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第二十四話  父親

 



 クロコダイル種一派が、何者かに殲滅されたのを知り、様子を見ているのかスネーク種とリザード種は、その後目立った動きはなく、6月の梅雨の時期を迎えようとしていた。


 俺たちは、警戒しながらもいつもの日常に戻っていた。


 戻ってきた森さんは、何もかも忘れていた。

 指で×印を作って、意味を聞いてみたが、なんのことだかさっぱりわからないようだ。

 悲しいかな、俺の事故のことも忘れており、俺たちは接点を失ってしまった。


 これを機に、いろいろと話ができると思ったのにな・・・。

 俺はちょっとだけ残念な気持ちになった。


 でも、元気に毎日登校してきてて、笑顔でみんなと会話している森さんを見ているだけで俺は幸せだった。

 それだけでいい。

 そう思えるようになった俺って、なんかちょっと成長したのかな。


 俺はというと、蓮に勉強を教えてもらうようになり、やり方を変えてから、結構いい感じに成績も伸び、背もついでにちょっとだけ伸びたのだ!!


 ようやく165cmになった。

 昔は、156cmで、女子と同じくらいだった。てか女子の方がでかい人が最近では多いけど。

 このまま、成長期止まらず175cmくらいは行ってほしいなと密に願っている。


 あの戦いが夢だったかのように、穏やかな日常が続いていた。

 でも、心はすっきりとはしなかった。

 蓮が、いつさらわれるかわからない。

 ベガ種を狙う者さえいなくなれば・・・。

 敦の父親のネフィリム王を俺らが倒す・・・。

 蓮や他のベガ種の回復スキルがあるとはいえ、勝算はほんとにあるのだろうか。


 俺がぼーっとそんなことを考えてると、敦が目の前に座ってきて、「どうした?」と声をかけてきた。


「いやー、ちょっといろいろと考えごとしちゃってさ」


「お前にしちゃ、珍しいな」


「俺だって、たまには真剣に考えたりするんだぜ」


「何、考えてたんだよ」敦がニヤニヤしながら聞いてくる。


「勝てるのかなって思って・・・」俺の言葉に、敦の顔から急に笑顔が消えて、真顔になった。


「親父か・・・」


 俺はこくりとうなずく。

 敦が、右手で頬杖をついて、しばらく黙り込む。


「俺は、親父とは会ったことないからな・・・。親父の情報は、全部ロイからの話のみなんだ。

 どれぐらい強いのか・・・正直検討もつかねぇよな。

 最強と言われてるネフィリムを束ねる王だもんな。

 俺が生きていることを知ったら、あいつどう思うんだろうな?

 また、殺しにかかるかな。まあ俺は、迎え撃つけどね」


 そういって、粋がる敦の横顔は少し寂しそうだった。

 親に、存在を否定されて殺されそうになるって、どんなにか辛いことだろうか。

 生きてることすら認めてもらえないなんて・・・。


 敦は何も語らないけど、深い悲しみが伝わってきた。


「勝たなきゃね。勝たないと終わらない」


 俺は、自分に言い聞かせるように言った。


「ああ。勝つしかねぇ、道は」


 と言った瞬間だった。敦の眉間にしわが入り、とても顔が険しくなった。


「どうしたの?」という俺の問に答えず、何かに意識を集中させている。


「クロコダイルの一件が、親父の耳にまで入ってしまったらしい。

 クロコダイル種殲滅の犯人を捕まえるために、スネーク種とリザード種が共同戦線を組んで、親父が恐竜種の説得に、地球まで来る可能性が出てきたらしい・・・。

 いきなりラスボスのご登場かよ。

 あのロイが少し焦ってる。」


 俺は、衝撃の展開に愕然とした。

 遠い先の未来のことだと思ってたのに、まさかの宿敵登場だ。


「ネフィリムって、人間化が難しいって言ってなかったけ?」


 俺は、蓮の言葉を思い出していた。

 地球上にネフィリムは降りてこれないと。


「ああ、それは昔のことでな。最近は、ネフィリムの進化も著しくて、擬態は自由自在だよ。

 だから人化も問題なくできるぜ。地球には今のところ俺とロイしかいないはずだけど。

 ネフィリムもベガと一緒で宇宙では希少種だから人数はそんなにいない。

 宇宙は広いからな、要所要所にネフィリムが数人ずつ散らばってる。」


 てことは、父親がこの地球にやってくるのは避けられないのか。

 また、敦が集中しはじめた。ロイさんとテレパシーで会話している。


「やべーな、すでに地球に来てるらしい。

 俺らの存在までは、ばれてないから安心してほしいって。

ロイがスパイってことも劉さんはもう知ってるし、二人で急いで話の裏は合わせたみたいだけど、今回はロイが仲介人として、親父と恐竜種の仲を取り持つように親父から指示されてるっぽい。」


「なんだか、ロイさんって、超大変な立場じゃない??

