第二十五話 真相
敦が父親との協議のために、出ていき俺と蓮は、二人残され不安な夜を過ごしていた。
何があってもすぐに動けるように、俺たちは蓮の部屋に集まって待機していた。
これからどんな嵐が待ち受けているのか。
嵐の前の不気味な静けさに、押しつぶされそうになってた。
蓮にも俺の思いが伝わったのか、蓮も不安な思いを口にした。
「もし、ネフィリム王がロイさんの言う通りの人だったとしたら、恐竜種が仲間に加わることを拒否した場合、どんな仕打ちをするのか・・・。クロコダイル種以上に恐ろしいことが待ち構えてるようでならない。
いくら、賢いロイさんでも王の説得は難しいと思う。
すでに、クロコダイル種を殲滅されて、戦闘員が減ってることに相当苛立っているだろうし。
敦君が逆上して、手を出さなければいいけど・・・。」
「そうだね・・・。敦は常に冷静だけど、今回ばかりはお父さんとのことだし、感情のふり幅も大きいだろうね。
せめて、俺だけでも付いていってたがよかったのかな。蓮はネフィリムの標的だから絶対近づいちゃいけないと思うけど。俺は、半人間だし。まあ、俺が一番不安定かもしれないけど。」
俺は、話しながら自分の暴走癖を思い出して、苦笑いしてしまった。
「なにはともあれ、今となってはロイさんと敦と劉さんの交渉術を信じよう。
敦君なら、大丈夫。やんちゃだけど、すごく大人だから。」
蓮が、にっこりと笑いながらそう話した。俺はその笑顔に少し安心した。
しばらく、もし全面戦争になったときはどうするのかを話し合い、
二人で励ましあって、もう寝ようとしていたときだった。
事態が大きく動いた。
ネフィリムのゲートが突然、蓮の部屋の中の空間に開いて、見知らぬ少年が転がり込んできた。
腹部に大きな切り裂き傷があり、黄色い体液がどくどくとあふれ出ていた。
意識ももうろうとしている。
敦になんとなく雰囲気の似た少年だった。
「蓮君! 回復できる?」
「やってみる!」
蓮が、少年を抱きかかえて意識を集中させる。
少年が、白い光に包みこまれた。
相当な傷らしく、蓮ですら回復にてこずっていた。
さらに、回復のパワーを増幅させて、フルパワーで回復を試みる。
ようやく、傷口がふさがり、少年の呼吸が落ち着いてきた。
少年がうっすらと目を開ける。
「あな・・たたちが、兄さんの言ってた仲間? 壮? 蓮・・・? 」
「?!」
俺と蓮は、顔を見合わせた。敦の弟???
「そうだよ、俺は、蓮。こっちが壮。
どうして君はそんな傷を負ってるの? 君のお兄さん達はどうなったの?」
少年は、頭がぼーっとしてるらしく、意識が混濁していた。
「叔父が、恐竜種を虐殺したんだ・・・。兄さんはそれを父がやったと勘違いして・・・。
叔父と兄さんで、父を・・・父を殺したんだ。父は・・・何もしてない・・・のに。
叔父は、その・・あと兄さんを殺そうとして・・・、俺がかばった・・んだ。
兄さんは、ゲートをひらいてくれ・・て、俺はここにきた。
真実を・・・伝えるために・・、何もかも仕組んだのは、叔父・・なんだ・・・。
気をつけて・・・ベガを・・・狙ってるのも叔父だから・・・。」
俺たちは、言葉がでなかった。
あのロイさんが・・・、あのひとが?
信じられなかった。
あの優しいロイさんが。
あの人が・・・。
蓮も顔面蒼白だった。
俺と同じ思いのようだった。
俺は、ロイさんの言動を振り返る。
一体どこから嘘をついてたんだ?最初から?
でも、敦を救い出して・・・、親代わりのように育てて・・・。
「ロイさんは・・・、叔父さんは、敦を息子のようにかわいがってたんだよ!
ネフィリム王が、敦を生まれたときに殺そうとしたから、ロイさんが救ったんだよ!
