身創痍の、しかし圧倒的な威容を誇るアルテミス・レイが帰還した。
機体の動力炉を切ると、機体から放たれていた赤黒い光も消え去った。
ハッチを開け、コックピットから俺が這い出てくると、そこには割れんばかりの歓声が待っていた。
「リーカスおじさん!!」
真っ先に駆け寄ってきたアイが、涙を浮かべながら俺の体に飛びついてくる。
「よく生きて戻ったな、小僧!」
「ハッ、大した大金星じゃねえか」
生身での死闘から一足先に帰還し、治療を受けていたザンギエフたちがボロボロの身体を揺らしながら最高の笑みで出迎えてくれた。どうやらゴウダ大佐とかいう奴らを退けてくれたようだ。
艦内のクルーたちも、互いの肩を叩き合い、勝利の興奮に沸き立っている。
かつてない極限の危機を、全員の絆と執念で乗り越えた。
バヤールの格納庫は、生き残った戦士たちを温かく讃え合う声で、満たされていた。