 恐竜種を巻き込まないように、親父さん説得して、かつクロコダイル種殲滅の犯人を捕まえようと装わないといけないわけでしょ?もう、何がなんだか。一つでも何か失敗したり、余計なこと言っちゃったらアウトな感じだ・・・」


 俺は、ロイさんの置かれている立場の大変さに同情の念が湧いてきた。

 俺だったら絶対できない。スパイなんて・・・。


 蓮が、図書館から戻ってきて、俺らのところにやってきた。


「どうしたの? 深刻な顔して」


 蓮が、訝し気な面持ちで、話しかけてきた。

 敦が、経緯を説明する。


「――― これは、最大のピンチでもあるけど、最大のチャンスでもあるよね?

 この機会をうまく使って、倒すことができれば・・・。

 そんな大勢のネフィリム引き連れて地球に降り立ってるわけじゃないんだよね?」


「ああ、どうも親父ともう一人いるらしいけど、もう一人のことはロイは誰だか知らないって言ってる。

 あとはレプタリアンの護衛達が数人。まあ、その護衛も王の護衛だからボスクラスだろうけど。

 ネフィリムの精鋭部隊は、みんな他の星の侵略戦争で出払ってるらしい」


敦は、ちょっと間をおいてから、意を決したように話し始めた。


「俺たち3人も一緒にその協議に参加したいところだけど、もしそのまま戦いになだれ込んで、全員捕獲されちまったら元も子もねぇと思うのよ。もちろん、戦いになって勝てれば一番だけど、今回はあまりに準備期間がない。

 作戦立てる暇もなかった。だから、二人に頼みがある。俺だけまず参加させてくれ。恐竜種に擬態して、俺は親父がどんな奴かみてみたい。ロイもそう提案してる」


 蓮の表情は険しかったが、どうしようもない事態であったのは確かだ。

 ネフィリム王とその護衛にスネーク種とリザード種を俺たちとロイと劉さんで片づけるというのは非現実的だった。

 かといって、この機会を単なる恐竜種に対する矛先そらしののためだけとするのは、あまりにももったいない。


 敦の俺たちへの説得は続く。


「時間が欲しいんだ。俺は、アイツがどんな奴なのか知らない。

 会って、確かめたいんだ。迷いはないとか言ってたけど、どうしても気になってんだ。

 全力で、叩きのめす相手なのか。

 自分の目で耳でアイツの本性を見極めてからじゃないと、俺の拳が鈍る気がして」


 敦の気持ちはよくわかった。

 あんな風に強がってはいたけれど、やはり心の中に父親がいたのだ。


「わかった。俺は、敦君の意見に賛同するよ。これは、敦君と父の問題でもあるから。

 俺もずっと気になってたんだ。会ったこともない、話したこともない父親だったとしても、やっぱり敦君のお父さんだから。ちゃんと、敦君の中で整理をつけてほしい。」


 蓮は、悔しかったと思う。最大のチャンスが到来したのに、それをみすみす逃すことに。

 でも敦の父親への思いを優先させた。

 さすがだなと思った。


「俺も、賛成! 敦の目でしっかり確かめてきてほしい。

 ネフィリム王の真の姿を。そして俺たちに伝えてほしい。倒すべき相手で間違いないかどうかを」


 敦は、俺のほうを見て、力強くうなずいた。


「俺、このまま早退する。明日も休むかもしれん。体調不良ってことで、先生に言っといてくれね?」


「了解! 」


 敦は、元気よく教室を飛び出していった。


 ――― このやりとりを最後に、敦がいなくなってしまうとは、俺たちはそのとき夢にも思わなかった。

 なぜ、一人で行かせてしまったのか。


 後悔してもしきれない。


「じゃあな」という一言を残し、走り去っていったときの敦の笑顔が離れない。





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