そのロイさんが・・・そんなこと・・・。」
少年は、首を振る。
「・・・父は・・・、兄にそんなことしてない・・・。
それは、叔父が兄を取り込むための作り話だよ・・・。
兄が、生まれたとき・・・、誘拐・・・されてしまったって言ってた。
ずっとずっと、父は兄を探してたんだ・・・。可哀想な父・・・。
ずっと会いたがっていたのに・・・。」
少年の目に涙があふれる。
「俺だって・・・、ずっと兄さんに会いたかった・・・。
なのに・・・、あの叔父が・・・。すべてをぶち壊したんだ・・・
兄さん・・・もアイツに殺されるかも・・・。」
そういって、嗚咽を上げて泣いていた。
蓮が、少年の頭を抱きしめる。
「俺たちが、なんとかするから。
真実を教えてくれてありがとう。
少し休むんだ。」
そういうと、少年の意識がふっと途切れた。
俺は、何をどうすべきか考えようとしたけど、ロイさんに裏切られたショックで思考が停止していた。
ベガをとらえて、回復力をわが物にしようとしていたのも、3つのレプタリアンを使って、蓮達を捕獲しようとしていたのも、森さんを利用して襲撃させたのも全てはロイさんが仕組んだことで、俺たちに味方のふりをして反撃させたのも全部嘘・・・・あのやさしく誠実さにあふれた素振りは全部演技。
俺たちは、最大の敵を懐にいれて、信じ、頼り、すべてを話してきたのだ。
ロイ・ハートという男の恐ろしさに、心がすっと冷えていく感覚を覚えた。
俺は、がっくりとその場に座り込み、ただただ茫然としていた。
蓮は、違った。
今までにない怒りの籠った鋭い目をしていた。
「許さない・・・。絶対に・・・許さない・・・!」
蓮が初めてこんなにも激しい怒りの感情をあらわにしたのは、初めてだった。
怒りで、拳が震えている。
蓮の体の周りから、青白い炎がゆらめき始めた。
目を閉じて、何かに集中しているようだ。
俺は、その様子をただただ見つめていた。
そして、俺がさらに驚いたのは、蓮の後ろの窓の向こうに、あのロイさんが立ってこちらを見ていたのだ。
「ロイさん!!!!!!」
俺が叫ぶと、蓮が振り返り、ロイさんを拘束しようと手をかざした。
「やめなさい。」
ロイさんが、にこやかに笑っていた。
「敦がどうなってもいいのかな?」
それを聞いて、蓮も俺もはっとなった。
「敦のおかげで、あの兄をなんとか倒すことができたよ。
二人がかりでやっとだった。
敦は、本当に素直で、純粋で・・・本当に扱いやすい子だったよ。
恐竜種が全滅しているのを見せたら、あっという間に火がついてね。
単純というか、馬鹿というか。
あまり賢くなくて、ラッキーだったよ」
俺は、また暴走しそうになった。
感情が・・・ありとあらゆる感情が一気に押し寄せてきて、この目の前の男を殺したい。
すべての元凶のこの男を・・・!
俺の周りに黒い炎が、ゆらりゆらりと立ち上っていく。
「おっと、壮君。その炎で私を締め上げるのは勘弁してくれ。
もし、そんなことしたら敦はどうなるかな?
私しか知らない場所に隔離しているからね。
私からの要求は、こうだ。
蓮君、敦とひきかえに、君と君の同胞すべての情報を私によこしなさい。
そうすれば、敦を解放するよ。
もう要はないからね。
これからは私はネフィリムの王として、すべてを支配する。
ついに、ようやくこの日がきたんだよ。」
ロイさんの表情は、穏やかだけれども目は狂気に満ちていた。
「どうせ、引き換えたとしてもあとから皆殺しだろ?
あんたのやりそうなことだ!」
俺は、ロイさんをにらみつけて叫んだ。
「さあ。それはみなの出方次第だよ。
壮君の時間操作と無効化能力も気になるところだけどね。
人間も研究対象に組み入れるかな。君は、格別にいい実験材料だ」
ニヤニヤとロイさんが、笑う。
「ひとまず、選択肢はないとは思うが、時間をあげよう。
心を決めなさい。
答えが延びれば延びるだけ、敦の命のともしびが消えていくと思ってほしい。
では。答えがきまったら、私を呼び出すがいい。」
そう言い残して、ロイさんはゲートの向こうに消えた。
最後の戦いが始まる。
心はすでに決まっていた。




