そのときは、私のお婿さんになれば良いよ
ーーほ、本当に引っかかってらァ。
一方。
『神待つ者たち』の本当の教主……白永墨斗から使命を預かっている戸積は、佳太達の尾行に気付き、頭を抱えたい気分だった。なんつーわかりやすい尾行。
戸積は短気な人間である。だからこそ、前の世界でも、国家権力に喧嘩を売って殺されたらしいのだが……この状況は、非常にやりにくい。
殴るのも蹴るのも禁止されている。戸積にできるのは、せいぜい囮くらいである。
……そう、戸積は、そのときまで、彼らを惹きつけておくようにと、命じられているのだ。
ーーなんか面白いことが起こるからって、何が起こるっていうんだ……?
「大学って、何号館まであるんだろうな……」
俺たちが通っている高校の比ではない。人、人、人ばかりで、圧倒されてしまう。
「講義のたびに移動しなきゃならないんだろ、大変だよなぁ」
「一緒の講義、とろうね?」
「ううん、俺、東堂さんと同じ大学行けるかな……学力的に」
前の世界の俺がどうだったかは知らないが、今の俺は頭が良いとはお世辞にも言えない。兄貴が通っているこの大学なんて、ジャンプしても入れないのだ。
「ああ、そこらへんは大丈夫だよ」
東堂さんはにっこり笑いながら言う。
「ほら、世間は、学力偏重主義じゃなくなったから。異能のせいでね」
……確かに。
世間では、学力や運動能力よりも、異能を大切にする風潮ができつつある。その証拠に、大学の、事務局の建物の前にある広場の掲示板には、ちらほら“異能”という文字が踊っていた。これが講義だけでなく、サークルや、就職にも影響するのだから、異能というものは恐ろしい。
もっと恐ろしいのは、ついこの間まで未知の力だった異能を、“異能によるカンニングは禁止とします”という注意書きまでに落とし込んでしまう人間なのかもしれないけれど。
俺は、遠い目になってしまう。
「やっぱり、世間は異能なんだよな……どうしよ、どこにも行けなかったら」
なんの能力も持たない俺は、果たして進学できるのか、不安になってきた。と、ぽん、と肩に置かれる、東堂さんの手。美しい歌のような、東堂さんの声。
「そのときは、私のお婿さんになれば良いよ」
「ヒモだろ、それは」
俺はもっと勉強を頑張ることに決めてーー学校を現在進行形でサボっていることに気付いた。や、やっぱり土日にすればよかったか? でも、大学の土日ってあんまり講義ないイメージ……兄貴も家にいる気がするし。
「あ、佳太君。戸積、教務課に行くみたいだよ」
ちょうどガラスの扉を開けて、戸積が教務課に入っていく。俺たちは、広場のベンチに座りながらこそこそ話し合う。
「何しにいくんだろうね?」
「んー……学生証の紛失、再発行と、書いてありますね」
手で庇を作ったメイネが、おそらく教務課のカウンターに貼ってある紙の、小さな小さな文字を読み上げる。
俺たちは顔を見合わせる。なんだか気まずい雰囲気が流れていた。
まあ、そりゃそうか。




